一般論は概ねマジョリティを形成している。プロサッカー選手への道で言えば、概ね二つのルートがマジョリティです。
一つは、高校か大学まで校内サッカー部に所属しJリーグのクラブに加入。
もう一つは、Jリーグクラブの下部組織に入団しトップチームに昇格。
その上で海外移籍となると、Jリーグで活躍し、海外クラブからのオファーにより移籍が最も一般的です。
この一般論を度外視して、Jリーグ経験無く、海外クラブに加入している日本人サッカー選手も存在しています。
数少ないJリーグ未経験ながら海外クラブに挑んでいる日本人選手をご紹介致します。
高校からプレミアリーグのビッグクラブに加入した宮市亮選手
筆頭はやはりこの人において他なりません。宮市亮選手です。現在は、ドイツ2部リーグのFCザンクトパウリに所属しています。
センセーショナルな海外クラブへの入団でした。U14から各年代別日本代表に選出されていた宮市選手は、中京大学付属中京高校卒業と同時にプレミアリーグのアーセナルからオファーを受け入団したのです。
Jリーグ未経験の日本の高校生を、プレミアリーグ優勝経験のある世界的なクラブが獲得したのですから、ニュースにならない訳がありません。
然し、このセンセーショナルな世界的クラブへの入団が、宮市選手のサッカー人生にとって良かったとは言い切れない結果となった事は否めないのです。
イングランドで外国人がプロサッカー選手としてプレイするには、厳格な基準が設けられているイギリスの就労ビザを取得しなければなりません。
最も必要な事は国籍国での代表経験です。Jリーガーでもなく、A代表にも選出された経験の無い高校生である宮市選手に、就労ビザは降りません。
この場合は、契約自体が破談になるか、他国クラブへレンタルに出されるか否かの選択肢しかありません。
宮市選手の場合は後者が適用になり、アーセナル所属のままオランダのフェイエノールトに期限付き移籍します。
翌年、アーセナルが特別申請した事により就労ビザが例外的に認められますが、宮市選手は怪我に悩まされてアーセナルで活躍ができませんでした。
その後、プレミアリーグの、ボルトン、ウイガンに期限付き移籍した後、オランダのトゥエンテに期限付き移籍し、結果2015年にアーセナルから契約解除されてしまいます。
プレミアリーグのビッグクラブへの移籍というセンセーショナルな入団とは裏腹に、イギリス特有の就労ビザ制度と、自身の怪我の連続により、期待された活躍はできずに、2015年ドイツ2部リーグのFCザンクトパウリに完全移籍して現在に至っています。
2012年にはA代表にも召集されて将来を嘱望されていた選手でしたが、期待された活躍ができず、現在では報道される機会も無くなってしまいました。
東欧に多く所属している傾向
Jリーグからヨーロッパ主要リーグのクラブへ移籍した選手でさえ、レギュラーを獲得して活躍する事は至難の業ですから、学生からいきなり海外クラブでプロサッカー選手として結果を残せる可能性は、極めて低いと言わざるを得ません。
ですから、学生から海外クラブへ加入した選手を検証すると、自ずとヨーロッパ主要リーグは数少なく、一段格下リーグ所属のクラブに加入しているケースがほとんどです。
中でも東欧のリーグに加入しているケースが多い結果が表れています。ここでご紹介するのは、ドイツ2部、クロアチア、モンテネグロ、セルビア、オランダ2部、メジャーリーグサッカーのクラブに加入した選手達です。
ドイツ2部・フォルトゥナ・デュッセルドルフ所属:金城ジャスティン俊樹選手、20歳。2015年JFAアカデミー福島からTSV1860ミュンヘンのU-19に加入し、2016年からフォルトゥナ・デュッセルドルフに所属するMFです。
ドイツ2部・FCインゴルシュタット04所属:渡邊凌磨選手、21歳。前橋育英高校、早稲田大学を経て、2015年にインゴルシュタットU-23に加入。今年からトップチームに昇格したMFです。
クロアチア・メディムレツ所属:有光澪選手、25歳。聖和学園高校、東海学園大学を経て、2015年にモンテネグロのFKブルスコヴォに加入。2016年にクロアチアリーグのメディムレツに移籍しました。
クロアチア・NKディナモ・ザグレブ所属:田嶋凜太郎選手、20歳。慶応大学から2016年にオランダのVVVフェンローに加入。今年クロアチアリーグのNKディナモ・ザグレブに移籍したMFです。お父さんは、日本サッカー協会会長の田嶋幸三さんです。
モンテネグロ・FKスティエスカ・ニクシッチ所属:志村謄選手、24歳。埼玉平成高校、JAPANサッカーカレッジを経て、モンテネグロ1部リーグのFKベラネに加入。同リーグのFKモルナルを経て、2016年にFKスティエスカ・ニクシッチに移籍したDFです。
セルビア・FKラドニチュキ・ニシュ所属:野間涼太選手、25歳。市立船橋高校、明治大学を経て、2014年にモンテネグロのルダル・プリェヴリャへ加入。今年セルビアのFKラドニチュキ・ニシュに移籍しました。
そして、東欧以外では、オランダとカナダのクラブに加入した選手をご紹介致します。
オランダ2部・SCカンブール・レーワルデン:ファン・ウェルメスケルケン・際選手、23歳。北杜市立甲陵高等学校から2014年FCドルトレヒトIIに加入。今年SCカンブール・レーワルデンに移籍したSBです。
メジャーリーグ・トロントFC:遠藤翼選手、24歳。FAアカデミー福島から、メリーランド大学を経て、2016年トロントFCに加入。メジャーリーグサッカーのドラフト一巡目で指名された初の日本人選手になりました。
ブンデスリーガやリーガエスパニョール等のヨーロッパ主要リーグではありませんが、少なくともこれだけの若い選手が、Jリーグを経験せずに海外クラブで活躍しています。
I'm truly thankful that @torontofc gave me this opportunity. Can't wait to get up there and start training! #TFC pic.twitter.com/w83kwryV5J
— Tsubasa Εndoh | 遠藤 翼 (@tsubasa_endoh) 2016年1月17日
かつてJリーグを経験せずに海外クラブに加入した現在Jリーガー
Jリーグの経験が無いままに海外のクラブに加入して、現在も海外クラブで活躍している選手たちをご紹介致しましたが、かつて学生から海外クラブに加入して、現在はJリーグで活躍している選手を二人ご紹介致します。
一人目は、現在横浜F・マリノス所属の伊藤翔選手です。
伊藤選手は、中京大学付属中京高校を卒業する前の2007年、フランス2部リーグのグルノーブル・フット38に加入しました。
Jリーグに入団せずに高校から直接海外クラブに入団した初めてのケースとして大きなニュースになりました。
アーセナルのベンゲル監督から、和製アンリと称された逸材でしたが、結局グルノーブル・フット38に所属した4年間で出場は4ゲーム、得点ゼロという惨憺たる実績で、2010年にJリーグの清水エスパルスに移籍しました。
二人目は、現在浦和レッズの長澤和輝選手です。千葉県立八千代高校から専修大学を経て、2013年暮れに当時ドイツ・ブンデスリーガ2部の1.FCケルンに加入しました。
加入した年のシーズンでは、チームの一部昇格に貢献しましたが、翌年は開幕前に怪我を負ってしまい1部での出場は10ゲームでした。2016年に浦和レッズに完全移籍し、J2のジェフ千葉にレンタル移籍。今年正式に浦和レッズに戻って来ました。
成功しているとは言い難い結果
この様に、Jリーグを経ずして海外のクラブに加入した選手を検証してみると、結果的には大きく成功を収めた選手がいない事がおわかりになると思います。
アーセナルのベンゲル監督の目に留まって加入がニュースになった宮市選手や伊藤選手の例でさえ、結果を残せていません。むしろベンゲル監督のお眼鏡にかなった事が、逆効果になっているとも言える程です。
昨シーズン、サンフィレッチェ広島からアーセナルに移籍しながら、やはりイギリスの就労ビザが取得できずに、VfBシュトゥットガルトにレンタル移籍させられてしまった浅野琢磨選手には、是非とも宮市選手や伊藤選手の二の舞にはならずにいて欲しいと願うばかりです。
by Wenger: You’d Have To Be Stupid To Write Us Off For The Title
レスター・シティFCの岡崎慎司選手や、ボルシア・ドルトムントの香川真司選手等の様に、ヨーロッパ主要リーグでレギュラーとして活躍している選手がいる一方で、無名なクラブで努力している無名な日本人選手達も数多く存在しています。
報道される機会が少ないので私達日本人サッカーファンにも活躍の動向がなかなか見えませんが、陰ながら応援したいではありませんか。