【⑨伊賀フットボールクラブくノ一編】今年から見よう!なでしこリーグ1部全チーム紹介

3月1日からポルトガルで開催されていた『FPFアルガルベカップ2017』に参戦した女子日本代表=なでしこジャパン。

大会初戦こそスペインに1-2で敗れたものの、その後のアイスランド戦とノルウェー戦を共に2-0で快勝。グループBを2位で終え、5位・6位決定戦に回ったオランダ戦では終了間際にミスから失点して敗戦。最終成績は参加12カ国中の6位。

収穫も課題もたっぷり出たうえで確認できたのが、日本の女子サッカーの現在地。若手選手が大胆にプレーして自信をつけ、中堅選手がチームの軸として周囲を引っ張る姿勢も見えました。

そんなアルガルベ杯を終えた今、女子サッカーの注目は3月25日に開幕するプレナスなでしこリーグ。当コラムでは、そんな女子サッカーのトップリーグとなる、なでしこリーグ1部の10チームを1チームずつ紹介。

第9回は、伊賀フットボールクラブくノ一(以下、伊賀FCくノ一)です。

強豪・プリマハム時代から一転した低迷期


注:写真は2016年度。by JFA
クラブの始まりとなったのは、1976年に現在も拠点を置く三重県上野市(現・伊賀市)で創設された『伊賀上野くノ一サッカークラブ』。

忍者ゆかりの地である三重県伊賀市を本拠とする由来から、「女忍者」を意味する「くノ一」を名乗って来たクラブは、精肉メーカーのプリマハム株式会社がスポンサーとなった『プリマハムFCくノ一』の時代(1988~1999年)を経て、現在の『伊賀フットボールクラブくノ一』となったのは2000年でした。

昨年で創設40周年を迎えたクラブは、前身のプリマハム時代に当時のトップリーグ『Lリーグ』で2度の優勝を飾った強豪。しかも1989年に6チームで発足した日本女子サッカーリーグの創設メンバーでもある名門です。

しかし、プリマハムがスポンサーから撤退し、市民クラブとなって以降はどんどん経営規模が縮小されていきました。(余談ですが、現在でもプリマハムの練習場でトレーニングを行う事が稀にあります。)

その後、経営不振でLリーグ自体も破綻。2006年に『なでしこリーグ』に再編後は2部リーグへの降格も経験するなど、現在の伊賀FCくノ一は強豪とは言えません。

近年は1部残留を争うのが定番化していたため、ほとんどの試合で相手が格上と想定しているかのように、最終ラインを下げて守備を重視して戦うのが常態化していました。 

野田監督就任で迎えた転換期~「漸進」を生む“プログレッションサッカー”

昨季途中の就任から攻撃的なスタイルを導入した野田監督。試行錯誤の時を経て迎える新シーズンに期待がかかる。by 伊賀フットボールクラブ

そんな低迷期にあったクラブは昨季途中に転換期を迎えました。シーズンのちょうど折り返し地点となった第10節から指揮を執る事になった現指揮官・野田朱美監督の存在です。現役時代は読売ベレーザ(現・日テレ)に所属し、高い技術力を活かした華やかなプレースタイルで得点を量産して来た野田監督。

そんな野田監督は、男子の読売サッカークラブ(現J2・東京ヴェルディ1969)からの伝統「読売スタイル」とも称された主導権を握って戦うポゼッションサッカーを導入。ここ数年は守備の約束事や忍耐力を問われるサッカーをして来た選手達にはそれが大きくプラスに転じ、就任初戦で代表選手が揃う強豪・INAC神戸レオネッサにアウェイながら1-2と逆転勝利するなど、就任後いきなりの公式戦3連勝を記録しました。

その後、この“ビギナーズ・ラック”な好結果が出た就任直後を経て突入したプレナスなでしこリーグカップ1部では6連敗を経験。チーム全体で相手ゴール前までボールを運ぶ流れまでは浸透したものの、それを得点へと繋げる過程に苦戦。再開後のリーグでも1勝を挟んで5連敗を喫しました。
『伊賀FCくノ一 野田監督就任前後での成績比較』

攻撃サッカーに転換も得点数はさほど伸びず。ただ、失点が少ないのはボール支配の効果でもある。
その“産みの苦しみ”には、チームにもともとあった球際の強さを守備だけでなく攻撃にも活かすアプローチへと昇華する事で、この試行錯誤の時を乗り越えました。

CB宮迫たまみ選手を軸とするDF陣は前に出てボールを奪い、最終ラインから丁寧にパスを繋ぐ。ただ、ポゼッションサッカーを志向しながらもセンターサークル付近から斜めに入れる鋭いパスや、スピードに特徴があるサイドアタッカーを重用する攻撃などは、その最適解となりました。

ポゼッション志向ながら、縦に速く攻める。筆者はそれを“プログレッション(前進)・サッカー”と表現しましたが、今年のクラブのスローガンは「漸進」(ぜんしん)。あながち的外れではありません。

【注目選手】MF杉田亜未~求められるのは、岬くんから翼くんへの“進化”


今季から主将にも就任したMF杉田。「組織の中の個人」から脱皮し、チームを個人レベルでの“違い”で押し上げる活躍が期待される。by 伊賀フットボールクラブ

転換期を迎えたチームを引っ張るのはMF杉田亜未選手。アルガルベ杯のメンバーからは外れましたが、チームでは唯一の代表選手として、近年は断続的になでしこジャパンにも招集されています。 

セットプレーでの正確なキックやミドルシュート、ドリブル突破でも冴えを見せる一方、運動量も豊富で守備でも大きな貢献を見せる杉田選手。その姿は自身2得点を挙げた、2015年8月の東アジア選手権でも披露されていました。

これまでは左サイドMFとして活躍して来た杉田選手でしたが、野田監督は昨季のリーグカップの期間を利用して、彼女をFWにコンバート。圧倒的なキープ力にも優れる彼女が最前線で攻撃の起点となり、その類まれな能力を得点に直結する場面で活かしたい、との考えでした。

しかし、献身的なチームプレーヤーでもある杉田選手は、チームが押し込まれる中では自陣深くまで引いて来てしまう場面も多く、また実際に彼女はボールを奪ってしまえる万能な選手。とはいえ、その負担は自身の得点が5ゴールに止まる遠因にもなっているはず。

人気サッカー漫画『キャプテン翼』に喩えると、サッカー選手としての能力は“主人公・大空翼くん”でありながら、キャラクターは翼くんとの黄金コンビを築く“サポート役・岬太郎くん”のような杉田選手。

シーズン終盤には監督の指示からか、前線で前残りする彼女の姿がありました。もちろん、前線でも所狭しと動き回る杉田選手ですが、彼女のような突破力やシュート力、アシスト能力も兼備した選手が前線に残る事は、相手チームのDFが攻撃参加ができないという意味で強力な守備としても機能します。
 
「世界最高クラブ」レアル・マドリーで歴代最高の選手だったとされるアルフレッド・ディ・ステファノ氏は、ストライカー兼ゲームメイカーでありながら、誰よりもハードワーカーでもあったと言われます。そんな彼は、「レアル・マドリーの選手たる者は、まず汗を流せ」と言葉にし、チーム最高の選手が献身的に動くことで、レアル・マドリーは世界最高のクラブになったと言われています。

チームの勝利のために、「もっと自分の得点力を上げたい」と強く主張し始めた杉田選手。今季からは引退したMF那須麻衣子さんに変わってチームの主将にも就任。本格的にシーズンを通してFWとしてプレーする今季からは、数字に残る結果が求められます。そう、杉田選手は今季、岬くんから翼くんへの進化を遂げるのです!

尚、杉田選手個人についての記事は、以前に当コラムで掲載した下記をご覧ください。

【関連記事】
『「新星なでしこ」の主力となるべきMF杉田亜未~(宮間あや+川澄奈穂美)/2の魅力を持つ新型MF』

【伊賀FCくノ一在籍全選手リスト】(公式HPへ)

プログレッションサッカーの完成なるか?伊賀FCくノ一 リーグ戦日程

今季のリーグ戦では6試合を開催する上野運動公園競技場以外にも、奈良県と滋賀県でもホーム戦を開催。スケジュールは要チェックです!by 上野運動公園競技場

そんな伊賀FCくノ一は3月26日(日曜)、アウェイでアルビレックス新潟レディースとの開幕戦を迎えます。

アルガルベ杯で自信をつけたDF中村楓選手が軸となる新潟Lの堅守を、杉田選手らがどう崩すのか?新たなチームスタイルが固まって迎える新シーズン。伊賀FCくノ一の進化過程が見られる、この開幕戦から注目です!

【伊賀フットボールクラブくノ一 プレナスなでしこリーグ1部日程】

第1節、3/26(日)13:00 KICK OFF
VSアルビレックス新潟レディース(AWAY)AT新潟市陸上競技場
第2節、4/2(日)13:00 KICK OFF
 VS日テレ・ベレーザ(HOME)AT上野運動公園競技場
第3節、4/16(日)13:00 KICK OFF
 VSジェフユナイテッド市原千葉レディース(AWAY)AT東金アリーナ陸上競技場
第4節、4/23(日)13:00 KICK OFF
 VSちふれASエルフェン埼玉(HOME)AT上野運動公園競技場
第5節、4/29(土)13:00 KICK OFF
 VSノジマステラ神奈川相模原(AWAY)AT相模原ギオンスタジアム
第6節、5/3(水)13:00 KICK OFF
 VS浦和レッドダイヤモンズレディース(HOME)AT上野運動公園競技場
第7節、5/7(日) 時間未定
 VS伊賀フットボールクラブくノ一(AWAY)AT長野Uスタジアム
第8節、5/14(日)13:00 KICK OFF
 VS INAC神戸レオネッサ(HOME)AT上野運動公園競技場
第9節、5/21(日)13:00 KICK OFF
 VSマイナビ・ベガルタ仙台レディース(AWAY)AT仙台市陸上競技場
第10節、5/28(日)13:00 KICK OFF
 VSジェフユナイテッド市原・千葉レディース(HOME)AT上野運動公園競技場
第11節、8/20(日)18:00 KICK OFF
 VSちふれASエルフェン埼玉(AWAY)AT NACK5スタジアム大宮
第12節、8/26(土) 18:00 KICK OFF
 VSノジマステラ神奈川相模原(HOME)AT三重交通Gスポーツの杜・鈴鹿
第13節、9/2(土)17:00 KICK OFF
 VS浦和レッドダイヤモンズレディース(AWAY)AT浦和駒場スタジアム
第14節、9/9(土)14:00 KICK OFF
 VS AC長野パルセイロレディース(HOME)ATならでんフィールド
第15節、9/17(日)18:00 KICK OFF
 VS INAC神戸レオネッサ(AWAY)AT神戸総合運動公園ユニバー記念競技場
第16節、9/24(日)13:00 KICK OFF
 VSマイナビ・ベガルタ仙台レディース(HOME)AT甲賀市陸上競技場
第17節、9/30(土)13:00 KICK OFF
 VS日テレ・ベレーザ(AWAY)AT多摩市立陸上競技場
第18節、10/7(土)13:00 KICK OFF
 VSアルビレックス新潟レディース(HOME)AT上野運動公園競技場

【伊賀FCくノ一公式HP】

3/11.12に三重県で開催『第15回伊賀市長杯』~「漸進」する伊賀FCくノ一をサキドリ!


地元・伊賀FCが毎年参加しているシーズン直前のトーナメントは、新シーズンを迎えるチームを“入場無料”で観戦できる絶好の機会。お見逃しなく!by 伊賀市

3月26日になでしこリーグ1部の開幕を控えた今週末の3月11・12日、伊賀FCくノ一は『第15回伊賀市長杯女子サッカー大会忍びの里レディーストーナメント』に参加します。

伊賀FCくノ一にとっては毎年参加している地元のプレシーズントーナメントで、今年はAC長野パルセイロ・レディースと2部・愛媛FCレディースによる3チーム総当たりのリーグ戦を実施。

試合会場は伊賀FCくノ一のメインスタジアムでもある三重県伊賀市の上野運動公園競技場。大会詳細は以下の通り。

ちなみに筆者は伊賀FCくノ一と長野Lによる未来に始まる試合の結果をすでに知っています。パスサッカーが浸透した伊賀FCくノ一と、縦への鋭い攻撃で昨季大躍進した長野L。今季は共に双方の武器を部分的に取り入れたい両チームの対戦は試合後の観戦者に、「この2チームが合体したらベレーザより強そう」と思えるような印象を与えることです。

共に攻撃サッカーを志すもアプローチの入り方が違うだけで、最終的に目指す方向は「日本サッカーの“日本化”」なのではないか?と思える2チーム。その進行過程を入場無料でサキドリできる絶好の機会です。是非とも足をお運びのうえ、お楽しみ下さい☆

【大会スケジュール】
3月11日(土)
伊賀FCくノ一vsAC長野パルセイロ・レディース
10:00 KICK OFF(上野運動公園競技場)

3月11日(土)
AC長野パルセイロ・レディース VS 愛媛FCレディース
14:00 KICK OFF(上野運動公園競技場)

3月12日(日)
伊賀FCくノ一vs愛媛FCレディース
10:00 KICK OFF(上野運動公園競技場)

※<大会公式パンフレット特典>
4月2日(日)開催のなでしこリーグ「伊賀FCくノ一vs日テレ・ベレーザ」戦において、「くノ一応援デー」として忍びの里大会公式パンフレットをご持参し、チケット売場にてご提示いただくと、メインスタンドの当日券が400円引きでご購入いただけます!(ただし、割引特典は1冊につきチケット1枚となります。)

【大会概要詳細】

連載『今年から見よう!なでしこリーグ1部全チーム紹介』バックナンバー


by nadeshiko

なでしこリーグ1部全チームのクラブの成り立ちやチーム状況、注目選手などを当コラムの連載として掲載しております。

尚、バックナンバーは以下からご覧ください。
【①マイナビ・ベガルタ仙台レディース編】
【②浦和レッドダイヤモンズレディース編】
【③ちふれASエルフェン埼玉編】
【④ジェフユナイテッド市原・千葉レディース編】
【⑤日テレ・ベレーザ編】
【⑥ノジマステラ神奈川相模原編】
【⑦アルビレックス新潟レディース編】
【⑧AC長野パルセイロレディース編】

いよいよ最終回となる当連載。最後は世代交代に成功した、あのタレント軍団が登場。こうご期待ください☆

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