【⑧AC長野パルセイロレディース編】今年から見よう!なでしこリーグ1部全チーム紹介

3月1日からポルトガルで開催されていた『FPFアルガルベカップ2017』に参戦した女子日本代表=なでしこジャパン。

大会初戦こそスペインに1-2で敗れたものの、その後のアイスランド戦とノルウェー戦で共に2-0と完封勝利。グループBを2位で終え、5位・6位決定戦に回ったオランダ戦では終了間際にミスから失点し、最終成績は参加12カ国中の6位。

収穫も課題もたっぷり出たうえで確認できたのが、日本の女子サッカーの現在地。若手選手が大胆にプレーして自信をつけ、中堅選手がチームの軸として周囲を引っ張る姿勢も見えました。

そんなアルガルベ杯を終えた今、女子サッカーの注目は3月25日に開幕するプレナスなでしこリーグ。当コラムでは、そんな女子サッカーのトップリーグとなる、なでしこリーグ1部の10チームを1チームずつ紹介。

第8回は、AC長野パルセイロレディース(以下、長野L)です。

快進撃以上に称えられるべき地域密着型の模範クラブ


by AC長野パルセイロ

クラブの起源は「資格の大原」としてテレビCMでもお馴染みの大原学園。その系列の専門学校の1つである、大原スポーツ公務員専門学校サッカー専攻科女子サッカーコースの生徒や教職員が2000年に設立した『大原学園JaSRA女子サッカークラブ』です。

2003年から日本女子サッカーリーグに加盟し、大原学園時代から当時のトップリーグである『Lリーグ』にも参戦。ただ、競技面では2003年から2007年までの僅か5年間で1部昇格と2部降格を2度ずつ経験。1部に残留した経験が1度もなく、昇降格を繰り返す“ヨーヨークラブ”の位置付けにありました。

その後、2年連続で1部復帰を果たせなかった2009年シーズン終了後、現在J3に所属している『AC長野パルセイロ』の女子チームへクラブを移管する事が決定。2010年シーズンから新たに『AC長野パルセイロ・レディース』として生まれ変わり、現在に至っています。

ただ、クラブ移管後は2部残留に必死なシーズンが続くなど、チーム成績は悪化。2013年シーズンから就任した現指揮官=本田美登里監督の下でようやくチームが安定したものの、1部昇格までは2部で3シーズンを過ごす事になりました。

『長野L、2016年の成績と観客動員数』ホームとアウェイで大きな差がある通り、日本サッカー界が重視する地域密着を体現した模範クラブである。
それでも、男子のトップチームも含めて、地元自治体との連携やローカルメディアを駆使したクラブ運営により、地域密着の模範例として高く評価されており、初めて1部昇格を果たした昨季はホーム平均観客動員数でリーグ最多の3647人を記録。

初の1部で3位へと大躍進したチーム成績はもちろん特筆すべき偉業ですが、(上記の表から)目を引くのはホームとアウェイで大きな差が生まれている観客動員数の違い。如何に地元で愛されているクラブであるのかが明白です。

1部昇格初年度の3位大躍進を支えた超攻撃的サッカー~戦術は「ボールを持ったら1歩でもゴールに近付けろ!」

長野=超攻撃、3点取られても4点取る攻撃サッカーを植え付けた本田監督。by AC長野パルセイロ

2013年から指揮を執る本田監督は2001年から2011年まで長期政権を築いた岡山湯郷Belleで、なでしこジャパンのパスサッカーを支える絶対的な司令塔となったMF宮間あや選手を育て、クラブを日本屈指の名門へと押し上げた指揮官。2007年には、女性として初めて「日本サッカー協会公認S級コーチ(指導者ライセンス最高位)」を取得した女子サッカー界の名将中の名将です。

そんな稀代の名将でも1部昇格まで3年を必要としたチーム作りでしたが、現在の長野Lが体現する両方のゴール前を行き来きし、得点も失点も多い、出入りの激しい超攻撃的なサッカーは魅力満載です。地域密着を図るためにも重要な要素でした。

戦術は「ボールを持ったら1歩でもゴールに近付けろ!」とは、実写版映画でSMAPのメンバー全員が出演した事でも有名な『蒼き伝説シュート』からの引用ですが、まさにそんな言葉が体現されています。

男子も含めて、攻撃でも守備でも組織的なサッカーを選択する日本サッカー界にあって「“組織”よりも“個人”」、「“横”よりも“縦”」を強く意識する長野Lのサッカーは異端です。ただ、“個”を貫く意識を全体で共有しているからこそ、“組織”としても機能しており、最前線から最後尾までがコンパクトになったインテンシティ(プレー強度)の高さが成立しています。

初めて1部昇格を果たした昨季、長野Lは1部の舞台でもその斬新なスタイルを堂々と披露し、見事に3位へと大躍進。全18試合でリーグ3位の38得点を記録しながら、34失点はワースト3位。12勝1分5敗と大きく勝ち越しながら、得失点差が僅かに+4。長野Lと同勝点で得点失点差の末に2位となったタレント軍団・INAC神戸レオネッサは40得点19失点の同+21。長野Lの“異端ぶり”はこちらでも“健在”です。

ただ、昇格組でノーマークだった昨季の大躍進を経て迎える今季、長野Lは他チームから徹底研究され、対策をとられるでしょう。そのため、今季は効果的に“横”を使った攻撃など、試合運びに幅を持たせたチーム力の積み上げが求められます。昨年から断続的になでしこジャパンにも選出され始めた守備的MF國澤志乃選手には、展開力やゲームメイク能力の面で期待がかかります。

【注目選手】FW横山久美~アルガルベ杯得点女王獲得のなでしこジャパンの新エース

 
直近のアルガルベ杯で大会得点女王となり、日本のエースとして活躍したFW横山。by garow
そんな長野Lを体現している選手はやはり、エースFWの横山久美選手。今回のアルガルベ杯では出場4試合(先発3)で4ゴールを奪い、大会得点女王を獲得。新生なでしこジャパンのエースの称号を手にしたと言える、現在23歳のFWです。

岡山湯郷から2014年に当時2部の長野Lに加入した横山選手は、2部の2年間で46試合出場65ゴール。トンデモな記録的ペースで得点を量産し、昨季は1部でも得点ランキング2位の16得点を挙げました。

なでしこジャパンでも披露している通り、彼女の最大の魅力は突出した“個”を全面に押し出すようなドリブル突破からのシュート。「ボールを持ったら1歩でもゴールに近付けろ」を体現している選手です。

1部昇格後もそのプレースタイルで「長野旋風」を巻き起こすチームと横山選手。ただ、横山選手は昨季のリーグ中断前での11試合で13得点という驚異的得点ペースから、中断明けに7試合3得点と失速。対策が進んだ中断明けでも5勝2敗と、チームが破竹の勢いを続ける中で「変化」が見られました。

ドリブル突破とシュートを最優先として狙うのは前提にしながら、それをキープ力や自分に集中するマークを活かして周囲を使う事でチームに昇華。それが速攻だけでなく、ゴール前に引いた相手に対して、遅い攻撃でも崩せる攻撃のバリエーションの拡がりへと繋がりました。

それは他チームからのさらなる対策が進む今季、チームに求められる効果的な攻撃や試合運びの幅に他なりません。昨季はそれを横山選手を筆頭とする個人レベルで取り入れていたものを、チーム全体にどう共有するか?

おそらく、この「変化」を「進化」として昇華した時、長野Lは男子も含めて最も理想的な「日本サッカーの“日本化”」を完成させるモデルになるでしょう。尚、横山選手個人についての記事は、以前に当コラムでも掲載した下記をご覧ください。

【関連記事】
『新生なでしこジャパンFW横山久美~11戦13得点で得点ランク独走の22歳新鋭FWの成長を促す「自由」と「責任」』

【AC長野パルセイロレディース在籍全選手リスト】(公式HPへ)

開幕戦は“攻撃サッカー異種対決!” 長野Lリーグ戦日程


2015年に新装された長野Uスタジアムはピッチとの距離11mで体感できる球技専用スタジアム。今季のリーグ戦では8試合の開催を予定。by AC長野パルセイロ

そんな長野Lは3月26日(日曜)、ホームで浦和レッドダイヤモンズレディースとの開幕戦を迎えます。

縦志向の長野Lに対して、華麗なパスサッカーを展開する浦和L。“攻撃的サッカー異種対決”となる両者の開幕戦から注目です!

【長野パルセイロL プレナスなでしこリーグ1部日程】

第1節、3/26(日)13:00 KICK OFF
VS浦和レッドダイヤモンズレディース(HOME)AT長野Uスタジアム
第2節、4/2(日)13:00 KICK OFF
 VSノジマステラ神奈川相模原(AWAY)AT相模原ギオンスタジアム
第3節、4/15(土)13:00 KICK OFF
 VSマイナビ・ベガルタ仙台レディース(HOME)AT長野Uスタジアム
第4節、4/23(日)13:00 KICK OFF
 VSジェフユナイテッド市原千葉レディース(AWAY)ATフクダ電子アリーナ
第5節、4/29(土)13:00 KICK OFF
 VS日テレ・ベレーザ(AWAY)AT多摩市立陸上競技場
第6節、5/3(水)12:00 KICK OFF
 VS INAC神戸レオネッサ(HOME)AT長野Uスタジアム
第7節、5/7(日)時間未定
 VS伊賀フットボールクラブくノ一(HOME)AT長野Uスタジアム
第8節、5/13(土)15:00 KICK OFF
 VSアルビレックス新潟レディース(AWAY)ATデンカビッグスワンスタジアム
第9節、5/20(土)14:00 KICK OFF
 VSちふれASエルフェン埼玉(HOME)AT長野Uスタジアム
第10節、5/27(土)13:00 KICK OFF
 VSマイナビ・ベガルタ仙台レディース(AWAY)ATユアテックスタジアム仙台
第11節、8/19(土)17:00 KICK OFF
 VSジェフユナイテッド市原千葉レディース(HOME)AT長野Uスタジアム
第12節、8/26(土) 16:00 KICK OFF
 VS日テレ・ベレーザ(HOME)AT佐久総合運動公園陸上競技場
第13節、日時未定
 VS INAC神戸レオネッサ(AWAY)会場未定
第14節、9/9(土)14:00 KICK OFF
 VS伊賀フットボールクラブくノ一(AWAY)ATならでんフィールド
第15節、9/16(土)16:00 KICK OFF
 VS アルビレックス新潟レディース(HOME)AT長野Uスタジアム
第16節、9/24(日)13:00 KICK OFF
 VSちふれASエルフェン埼玉(AWAY)AT川越運動公園陸上競技場
第17節、9/30(土)13:00 KICK OFF
 VSノジマステラ神奈川相模原(HOME)AT長野Uスタジアム
第18節、10/7(土)13:00 KICK OFF
 VS浦和レッドダイヤモンズレディース(AWAY)AT浦和駒場スタジアム

【AC長野パルセイロ公式HP】

3/11.12に三重県で開催『第15回伊賀市長杯』に参戦!入場無料で今季の長野Lの進化をサキドリしよう!


地元・伊賀FCが毎年参加しているシーズン直前のトーナメントは、新シーズンを迎えるチームを“入場無料”で観戦できる絶好の機会。お見逃しなく!by 伊賀市HP

3月25日になでしこリーグの開幕を控えた今週末の3月11・12日、長野Lは『第15回伊賀市長杯女子サッカー大会忍びの里レディーストーナメント』に参戦します。

毎年、地元の伊賀フットボールクラブくノ一が参加する新シーズン開幕を直前で迎えるトーナメントで、今年は伊賀FCくノ一と長野L、2部の愛媛FCレディースによる3チーム総当たりのリーグ戦を実施。

試合会場は三重県伊賀市にある上野運動公園競技場。新シーズン直前、“進化”する長野Lを入場無料でサキドリできる機会です。是非お誘いあわせのうえ、足をお運び、お楽しみ下さい☆

【大会スケジュール】
3月11日(土)
伊賀FCくノ一vsAC長野パルセイロレディース
10:00 KICK OFF(上野運動公園競技場)

3月11日(土)
AC長野パルセイロレディースvs愛媛FCレディース
14:00 KICK OFF(上野運動公園競技場)

3月12日(日)
伊賀FCくノ一vs愛媛FCレディース
10:00 KICK OFF(上野運動公園競技場)

大会概要詳細はこちらから

連載『今年から見よう!なでしこリーグ1部全チーム紹介』バックナンバー


by nadeshiko
なでしこリーグ1部全チームのクラブの成り立ちやチーム状況、注目選手などを当コラムの連載として掲載しております。

尚、バックナンバーは以下からご覧ください。
【①マイナビ・ベガルタ仙台レディース編】
【②浦和レッドダイヤモンズレディース編】
【③ちふれASエルフェン埼玉編】
【④ジェフユナイテッド市原・千葉レディース編】
【⑤日テレ・ベレーザ編】
【⑥ノジマステラ神奈川相模原編】
【⑦アルビレックス新潟レディース編】

次回は昨季途中の監督交代からスタイルを一新した、あのチームについて。
乞うご期待!

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