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変貌を遂げつつある浦和レッズの今を考察

扇ガ谷 道房

2018/08/12 09:15

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NEWS

全く想定外の事態でした。今シーズンのJリーグ開幕からW杯中断までの短期間で、3人の監督を経験する事になろうとは。昨年のアジアチャンピオン浦和レッズの前半戦は前代未聞の事態が推移しました。
その浦和レッズが変貌を遂げつつあります。その主役は現監督のオズワルド・オリヴェイラ監督とW杯によるJリーグの中断。賛否はあるにせよ、負けない浦和レッズへと変貌した現状を考察してみましょう。


by 浦和レッズオフィシャル

第一の変貌・大槻暫定監督の仕事

2016年Jリーグ年間最高勝ち点、2017年アジアチャンピオン、その浦和レッズは攻撃的で常にリーグ上位に陣取るチームとして多くのサッカー・ファンも知る所です。そのチームが今季開幕から迷走します。
  
今季開幕戦となったアウェイでのFC東京戦に引き分けると、4月1日のアウェイのジュビロ磐田戦までの5節を2分3敗という、異例の未勝利。開幕直後のこの時点でクラブは決断し、堀孝史(当時)監督を契約解除し、大槻毅育成ディレクターを暫定監督に就任させます。
  
あくまでも暫定監督と公言していた大槻監督は、5節から9節までの5ゲームを3勝2分の無敗で立て直しに成功します。そして4月2日にオリヴェイラ監督の就任が発表されて、浦和レッズはシーズン開始10節で三人目の監督を就任させる結果となったのです。
  
それにしても、大槻暫定監督(現ヘッドコーチ)の手腕は見事でした。この苦境に就任し、未勝利クラブを無敗の状態に立て直し、オリベイラ監督に引き継いだのです。監督として初めて臨んだ4月4日、ルヴァンカップのサンフィレッチェ広島戦では、髪型を大きく変えてオールバックでスーツ姿のきりりとした姿で現れました。心意気が感じる立ち姿と、ピッチサイドでの身振りの大きな指示姿が、チームのモチベーション高め、5節を無敗で乗り切ったのです。今シーズン最初の変貌でした。

4.7 vsベガルタ仙台。大槻 毅監督。 #urawareds #浦和レッズ #wearereds #大槻毅監督 #azabutailor

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第二の変貌・世界的名将の監督就任

ネルシーニョ氏の監督就任という噂もあった中、4月22日オリヴェイラ監督の就任が発表されました。暫定だった大槻監督はヘッドコーチに就任。
オリベイラ監督は、鹿島アントラーズでリーグ3連覇を果たし、故郷ブラジルでは、サンパウロ、サントス、コリンチャンスという名門クラブを指揮し、2000年のFIFAクラブ世界選手権(現クラブワールドカップ)では、コリンチャンス監督として、初の世界No.1に輝いています。これ以降現在に至るまでクラブワールドカップで世界No.1になった南米クラブは存在していません。
  
日本代表監督に就任してもおかしくない世界的な名将が、浦和レッズにやって来たのです。
  
就任後初のゲームは柏レイソルとのアウェイ戦。結果は0対1の敗戦。翌湘南ベルマーレ戦も0対1の敗戦。オリヴェイラ体制の初勝利は12節アウェイの川崎フロンターレ戦。2対0と完封し、得点したのは2点とも鹿島時代の教え子興梠慎三選手という奇遇でした。
  
13節古巣の鹿島戦では0対1の敗戦となり、その後2節は2分け。監督就任からW杯中断までの6節の結果は1勝2分3敗。オズの魔法使いと呼べれる事もあるオリベイラ監督の浦和レッズでのサッカーとは何なのか表現されないまま、JリーグはW杯中断期間に入ったのです。

 

第三の変貌・W杯によるJリーグ中断

  流石の名将と言えども、シーズン途中の監督就任で、スタイルを確立し、常勝チームに変貌させることは不可能です。何の準備もなく就任二日後からリーグを戦わざるを得なかった訳ですから、W杯中断前の6節でオリヴェイラ色が出せないのも必然と言えます。
  Jリーグが二か月間中断した間、浦和レッズ以外のクラブにも等しくトレーニングチャンスが与えられた訳ですから、この間各クラブ共に中断明けの再開に向けて、補強、戦略立案、トレーニング等様々な対策を講じていた訳です。
  とりわけ浦和レッズの場合は、中断前に監督交代があり、オリヴェイラ監督体制で開幕前のキャンプを行えていなかった訳ですから、この中断期間は謂わばJリーグ開幕前のキャンプと同様の意味がありました。
  ですから、中断明けの浦和レッズの変貌振りに、多くのサッカーファンの期待は集まったのです。

第四の変貌・オズの魔法

オリベイラ監督のファーストネームはオズワルド。監督の手腕を称して”オズの魔法使い”と呼ばれる事があるのは、奇跡の様にチームを変貌させる監督だからです。
W杯中断明けの浦和レッズは、監督のニックネームさながらに、魔法にかかったかのように変貌を遂げていました。
  
それは負けない事。勝利にこだわる姿勢を保つ事。その事がピッチ上から明確に理解できるチームに変貌を遂げています。その上で、スタイルにも変化が生じているのです。
  
中断後の開幕初戦、7月18日の名古屋グランパス戦は3対1の勝利で、全得点がセットプレイからという、浦和レッズらしからぬ得点での勝利でした。
ペトロヴィッチ(現北海道札幌コンサドーレ監督)体制では、セットプレイの練習は皆無で、実際のゲームでもセットプレイからの得点比率が低く、鮮やかなビルドアップから胸のすくような崩しで得点するのが浦和レッズらしい勝ち方でした。
  
ですから、このゲームの勝ち方は変貌を遂げた証とも言える勝ち方と言える内容でした。W杯メンバーでありながら出場できなかった遠藤航選手(現シントトロイデンVV)がくやしさを晴らす様に2得点し、W杯に出場したものの1ゲームにとどまった槙野智章選手のゴールによる合計3得点というのも、W杯での二人の気持ちが籠ったもので、中断明け初戦の勝利に反映されていました。
  
象徴的だったのは8月1日の19節川崎フロンーレ戦でした。ホームでありながら、川崎フロンターレに圧倒的にポゼッションを許し、パスで翻弄され、浦和レッズ6に対して16本ものシュートを打たれたにもかかわらず、2対0で勝利を遂げたのです。
  
GK西川周作選手のスーパーセーブに助けられたとはいえ、相手にポゼッションされても決定的なシーンをほとんど作らせず、耐え抜いたのです。
  
守備一辺倒という引きまくるサッカーをしていたわけでもなく、相手にボールを回されどゴールを許さず、機を見て狩るという、大人のサッカーでした。
圧倒的にゲームを支配し、攻撃的でいながら得点できず、カウンターで負ける事も多々あった浦和レッズのサッカーを、まるで川崎フロンターレが演じていました。
  
つまり、華々しさは無いけれど、守備的なサッカーを徹底した訳でもなく、うまくいなして、ガツンと決める、勝つためのサッカーを観せてくれたのです。
このゲームが、変貌を遂げたオズの魔法による、W杯中断後の浦和レッズのサッカーを象徴していました。もっと言えば、こういう勝ち切り方が浦和レッズは下手だったのです。
  
攻撃的でスピード感に溢れ、ワクワクする、観ていて楽しいサッカーを追及していたペトロヴィッチ監督のサッカーの対極とも言えるのが、オリヴェイラ監督のサッカーだと言えます。
  
ですから、根っからの浦和レッズサポーターの中には、華々しいサッカーではないオリヴェイラ監督のサッカーを心よく思わない方もおられるでしょう。
  
ですが、攻撃重視で守備とのバランスを崩し、勝てなくなっていた浦和レッズが、先ず勝ち点を取るサッカーのできるチームへと変貌を遂げる事が、現下の最大ミッションであり、オズの魔法使いはその為に呼ばれたのです。
  
W杯中断二か月の間に、浦和レッズはオリヴェイラ監督の意志が浸透し、確実に変貌を遂げています。
  

第五の変貌・起用方法

W杯中断明け2ゲームの後、遠藤選手がベルギーのシントトロイデンVVに移籍。岩波拓也選手が遠藤選手のポジションに納まり、浦和レッズ移籍後初めてスタメンに定着します。
又、新規加入したファブリシオ選手が、今シーズン開幕直前に中国リーグに電撃移籍したラファエル・シルバ選手の後任としてスタメンの座を得ています。
  
W杯中断前に怪我で戦列を離れたオーストラリア代表のアンドリュー・ナバウト選手が、運悪くW杯中にも怪我負った事から、現段階ではスタメン復帰できていません。
W杯中断前後でメンバーに大きな変動は無く、怪我のナバウト選手以外で大きな変化があったのはこの岩波選手とファブリシオ選手の2名のみ。然しながら、90分の戦い方では、交代選手の起用方法に、従来とは違う妙が感じられます。
  
最近の傾向では、後半に武藤雄樹選手から阿部勇樹選手を交代し、柏木陽介選手を前線に上げて、阿部選手と青木卓矢選手でボランチを形成させたり、橋岡大樹選手から森脇良太選手を交代させて、右SDが本職の森脇選手を前目で起用するなど、従来には無かった起用法をフレキシブルに展開しています。
  
又特筆すべきは交代選手のモチベーションが高く、結果を出している事です。特に李忠成選手は、ゲーム終了の投入が多いにもかかわらず、決定的なチャンスを演出し、最もきつい時間帯にPKを獲得してダメ押しするなど、チーム全体として勝利する事に対する意識力が向上しています。
  
ヴィッセル神戸のイニエスタ選手、サガン鳥栖のフェルナンド・トーレス選手の様に、センセーショナルなビッグネームの加入も無く、選手構成も大きな変動が無いなど、W杯中断前後でメンバー面の変化がほとんど無いのに、浦和レッズは全く別のチームの様に堅固でありながら急襲できるチームに変貌を遂げたと言えます。

サッカーは監督によって変わると言う事が、W杯中断前後の浦和レッズを観察するだけでよくおわかりになると思います。
アカデミーからの選手育成、適度な外国人補強、コンセプトが明確な監督の就任、サポーター強い後押し、こらの全てがフィットするクラブは、必ずやリーグ上位に定着し、サポーターを楽しませてくれます。
W杯中断後の浦和レッズは、魔法使いの様な監督により、サンフィレッチェ広島を追撃する体制が完了しています。これから大注目して頂きたい存在です。

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