トニ・クロースやマヌエル・ノイアーなど主力の一部が招集されずに若手主体のメンバーで臨んだドイツが、コンフェデレーションズカップで初優勝を果たした。同時期に開催されていたU-21欧州選手権に出場可能な選手もいたのだが、メンバーが欠けていたU-21ドイツ代表も優勝をすることができたことは大きい。国を挙げての育成方針が実を結んでいるのは見習わなければならないだろう。
ドイツの育成は4-2-3-1によるプレーモデルを採用した一貫性がある。オランダやスペインといったパスを重視した攻撃的なサッカーを取り入れることで成長している。その点ではU-21代表が4-2-3-1で戦っているのはノーマルである。
一方のフル代表は3バックを使用している。これはドイツで結果を残し代表にも多くの選手を送り出しているドルトムントやホッフェンハイムの影響であるだろう。ホッフェンハイムはスポンサーであるSAPの力を借りてテクノロジーを取り入れたり、指揮官のユリアン・ナーゲルスマンが29歳の若さであることなどが注目されているが、試合内容も興味深い。なおドイツ指揮官のヨアヒム・レーヴと言えば、グアルディオラの影響を受けてマリオ・ゲッツェの“偽9番”やフィリップ・ラームの“偽サイドバック”を使うなど、よく言えば柔軟な姿勢を見せている。
3バックとウイングバックの形は、ビルドアップにおいて時間とスペースを前へ運ぶ上で優位性を作りやすい。3バックに対してハイプレッシングを行うのに2トップでのスライドでは試合が経過するとともに厳しくなり、3トップで噛み合わせると後方での優位性を確保しづらい。またウイングバックに対して中盤のスライドかサイドバックの前スライドかの判断が必要である。従って実力差が顕著な場合は5バックで対応してウイングバックをウイングバックで捕まえるミラーゲームになりやすいことは、グアルディオラ時代のバイエルンや日本だと浦和レッズが良い例である。もちろん今シーズンは浦和レッズやサンフレッチェ広島が不振であるので過去を思い出してほしい。
優位性を前に運んでいく手段について、ドルトムントの場合はポジションチェンジはそこまで多くなく配置的な優位性や前線の質的な優位性を生かしている。一方のホッフェンハイムは、パスと動き出しによって相手の守備陣形をずらしていく形が特徴的である。特にサイドとハーフスペースを縦横にずれながらパスコースを作り前進するのが面白い。
Want to know how @JuWeigl makes these passes? Read my @spielvercom analysis of his game.https://t.co/Wlivjf7Fu6 pic.twitter.com/lcuoikSVlJ
— Tom Payne (@TomPayneftbl) September 3, 2016
3バックに対して前3枚で対応する際に弱みとなるのはHVからWB経由でアンカーに繋がれる事。横幅を3枚でカバーするのは難しいし、WB・SBに対応させるには位置が高い。サイドを限定できればCHも参加して奪いに行けるかもだけど、それをさせないよう舵を取るのがCBフォクトの役目。 pic.twitter.com/ZZKSymXcZB
— とんとん (@sabaku1132) May 1, 2017
対するチリも近年素晴らしい成績を残しているチームである。マルセロ・ビエルサが監督となりチームを改革すると、その後もビエルサ信奉者の指揮官を迎え入れ、2015年と2016年に開催されたコパアメリカで2連覇を果たした。ビエルサがもたらした攻撃的なアイデンティティをサンパオリが昇華して内容を伴った結果が表れた。
by espn.co.uk
スターティングメンバー
by @11tegen11
1クラウディオ・ブラーボ;
15ジャン・ボーセジュール、18ゴンサロ・ハラ、17ガリー・メデル、4マウリシオ・イスラ;
10パブロ・エルナンデス、21マルセロ・ディアス(-53′)、20チャルレス・アランギス(-81′)、8アルトゥーロ・ビダル;
7アレクシス・サンチェス、11エドゥアルド・バルガス(-81′)
22テア・シュテーゲン;
16アントニオ・リュディガー、2シュコドラン・ムスタフィ、4マティアス・ギンター;
3ヨナス・ヘクター、21セバスティアン・ルディ、8レオン・ゴレツカ(-90′)、18ヨシュア・キミッヒ;
7ユリアン・ドラクスラー、11ティモ・ヴェルナー(-79′)、13ラース・シュティンドル
チリは4-3-1-2、ドイツは5-4-1のフォーメーションとなった。特にドイツはこれまでの試合とは異なり、かなり守備的な試合運びを見せた。
チリのプレッシング
by @11tegen11
チリのスタイルはボール保持による攻撃と高い位置からのプレッシングである。ビエルサのスタイルと同様に、相手選手を基準点としたプレッシングでボール保持者から時間と空間を奪う。選手たちの特徴も踏まえ、ボール保持を高めるために“ネガティブトランジション”で素早くボールの周辺に人数をかける。
チリと言えば3-4-3などのイメージもあるが、4-3-1-2を採用している。トップ下にビダルがいる形は2014/15シーズンのユヴェントスを思い出す。また今シーズンにアーセナルで1列目で起用される機会が増えたサンチェスを、ゴールに近い位置でプレーさせたいという意図もあるだろう。ビダルの運動量で中盤を広くカバーし、1列目に上がって4-3-3や2列目に下がって4-4-2をできる柔軟性を備えられる。
試合を通して、若手主体のドイツが深い位置で守備ブロックを組み、チリがボールを保持する展開が多かった。上図のポゼッション開始位置でも、ドイツが低い位置にいる時間帯が長かったことがわかる。
https://twitter.com/DGaona_C/status/882675176982401024
ビルドアップのミス
チリのビルドアップは、センターバック2枚とディフェンシブハーフのディアス、そして左インサイドハーフのパブロ・エルナンデスを中心に行われた。2トップとトップ下のビダル、右インサイドハーフのチャルレス・アランギスはライン間にポジショニング。パスマップからもわかるように、両サイドバックもかなり高い位置をとっていた。
そんなビルドアップの役割を担っていたディアスが最終ラインに落ちていた時にボールを失って、ドイツにゴールを許してしまった。ポゼッション重視のチームには時々見られるが、当事者になると辛い。なお失点後はディアスがそれほどビルドアップに関わらないようになり、パブロ・エルナンデスが中央でボールを受けるようになった。
by @11tegen11
ポゼッション率は61%対39%、シュート本数は18対8とチリが上回っているが、期待点(ExpG)では1.51対1.95とドイツが上回っている。当然ドイツは運にも恵まれたが、うまく守り決定機を確実に決めることができた。
育成や戦術の観点からうまくいっているチームがきちんと決勝に残って戦えた大会は、トーナメントという形式も踏まえてあまり多くない。そういった意味で今回のコンフェデレーションズカップは興味深いものだった。