戦術的インテリジェンス、的確な判断力、周囲との補完性
阿部(右)の欠場が多かった2016年。米倉(左)の不調の原因もそこにあるはず。by Twitter@J_League
このようなハードワークを問われるため、G大阪のサイドMFの2つのポジションには阿部選手以外にも倉田秋選手と大森晃太郎選手(今オフにヴィッセル神戸へ移籍)の3人が主力としており、3人で1試合を回す起用法が採られていました。
その中でも最も先発起用の回数や出場時間が群を抜いて多いのが阿部選手でしたが、その理由は戦術的インテリジェンス(知性)や周囲の選手の特徴を引き出す柔軟性にあると考えられます。
2014年 G大阪2列目主力選手の出場記録
戦術的インテリジェンスとは上記したような戦術や約束事を守るという意味ではありません。サッカーというゲーム中に起きる事象について的確に判断を下せる能力と言える部分です。
阿部選手の場合は特にドリブルで相手1人を交わした後の急加速とドリブルのコースの選び方が的確。中盤で相手を1人交わした際に急加速し、より相手が嫌がる中央部に切り込みながらミドルシュートやラストパスを選択してフィニッシュに絡みます。味方選手がドリブルしてる時でも1人交わしてからのスピードアップは特筆モノで、さほどスピードがあるとは言えない阿部選手はこの能力によって”速い選手”に見えます。
中盤の何もないような局面からドリブルで1人抜いても何か起こせる事は決して多くありません。ただ、阿部選手はおそらく相手の守備を「網」として捉えており、中盤で1人を交わせばそのまま相手の中盤3、4人の「網」を突破できると考えているため、1人交わしただけで相手の深部に侵入してチャンスメイクをこなしてしまえる賢い選手なのです。だからこそ、彼は攻撃面でも守備面でも多くのチャンスやピンチの場面でボールに絡むことができる選手なのです。
また、G大阪の右SB米倉恒貴選手は得点に直結する超攻撃的なSBで、相手DFラインの裏に抜ける動き出しはFW顔負けの専売特許のようなスペシャリティを持っているのですが、自陣でのビルドアップやパス回しが不得意な選手。そこで右サイドMFの阿部選手がビルドアップ時に低い位置まで下がってパスを受けてタメを作り、そのあいだに米倉選手の裏抜けを促すプレーの数々はG大阪の大きな攻撃パターンになっていました。
2016年シーズン、その米倉選手の活躍が限られたのは、そんな彼の長所と短所を補う阿部選手の出場機会が少なかったからでしょう。こうした周囲の選手の特徴に合わせたプレーもできるのが阿部選手の魅力になっています。
“アベシャビン”が川崎のクラブ史上初タイトルへ導く!
EURO2008でロシアをベスト4に導いたアルシャビンとシュートフォームが似ているアベシャビン。尚、本家は現在カザフスタンで活躍中。by The Guardian
本来はガンダムのような屈強な両足から放つ強烈なミドルシュートや、スペースを突くランからフィニッシュに絡むような得点を多く重ねられるタイプの阿部選手。
そして、そんなシュートフォームは同じくミドルシュートを得意とし、ロシア代表やアーセナル、ゼニト・サンクトぺテルブルクで活躍した『新皇帝』アンドレイ・アルシャビン選手に似ているため、一部では『アベシャビン』というニックネームでも呼ばれていました。
アルシャビン選手ほどの決定力は持ち合わせてはいない阿部選手ですが、彼は上記したように戦術的インテリジェンスを持ち、周囲の選手の特徴に合わせられる自立した賢い選手です。G大阪では4バックの経験しかありませんが、彼はポジションやシステムに合わせるのではなく、どんなポジションでもシステムでも自分のプレーができる本物のポリバレント(多様性)を持っている選手です。3バックを採用する事が多い最近の川崎でも持ち味を発揮できるでしょう。
G大阪では次第に自分の判断を優先するプレー選択が多くなったため、マニュアルのような約束事の最優先を徹底させる長谷川監督のファーストチョイスではなくなってしまい、新シーズンからは川崎へ移籍する事を決断した阿部選手。
自陣に戻るために運動量を割かなければいけなかったG大阪時代とは違い、攻撃的な川崎では前でボールを奪うためにハードワークできるため、阿部選手が”アベシャビン”となるフィニッシュに絡むプレーも多くなるでしょう。また、僅か5年在籍しただけでもG大阪で数々のタイトルを獲得して来た阿部選手の経験が、7度の準優勝で未だに主要タイトル獲得の経験がない川崎でも大きく活きるはず。
本家アルシャビン選手は現在35歳となり、なんと中央アジアのカザフスタンにあるFCカイラトという小クラブで現役生活最後の花を咲かせていますが、現在27歳で選手としてピークに差し掛かる阿部選手は新天地・川崎でどのような活躍を見せるのか?
これまで記録ではなく『記録に残るチーム』だった川崎フロンターレに、『記録』を手繰り寄せられるのか?アベシャビンの活躍が楽しみです!
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