明治安田生命J1リーグは鹿島アントラーズが第1ステージ優勝を果たし、本稿執筆時点では第2ステージの第5節までを消化。
勝点39で第1ステージを制した鹿島だけでなく、勝点1差での同2位だった川崎フロンターレは4位のサンフレッチェ広島に勝点で9の差をつけました。ステージ優勝を逃したとはいえ、川崎は年間優勝を決める明治安田生命Jリーグチャンピオンシップ進出の条件となる年間勝点3位以上の座に限りなく近づいたと言えるでしょう。
そして、第2ステージ。その川崎が3勝2分の無敗で首位スタートしており、第1ステージ3位の浦和レッズも同勝点で続いて好調を維持。第1ステージの上位3チーム以外がチャンピオンシップに出場するには、第2ステージで優勝する道しかないと言える状況です。
そんな中、昨季のJリーグ王者である広島は第1ステージを勝点29の4位で終え、現在も年間順位3位の浦和には勝点9もの大きな差をつけられての年間4位。チャンピオンシップ進出には厳しい状況となっています。
負傷者続出、浅野の海外移籍、塩谷のリオ五輪派遣
by SOCCER KING
成績的にも厳しいところですが、それ以上に台所事情が厳しく、むしろ成績は上々と言える評価が妥当なくらいです。
今季はAFCチャンピオンズリーグを戦う過密日程があっただけでなく、開幕直後から負傷者が続出。特に3月中旬の大宮アルディージャ戦の終盤に相手のラフプレーで靭帯断裂の重傷を負ったDF佐々木翔選手の長期離脱が尾を引く形となっています。(上記写真)
佐々木選手が戦線を離れたため、ベテランの元日本代表DF水本裕貴選手に無理がかかり、現在はその水本選手までが負傷。さらにリオディジャネイロ五輪のオーバーエイジ枠としてDF塩谷司選手を派遣した事で、昨季のリーグを制した主力DFは現在、千葉和彦選手ただ1人という状況になっています。
また、佐々木、水本両選手を欠く左のセンターバックにはチーム最古参のMF森崎和幸選手をコンバート。しかし、その森崎和選手とボランチでコンビを組んでいた主将のMF青山敏弘選手までもが負傷。華々しいとはいえ、飛ぶ鳥を落とす勢いだった若手の日本代表FW浅野拓磨選手もアーセナルへ海外移籍したため、現在の広島は昨季のチームとは全く違う構成になっています。
ただ、MFミハイロ・ミキッチ選手や青山選手が負傷から復帰し、主力選手の負傷から出番を得たMF丸谷拓也選手やFW宮吉拓実選手は急成長。さらにMF宮原和也選手やMF清水航平選手はどんなポジションもこなしながらチームを支え、今後の巻き返しには期待が持てる状況になって来ました。
緊急補強のDF野上結貴~空中戦に強く、SBにも対応
by J’s Goal
とはいえ、相当な選手の離脱があったため、広島のフロントもしっかりと対応。攻撃陣にはブラジルから若手FWアンデルソン・ロペス選手が加わり、守備陣にはJ2・横浜FCからDF野上結貴選手を緊急補強しました。
直近のヴィッセル神戸戦ではMF清水選手が緊急コンバートにも関わらずに素晴らしい対応を見せたとはいえ、主力DF3人が不在の守備陣に加わり、いきなり背番号2を託されたDF野上選手には期待がかかります。
2012年に桐蔭横浜大学在学中、Jリーグの強化指定選手としてJリーグデビューを飾った野上選手は今季で5年目。これまでは横浜FC一筋にプレーし、J2リーグで130試合もの出場経験を持つ選手です。
本職はセンターバックですが、2013年に先発出場した40試合(途中出場合わせて41試合出場)ではセンターバックとして21試合、サイドバックとして19試合(右18,左1)でプレーするなどユーティリティ性の高さにも特徴があるDFです。
さらに180cm70kgというDFとしてはJリーグでも決して恵まれているとは言えない体格に見合わず、空中戦に強さを発揮するDFでもあり、毎年のJ2での自陣空中戦勝利数で上位にランクイン。サイドバックにも対応できる脚力も兼ね備えているため、高さと速さに対応ができる対人守備にも強さを見せます。
J2屈指のDFの現在地~塩谷の再来を期待も、まず守備のオプション
by 日刊!しし丸日記
しかし、横浜FCでは2013年からレギュラーを掴み、J2リーグで37試合、41試合、41試合とコンスタントに出場を続けていた野上選手ですが、今季は僅か8試合の出場に止まっていました。
もともと裏のスペースを突かれる事は少ないのですが、それは直ぐにポジションを下げて守備ブロックを低い位置で形成する傾向が強いため。そこからの脱却に挑戦するチームで弾かれた格好となってしまいました。
ただ、深いDFラインを敷くのはチームが守備の時間が長い事や、逆にボール奪取後にもしっかりとパスを繋げる能力も持ち合わせるためであったり、その特徴は広島の戦術にも向いている傾向があります。
J2からの叩き上げのキャリアや、CBとSBに対応できるユーティリティ性、ビルドアップの起点としてのセンスなどから、同じくJ2の水戸ホーリーホックを経由して日本代表にまで上り詰めた塩谷選手と比較される野上選手。
しかし、その塩谷選手も2012年の夏に加入後の半年間は広島特有の<3-4-2-1>という可変システムへの適応に苦悩し、僅か3試合の出場に終わりました。
それでも現在の広島DF陣には清水選手や森崎和選手などが緊急コンバートされるほど単純にDFの駒不足が顕著。逃げ切り時含めての守備のオプションが皆無な状態が続いています。
まずは空中戦の強さを活かした守備のオプションとしてチームを底上げしつつ、広島の戦術にフィットするための実戦経験も積みたい野上選手にとっては好都合かもしれません。
自身も「似たプレースタイルとして見本にしている」という塩谷選手と千葉選手も共にJ2やオランダの2部リーグからキャリアを築き上げた非エリート選手。
塩谷選手やFWドウグラス選手(現・アルアイン/UAE)を筆頭に、広島がJ2から獲得した選手が大活躍する例はこれまでも多く、現在も宮吉選手が浅野選手の穴を埋める活躍をし始めています。
野上選手にもその機会が与えられるでしょうし、その叩き上げの経験を初のJ1の舞台で、しかもリーグ王者の貴重な新戦力として披露する姿を早く観たいものです!