by 川崎市
悲願の初タイトルなるか!?
6月11日、明治安田生命J1リーグ第1ステージの第15節、暫定首位の川崎フロンターレは敵地での横浜Fマリノス戦で0-2と勝利して勝点を34に積み上げました。同日、AFCチャンピオンズリーグ出場の影響で消化試合が2試合少ない浦和レッズが敗れた事で勝点差が7となり、川崎が残り2試合を連勝すれば文句なしでステージ優勝が可能となる状況となりました。
これまでJ2リーグの優勝(1999,2004)以外はタイトルがなく、3度のJ1リーグ2位(2006,2008.2009)や3度のJリーグヤマザキナビスコカップ準優勝(2000,2007,2009年)など、タイトルを逃し続けて来た川崎がステージ優勝に限りなく近づいています。
2012年4月に就任して今季で5シーズン目の指揮を執る風間八宏監督の下、継続して来たスタイルでのタイトル獲得が目前まで迫っています。
「超理論派」風間八宏のサッカー観
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その風間監督は現役時代にプロ化がなされていなかった日本を離れ、単身ドイツで5年間プレー。2部・3部リーグでのプレーだったものの、本場のサッカーを体感した経験値は1989年に加入したサンフレッチェ広島の前身であるマツダSCでも大きく花開きました。
特にJリーグ創設2年目の1994年には、主将として第2ステージの優勝に大きく貢献。森保一元選手(現・広島監督)と組んだ中盤で知的なゲームメイクを魅せ、その頭脳的な舵取りでJリーグ創世記を彩ったMFでした。1995年に広島を退団後は「第2の古巣」ドイツで1年プレーしてから現役を引退。
引退後はフジテレビのスポーツ番組『スポルト』の人気コーナー「マンデー・フットボール」でお馴染みの解説業でお茶の間でも名を馳せてました。その傍らでは1997年から2004年までは桐蔭横浜大学、2004年からは川崎の監督に就任するまでは母校でもある筑波大学と、主に大学サッカー界の監督として指導の現場に立っていました。
特に筑波大学の監督として指導している際には、『スポルト』でも実証済の卓越した理論に裏付けられた指導法に、プロの指導者の間でも高く評価されていました。大学サッカー部の練習場に選手のスカウトだけでなく、Jリーグの監督やコーチ陣が視察に訪れるのも珍しくはなかったのです。
そんな「超理論派」の風間監督が満を持して2012年4月に川崎の指揮官に就任しました。現役時代も広島以外のプロクラブには在籍経験がなく、指導者としてはプロ経験が皆無な新人監督である風間監督。特にシーズン途中からの就任に対しては、期待と不安が共に大きくありました。
ただし、風間監督には成績面の立て直しはもちろん、チームに確固たるプレースタイルを植え付ける事が期待されていたのです。
クラブ初の「黄金期」も外国人FWに頼った速攻型
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川崎がクラブとしてのスタイルの定着を考えたのは、Jリーグの主要タイトルを争い続けた「黄金期」となる関塚隆監督時代(2004~2008,2009年)に、外国籍FWに頼りすぎた部分があったからだと考えられます。
関塚監督の下では、川崎は2006年から4年間で3度のリーグ2位となり、その間にリーグ最多得点を3度記録する攻撃サッカーの雄として人気を博しました。しかし、2007年のJリーグ得点王にもなったジュニーニョ元選手(上記写真)を筆頭に、北朝鮮代表FWチョン・テセ選手(現・清水エスパルス)やレナチーニョ選手の決定力や個の打開力をなしには語れないチームでした。
確かに現在のチームでも主将を務める元日本代表MF中村憲剛選手のゲームメイクやスルーパスの鋭さは当時から凄みがあったものの、彼等の個人能力を活かすための速攻主体のチーム作りになっており、何より日本人選手が主体的にプレーできる環境ではありませんでした。実際、そうした違いを作れる外国籍FW選手の退団を機にチームは低迷。2011年には11位でシーズンを終えていました。
そのため、卓越した理論と育成年代での指導に秀でた風間監督に、日本人選手を活かしたスタイルの導入と定着が課されたのです。
紆余曲折ありながら継続と深化を図った”風間スタイル”
風間監督が就任以降の川崎は、監督自身や選手達が頻繁に口にしているように、「DFの逆を取ってパスを受ける」「受けて、出して、動く」という独特のパス&ムーヴを軸とした流動的なパスサッカーを導入。緻密な精度が要求されるスタイルに変化しました。
ただ、監督就任直後に風間監督の実子である風間宏希選手(現・ギラヴァンツ北九州)と宏矢選手(現・FC岐阜)、筑波大学から多くの選手を加入させてレギュラーに定着させていた事を非難され、結果が出ない時期もありました。
それでも、3年連続で得点王を獲得しているFW大久保嘉人選手とMF中村選手のホットライン開通と共に、徐々に若手のMF大島僚太選手や森谷賢太郎選手などが中盤に台頭。また、”風間スタイル”に必須な後方からのビルドアップには筑波大学出身のDF谷口彰悟選手と車屋紳太郎選手が定着。昨年夏には縦へのドリブル突破で強烈なアクセントとなっていたMFレナト選手が退団しましたが、逆にそれがスタイルの深化には良い方向に左右したのかもしれません。
現在の川崎に所属する外国籍選手は、GKチョン・ソンリョン選手やDFエドゥアルド選手、MFエドゥアルド・ネット選手といった守備面で違いを作れる選手です。ドリブル突破が持ち味のエウシーニョ選手も主に右サイドバックが定位置の選手ですので、他のJクラブがフィニッシュに特化した外国籍選手を獲得している流れとは一線を画しています。それが、如何に攻撃スタイルがチームに浸透しているかの証拠と言えるでしょう。
「Jリーグで最も美しいサッカー」~”風間スタイル”から”川崎スタイル”へ
個々の選手が成長する事でチーム力を積み上げる風間スタイル。今季はそこに中盤でのボール奪取と並行に、奪い切れなかった時に低い位置で守備ブロックを敷く現実的な戦い方も部分的に取り入れる事で首位を走っています。
ただ、その変化は微修正で、総得点の29はリーグ最多。さらに、ボール支配率は浦和の61.5%に継ぐ57.1%のリーグ2位ながら、1試合の平均パス総数は浦和の650.8本を抑えて、663.9本でリーグトップの数字を記録しています。
風間監督の下、華麗なパスサッカーを披露する攻撃集団の戴冠となれば、創設24年目のJリーグの歴史にも一石を投じるトピックになるでしょう。
そして、タイトルを獲る事で、”風間スタイル”から”川崎スタイル”へとクラブにスタイルが根付くキッカケにもなります。
次節は6月18日、敵地で現在はリーグ最下位のアビスパ福岡との対戦が予定されています。
成就の時を迎えている川崎のサッカーに注目です!