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フットボール統計学から考えるハーフスペース活用法

ぱこぱこ・へめす

2018/01/22 08:35

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“サッカーを知っている”と言われるような選手は、どのようなプレーをしているだろうか。恐らく多くの方々は何となくニュアンスで使っているかもしれないが、その無意識的なものを大雑把に表現すると良いポジショニングや予測能力になると思う。実際、1試合90分の中でボールに触れられる時間は平均で3分程度と言われ、試合のほとんどを占めるオフザボールで良い準備をして決定的なプレーをできる選手が、重要な試合を決してくれる。

サッカーというゲームの、隠された最重要な特性はスペースをコントロールすることである。一般的にこれはあまりにも過小評価されている。味方選手や相手選手との相互作用の中で、それぞれの選手が良いポジショニングをしてチームとしてスペースをコントロールことが、良い結果(サッカーは他のスポーツと比べて運の要素が大きいため、短期的な結果は実力を正しく反映していない可能性があるが、長期的にはノイズ(誤差)が小さくなっていく)をもたらす。


by @Soccermatics

ここでは便宜上、自チームを4-3-3、敵チームを4-4-2として話を進める。どちらもポピュラーなフォーメーションであるのも理由の一つだが、4-3-3はポゼッション時のトライアングルを意識しやすい点を考慮している。また4-4-2は、イタリア代表などを歴任したアリゴ・サッキがゾーンでのプレッシングに用いて、現在でもその発展形が多く見られるからである。

ライン間、エントレリネアス

ライン間という表現は曖昧だが、ここではDF-MFのライン間を考えよう。ペップ・グアルディオラがバルセロナ時代、フットサルのエントレリネアスなどからアイディアを得て、メッシを中央に据えた偽9番を用いた(サッカーの歴史を紐解くと復活させたという表現が適切)。

9番はセンターフォワードを指す。昔、背番号が1番から11番の選手が試合に出るというルールがあった時に、背番号がポジションを指していた。オランダ方式だと4-3-3が広く用いられていたことから1番がGK、2番が右SB、3番が左SB、5・6番がCB、4番が守備的MF、8・10番がインサイドハーフ、7番が右WG、11番が左WG、9番がCF。ドイツでは守備的MFは6番と呼ばれる。8番と比べて10番の方が攻撃的で、日本でよくバイタルエリアと呼ばれるDF-MFライン間は、10番のスペースとも呼ばれる。

偽9番とは、センターフォワードでありながら、10番のスペースでボールを引き出す戦術である。両WGがワイドで高い位置を取ることで相手SBを深い位置でピン止めし、相手CBもスペースを気にして思い切って前に出ることができずに、中盤で数的優位を得ることができた。

ハーフスペース

グアルディオラがバイエルンに移ってから使われた主な戦術として、偽サイドバックがある。非ポゼッション時にはSBとしてプレーしながら、ポゼッション時にはインサイドハーフとしてプレーする。シーズンの経過や各試合ごとに様々なパターンが見られたが、SBが中盤として振る舞うという根底のアイディアがあった。ビルドアップや前進(プログレッション)での中盤の数的優位とともに、ネガティブトランジション(定位置攻撃から定位置守備への移行の局面)でのカウンターアタック対策としても効果を発揮した。


by fourthreethree

日本ではダビド・アラバの名前を取って、アラバロールと呼ばれたりもする。グアルディオラのもとで、アラバとラームは中盤の選手のようなプレーを見せていた。

バルセロナやバイエルンでもそうだが、リヌス・ミケルスやヨハン・クライフのトータルフットボールの系譜であるポジショナルプレーが、ポゼッション局面だけでなくトランジション局面でも有効であることを示したのがグアルディオラの功績である。

ハーフスペースの入り口とハーフスペーススクエア

グアルディオラはバイエルンのトレーニングピッチに4本の線を引き、5つのレーンに区切って選手たちのポジショニングの認知を可視化した。ドイツ協会がサイドとセンターの間をハーフスペースと呼び、ヨーロッパを中心に研究が進んでいる。

今度はハーフスペースを先ほど触れたライン間と結び付けて考えよう。ハーフスペースかつMF-FWライン間(2トップの両脇)のエリアをハーフスペースの入り口、ハーフスペースかつDF-MFライン間(CB-CH-SH-SBの四角形)のエリアをハーフスペーススクエアと、便宜上定義する。特に、ハーフスペーススクエアは完全に筆者の造語である。

まず、ハーフスペースの入り口は主にビルドアップ時に活用される。相手2トップ間に中盤の選手がポジショニングすることで、2トップは中央のパスコースを閉じる必要があり、両脇にスペースができる。CBの運ぶドリブル(ドライブ)はこのスペースの活用の形であり、中盤から1人落ちる3バック化ビルドアップの形がよく見られる。他には、レアル・マドリーのクロースのように、インサイドハーフからサイドバックの位置に落ちてボールを前進させる形もある。

一方、ハーフスペーススクエアは主にアタッキングサードでの崩しにおいて効果的である。サイドの高い位置に1人選手が張りながら内側のハーフスペーススクエアにもう1人が位置取りし、パスの出し手とトライアングルを作ることで、相手に解決しなければならない問題を与えることができる。


by footballtactics.net

ポジショニングのルール

以上のスペースを有効活用するため、ポジショニングについての簡単なルールがある。それは、“隣り合うポジションは同じ列にいてはいけない”というもの。ワイドな選手にSBが対応すればCB-SB間にギャップが生まれ、SHが対応すれば中盤で数的優位を作ることができ、中央圧縮で対応すればサイドからドリブルで仕掛けることができる。適切な距離感でのトライアングルはポゼッションを安定させられるだけではなく、相手に解決しなければならない問題を与えて迫ることができる。


by footballtactics.net

トラッキングデータからポジショニングのルールを考える

ライン間については相手の位置による相対的な位置、ハーフスペースはピッチを縦に5分割した絶対的な位置として紹介した。しかし、ハーフスペースについても相対的な位置として解釈するべきという考え方もある。従って、最後にポジショニングのルールを少し深堀りしていきたい。

ドロネー三角形分割とボロノイ図

まず、サッカーのトラッキングデータにおけるドロネー三角形分割とは、選手の位置座標を示す各点を結んだものである。簡単に言えば、各点を結ぶ線はパスコースを意味する。

一方、ボロノイ図は垂直二等分線を想像してもらうと良い。2点A、Bの垂直二等分線lを考えると、lよりもAに近い領域とBに近い領域にわけられ、サッカーに当てはめるとAに近い領域では選手Aの方が速く到達し、反対も成り立つ。すなわち、各選手が最も速く到達できる領域に分割するということである(各選手の速さを一定とし、身体の向きなどは考慮しない)。


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『サッカーマティクス』の著者である応用数学者のデイヴィッド・サンプター教授のGoogleでのプレゼンテーションである。4:55-7:35でグアルディオラのバルセロナの幾何学として、ドロネー三角形分割とボロノイ図について扱っている。

味方選手の点で作ったボロノイ図の点線上に相手選手が棒立ちになっていれば、どちらの選手からも遠い位置に立っており、プレッシングがうまくかけられずに守備が無効化されてしまう。ポジショニングのルールでハーフスペースとサイドをうまく埋めることは、相手を中間ポジションでピン止めしてプレッシングを無効化し、解決しなければならない問題を与えることに繋がる。

動き出し、身体の向き、認知

ライン間やハーフスペースの話題から、ポジショニングについて考えてきた。これらのことはポジショニングの基本であるが、サッカーはもちろん静的なものではない。常に駆け引きがある動的なものであり、状況を認知するために身体の向きをトレーニングで教え込む必要がある。グアルディオラのトレーニングセッションを見れば、通常のテクニカルエリア以上に熱く身体の向きについて指導していることがわかるだろう。

また最近では認知について、脳科学の分野からアプローチしているチームも増えてきた。SAPをスポンサーに持つホッフェンハイムやACミランのラボなどは有名だ。

今回はハーフスペースなどの具体的なメソッドの効果について、ポジショニングを静的な視点から見てきた。実際には選手たちが絶え間なく動き続ける動的なゲームであることは自明であるが、本質を見極める良い出発点だろう。

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