現代のフットボールにおいて最高のGKといえば誰を思い浮かべるだろうか。
マヌエル・ノイアー、ティポ・クルトゥワ、ダビド・デ・ヘアetc。近年著しい活躍を見せる実力者たちである。しかし、彼ほど長年にわたり愛され続け、活躍を続けるGKはいるだろうか。カテナチオと呼ばれる鉄壁の守備陣の最後尾に君臨する男、ジャンルイジ・ブッフォンである。
?Grande carattere, ma dobbiamo migliorare?. Il pensiero di Capitan @gianluigibuffon https://t.co/mxXS9Qfq4l #UdineseJuve pic.twitter.com/Q8I2Vf84By
— JuventusFC (@juventusfc) 2017年10月22日
GK史上最高額での移籍
向こう20年活躍するだろうと多くの者が口を揃えたセンセーショナルなデビューを飾ったその日から、今日という日までおよそ23年の月日が流れようとしている。
1995年11月19日、ユース時代から在籍していたパルマでプロデビュー果たしたブッフォンは目を見張る活躍を見せ、2001年7月2日、現在所属するユベントスへGKとしては異例の5230万ユーロ(当時、約56億円)で移籍を果たす。
GKとしてはあまりに高額の移籍金であったため多くの疑問の目が向けられた移籍劇であったが、今シーズンで在籍17年目となる今となって考えればあまりに“安すぎた”というべきだろう。
#OnThisDay, 2001 ?
L'esordio in ???? di due leggende assolute: @gianluigibuffon ?? e Pavel #Nedved ??#FinoAllaFine pic.twitter.com/W4qZSQqKY3
— JuventusFC (@juventusfc) 2017年8月26日
ブッフォンが世界最高であり続けている理由
今年39歳を迎え、ベテランの域に達しているこのアッズーリの主将が今なお活躍し続けていられる秘訣は何であろうか。
それは“圧倒的な堅実さ”である。
ブッフォンは同じく世界トップクラスと呼ばれるGKたちが魅せるような“派手なスーパーセーブ”が実は比較的少ない。裏を返せば『身体能力任せのスーパーセーブ』に頼らずにゴールに鍵をかけているのである。
30代後半ともなれば誰であれ反応力やスピードなどの身体能力が落ちてくるものであるが、ブッフォンは若く身体能力に頼れる年代から、状況判断力や的確なポジショニングなどに重きを置いてプレーしてきたのである。
同世代であり反応力を武器として長年好敵手と比較されてきたイケル・カシージャス(元スペイン代表・元ポルト)が近年、パフォーマンスの低下を囁かれるようになったのと対称に、未だワールドクラスとブッフォンが呼ばれ続けているのは“堅実な知略”を武器としてきた賜物と言えるだろう。
.@gianluigibuffon ? @IkerCasillas: in #FCPJuve si sfidano due leggende, unite da stima e rispetto reciproco ? https://t.co/s6T04bHioF pic.twitter.com/phGEyuF7GY
— JuventusFC (@juventusfc) 2017年2月20日
チームに愛を誓った最高の紳士
アッズーリの主将がここまで愛されるのは素晴らしいパフォーマンスによるものだけではない。人間としてもとてもナイスガイなのである。
象徴的なエピソードを一つご紹介したい。それは2006年、サッカー界で世紀の大スキャンダルと言われるセリエAで起きた八百長事件『カルチョーポリ』の際である。
この事件の首謀者としての容疑をかけられたユベントスはセリエBへの降格処分を受けることになった。
多くの選手が2部リーグであるセリエBでプレーすることに拒否の姿勢を示しチームを離れた中、年齢的にも絶頂期であったにも関わらず、『僕の家はここ(ユベントス)だ。愛してくれている家族(チーム)と運命を共にしたいと決めた』
とコメントし、アレッサンドロ・デルピエロ、パヴェル・ネドベドと共にいち早く残留を表明したのである。
この3人の中心的な活躍により、彼が愛した“家族”は見事1シーズンでセリエA復帰を果たしたのである。
三度の挫折にも屈しない最高の挑戦者
セリエA優勝8回、コッパ・イタリア4回、イタリアスーパーカップ6回、UEFAカップ1回、そしてFIFAワールドカップ1回。これまで数多くのトロフィーをその頭上に掲げてきたブッフォン。中でも語り継がれるのはやはり2006年のドイツワールドカップでの活躍だろう。大会を通してオウンゴールとPKによる自責点ゼロとも呼べる2失点のみで優勝を果たしている。そのワールドカップ決勝、フランスとの激闘の延長戦の中でジネディーヌ・ジダンのヘディングシュートを止めたプレーは歴史に残るビッグセーブと呼ばれ、12年たった今でも色褪せることなく語られている。
11 anni fa a #Berlino l'#ITALIA ?? vinceva la sua 4° #CoppaDelMondo?!
????#Azzurri #Nazionale #VivoAzzurro@fabiocannavaro @MisterLippi pic.twitter.com/OSUuF1fVEN— Nazionale Italiana (@Vivo_Azzurro) 2017年7月8日
そんな輝かしいキャリアを送ってきたブッフォンにも一つだけ足りないトロフィーがチャンピオンズリーグでの優勝、ビッグイヤーの戴冠である。
キャリアを通して3回(02-03,14-15,16-17)チャンピオンズリーグ決勝の舞台に歩みを進めているがいずれも準優勝に終わり戴冠の好機を逃しているのである。
その手に収めるまであとほんの少しというところで夢を断たれるのは1回の経験ですら並の人間には耐えられないほどの苦痛であろう。それが3回である。その絶望のほどと言ったら表現する言葉が見当たらないほどだ。
しかし彼は屈することなく前を向く。
『これ(敗北)もフットボールだ。またチャンスはやってくる。顔を上げてまた明日から進んでいくよ』
試合終了後にそうコメントしたブッフォンが、頬に涙をつたわせたのは三度目となる。それでも気丈にリベンジを誓うブッフォンの潤んだ瞳の奥からは、まだ闘志が消えていないことの証明だった。
そして最高のフィナーレへ…
ブッフォンは今シーズン終了後、ロシアワールドカップを最後に引退の意向を示している。この目でその雄姿を見ることができるのもあと数える程の試合しか残されていない。
ブッフォンを愛する者達が皆、口を揃えていう言葉がある。
『彼にビックイヤーを獲らせてあげたい』
三度、決勝の舞台に置いてきてしまった“忘れ物”を取りにいくチャンスはまだ一回残されている。
ブッフォンを愛する者達が望み、そして何よりブッフォン自身が誰よりも望んでいるであろう、ビッグイヤー戴冠という物語。
彼の輝かしいキャリアを締めくくるにふさわしい最高のフィナーレを、フットボールの神が用意してくれていると信じたい。