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【⑩INAC神戸レオネッサ編】今年から見よう!なでしこリーグ1部全チーム紹介

hirobrown

2017/03/25 21:55

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NEWS

3月1日からポルトガルで開催されていた『FPFアルガルベカップ2017』に参戦した女子日本代表=なでしこジャパン。

大会初戦こそスペインに1-2で敗れたものの、その後のアイスランド戦とノルウェー戦を共に2-0で快勝。グループBを2位で終え、5位・6位決定戦に回ったオランダ戦では終了間際にミスから失点して敗戦。最終成績は参加12カ国中の6位。

収穫も課題もたっぷり出たうえで確認できたのが、日本の女子サッカーの現在地。若手選手が大胆にプレーして自信をつけ、中堅選手がチームの軸として周囲を引っ張る姿勢も見えました。

そんなアルガルベ杯を終えた今、女子サッカーの注目は3月25日に開幕するプレナスなでしこリーグ。当コラムでは、そんな女子サッカーのトップリーグとなる、なでしこリーグ1部の10チームを1チームずつ紹介。

当連載の最終回となる第10回は、INAC神戸レオネッサ(以下、INAC神戸)です。

世界に誇る絶対女王=INAC神戸に訪れた転換期


by INAC神戸レオネッサオフィシャルブログ
 
日本の女子サッカー界をリードするクラブが現在のチーム名『INAC神戸レオネッサ』としたのは2009年シーズンから。2001年にホテル経営や飲食業を営む『株式会社アスコホールディングス』が設立したクラブは、“International Athletic Club”=まさに、「神戸から世界を目指す」というコンセプトの下で成り立っているチーム=「INAC(アイナック)」の略に、イタリア語で“雌ライオン”を意味する「レオネッサ」。ぴったりなネーミングです。

当時の女子サッカーリーグ『Lリーグ』に参入したのは2005年からで、『INACレオネッサ(当時のチーム名)』は初年度で2部優勝・1部昇格を果たし、2006年以降は1部に定着して現在に至っています。完全なプロ契約選手こそまだ少ないものの、現在のINAC神戸は日本では唯一の「選手達がサッカーだけに専念できる環境と待遇」を与えられている女子サッカーチームです。

現在に至るまでには、“時代”も味方しました。2009年に加入したDF甲斐潤子さん(昨季限りで引退)とDF/MF田中明日菜選手は前所属の『TASAKIペルーレFC』が前年限りで休部した背景により加入した選手。そして、2011年加入のMF澤穂希さん(2015年限りで引退)やFW大野忍選手、DF近賀ゆかり選手(現キャンベラ・ユナイテッドFC/豪州)ら日本代表の主力選手たちも、所属する日テレ・ベレーザ(前年に財政危機が表面化した東京ヴェルディ1969の女子チーム)が大幅な経営縮小に至った流れからINAC神戸に加入しました。見解次第では“引き取った”選手ですが、女子サッカー界を牽引していく覚悟により、その“運”を引き付けたと言えるでしょう。

その後2011年シーズン中には、INAC神戸所属選手が主力の半数を占めた=なでしこジャパンがFIFA-W杯ドイツ大会で優勝。快挙を成し遂げたことで一躍“タレント軍団”となったチームは、2011年シーズンにクラブ創設10周年でリーグ初優勝。そこからリーグ3連覇を果たし、2013年にはリーグ・リーグカップ・皇后杯の国内3冠と共に、国際女子サッカークラブ選手権2013も制覇する4冠を達成しました。

この2013年シーズンの4冠達成という集大成を有終の美で締め括ったINAC神戸は、川澄奈穂美選手(現シアトル・レイン/アメリカ)と近賀選手、前年にも大野選手と田中選手といった日本代表の有力選手が次々と海外クラブへ移籍。

ただ、クラブは即戦力補強を続けていた一方で、2012年にFW京川舞選手やMF仲田歩夢選手、2013年にはFW道上彩花選手、2014年にも増矢理花選手など高校年代の超逸材を獲得して来たチームは、このタイミングで大胆な世代交代を図りました。

新たな黄金期到来を予感させる昨年末の皇后杯制覇~あの時もそうだった!


この『国際女子サッカークラブ選手権』も制して4冠で締め括った2013年を最後に、INAC神戸は世代交代の波に揺れることに。
by INAC神戸HP

しかし、監督交代や主力選手の大幅な入れ替えがドラスティックに過ぎた世代交代は失敗。2014年シーズンのリーグ戦では10チーム中の6位と低迷。皇后杯でも早々と敗退し、前年の4冠から一転して無冠に終わりました。

さらに2015年シーズンからは前年後半戦から復帰していた川澄選手に続き、大野選手と近賀選手もチームに復帰。しかし、従来の黄金メンバーで“原点回帰”を誓いながらもリーグ戦での覇権をベレーザに奪われたばかりか、年間3位に甘んじました。

2015年シーズンは現役引退を発表したMF澤穂希さんを皇后杯優勝という有終の美で送り出せたのの、イタリアでよく言う「温め直したスープは美味しくない」というニュアンスのシーズンだったかもしれません。

その澤穂希さんとGK海堀あゆみさんが引退して迎えた2016年も、シーズン途中に川澄選手と近賀選手が再びの海外移籍で抜けました(川澄選手は年末にアメリカのシーズン制の影響もあって一時復帰)。

誰もが一目置く常勝チームに訪れる世代交代。それは古今東西・男女問わずとも苦悩の日々が続き、INAC神戸もその波に揺られました。


新たな世代が台頭して初めて掴んだ昨年末の皇后杯優勝。by INAC神戸HP

ただ、2016年シーズンはリーグでベレーザに2連覇を許したものの、皇后杯では2年連覇。しかも、決勝でPK戦でのビッグセーブを連発したGK武中麗依選手はもちろん、DF守屋都弥・MF伊藤美紀・FW京川・道上選手といった新たな世代が中心となって掴んだ初めてのタイトルとなりました。

タイトルラッシュが続いたのは日本代表の主力選手が大量加入した後でしたが、思い返せばクラブ史上初タイトルとなったのは、澤穂希さん等が加入する直前だった2010年度の皇后杯。他クラブから補強した選手が実力を示した事は百も承知の事実ですが、川澄選手や現主将FW高瀬愛実選手のような生え抜き選手の活躍と存在も大きかったに違いありません。

まだまだ下部組織から昇格して主力を担うような選手は輩出できていませんが、高卒でINAC神戸に加入した若い選手たちがチームの核となってタイトルを掴んだ経験は大きな意味を持つでしょう。

【注目選手】MF杉田妃和~澤穂希の“8”を継ぐ『世代最高選手』


2014年のU17W杯で世界制覇を果たした日本の中心選手として大会MVPを受賞したMF杉田妃和(中央)。左は同大会の準MVP受賞のMF長谷川唯。直近のアルガルベ杯で代表デビューも飾って大活躍の彼女に続き、杉田もなでしこジャパンでの活躍が期待される。
by fifa.com

そんな現在のチームで最も注目すべきは、MF杉田妃和(すぎた ひな)選手。2014年に日本がFIFA-U17W杯で初優勝を果たすという偉業を成し遂げたチームの司令塔で、自ら5得点を挙げて大会MVPも獲得した選手です。

さらに杉田選手を軸にその世界制覇を果たした“黄金世代”は、昨年にU20W杯にも出場。現実的に狙っていた世界制覇こそ逃したものの、チームの3位入賞に貢献した杉田選手はU17W杯に続き、U20W杯でも大会MVPを受賞。つまり、彼女はこの世代の『世界最高選手』です。

中盤ならどんなポジションでもこなす事ができる杉田選手ですが、特筆すべきは彼女の中での「フリーの考え方」の範囲の広さ。相手がマークについても、彼女からすればそれはマークだと感じておらず、ボールを受ける時にはとにかくターンして前を向いたり、相手を交わす事にトライします。

その上で「止めて、蹴る」というトラップ&キックの精度の高さはもちろん、ボールを持ってない時でも身体の向きが的確で視野が広い。ワンタッチ・ツータッチでどんどん展開を進めていく頭の回転の速さは、男子のJリーグや日本代表選手でも見習うべきポイントがありそうな大人なサッカーをプレーします。

筆者が初めて観た試合ではトップ下で出場していましたが、なぜかレアル・マドリーやアルゼンチン代表のボランチとして活躍したMFフェルナンド・レドンド選手を想起したのは、こうしたエレガントなボランチ像を放つプレースタイルだったからかもしれません。


昨年のU20W杯ではボランチとして3位入賞に貢献。U17W杯に続いて大会MVPを受賞したMF杉田妃和。by footballnationx.com

ただ、近年の下部年代の代表活動では圧倒的な存在感と結果を示して来た杉田選手ですが、2015年に藤枝順心高等学校を卒業してから加入した強豪・INAC神戸では出場機会を得られず。2015年シーズンのリーグ戦では僅か4試合の出場のみに終わりました。

そんな彼女が昨季からはINAC神戸でも主力に定着。女子サッカー界のレジェンドであるMF澤穂希さんやGK海堀あゆみさんが引退して迎えたチームの過渡期に、ボランチとしてチームの軸となり、世代交代の旗手となる活躍を披露。チームも前半戦こそ、その“産みの苦しみ”を味わって不安定さを露呈したものの、最終的にはリーグ戦を2位フィニッシュ。そして、杉田選手自身は『なでしこリーグ1部・新人賞』にも選出。前述したようにシーズン再終盤となった年末には、杉田選手を中心とした若い選手が主力に定着したチームで皇后杯を勝ち取りました。

新シーズンから2015年限りで引退して欠番となっていた澤穂希さんの背番号“8”が託された杉田選手。それは新たな黄金期の到来を大いに予感させるチームの大黒柱となった事が認められた証拠です。

3月になでしこジャパンが参戦したアルガルベ杯のメンバーには招集されませんでしたが、同大会では同期のMF長谷川唯選手(日テレ・ベレーザ)が2得点2アシストを挙げる大活躍。攻守の要であるボランチにはポジション的にも経験を必要とするため、未だ杉田選手は代表選出には至っていませんが、なでしこジャパンにも杉田選手や長谷川選手の同期が増えていくだろう今後、彼女は代表でも世代交代の旗手となって新たなチームを牽引する事が期待されます。

現在は日テレ・ベレーザがリーグ2連覇中ですが、MVPも2年連続でベレーザ所属のMF阪口夢穂選手。クラブでも代表でもボランチとしてゲームメイクを担う阪口選手は越えなければいけない壁です。阪口選手は昨季7得点でFWを務めたシーズンもあるほど得点力も備える選手ですが、昨季3得点に終わった杉田選手にとってはそこも課題か。

『世代最高選手』としてこの壁を越えるには、今季のなでしこリーグ優勝とMVPがノルマだと捉えているかもしれません。そして、それを乗り越えられるだけの選手が彼女。INAC神戸だけでなく、今後の日本の女子サッカー界の希望でもある杉田選手の活躍が今から楽しみです。
【INAC神戸レオネッサ在籍全選手リスト】(公式HPへ)

2度目の黄金期到来なるか? INAC神戸リーグ戦日程

ノエビアスタジアムでは今季もすでに6試合を開催予定。INAC神戸はホーム戦の地方開催を頻繁に行うため、スケジュールは要チェックです!by ノエビアスタジアム神戸

そんなINAC神戸は3月26日(日曜)、1部初昇格のノジマステラ神奈川相模原をホームに迎えて開幕戦を戦います。

ノジマのMF田中陽子選手はINAC神戸が2012年に京川選手や仲田選手と共に加入し、世代交代の旗手となる活躍を期待していた選手。ノジマの大黒柱となって1部昇格を牽引した彼女が神戸に凱旋するなど、開幕戦から注目ポイントが満載です!

攻守の要・杉田選手を軸とするチームにより、INAC神戸が新たな黄金期到来を告げるシーズンとなるか?サポーターならずとも注目のシーズンがいよいよ始まります!

【INAC神戸レオネッサ プレナスなでしこリーグ1部日程】

第1節、3/26(日)13:00 KICK OFF
VSノジマステラ神奈川相模原(HOME)ATノエビアスタジアム神戸
第2節、4/2(日)13:00 KICK OFF
 VSちふれASエルフェン埼玉(AWAY)AT鴻巣市立陸上競技場
第3節、4/15(土)13:00 KICK OFF
 VS浦和レッドダイヤモンズレディース(HOME)ATノエビアスタジアム神戸
第4節、4/22(土)12:30
 VSアルビレックス新潟レディース(AWAY)ATデンカビッグスワンスタジアム
第5節、4/29(土)13:00 KICK OFF
 VSジェフユナイテッド市原千葉レディース(HOME)ATノエビアスタジアム神戸
第6節、5/3(水)12:00 KICK OFF
 VS AC長野パルセイロレディース(AWAY)AT長野Uスタジアム
第7節、5/7(日) 13:00 KICK OFF
 VSマイナビ・ベガルタ仙台レディース(HOME)ATノエビアスタジアム神戸
第8節、5/14(日)13:00 KICK OFF
 VS伊賀フットボールクラブくノ一(AWAY)AT上野運動公園競技場
第9節、5/21(日)13:00 KICK OFF
 VS日テレ・ベレーザ(HOME)ATノエビアスタジアム神戸
第10節、5/28(日)14:00 KICK OFF
 VS浦和レッドダイヤモンズレディース(AWAY)AT浦和駒場スタジアム
第11節、日時未定
 VSアルビレックス新潟レディース(HOME)会場未定
第12節、8/27(日) 18:00 KICK OFF
 VSジェフユナイテッド市原千葉レディース(AWAY)ATフクダ電子アリーナ
第13節、日時未定
 VS AC長野パルセイロレディース(HOME)会場未定
第14節、日時未定
 VSマイナビ・ベガルタ仙台レディース(AWAY)会場未定
第15節、9/17(日)18:00 KICK OFF
 VS INAC神戸レオネッサ(HOME)AT神戸総合運動公園ユニバー記念競技場
第16節、9/23(土)18:00 KICK OFF
 VS日テレ・ベレーザ(AWAY)AT味の素フィールド西が丘
第17節、10/1(日)13:00 KICK OFF
 VSちふれASエルフェン埼玉(HOME)ATノエビアスタジアム神戸
第18節、10/7(土)13:00 KICK OFF
 VSノジマステラ神奈川相模原(AWAY)AT相模原ギオンスタジアム

【INAC神戸レオネッサ公式HP】

連載『今年から見よう!なでしこリーグ1部全チーム紹介』バックナンバー


by nadeshikoleague
なでしこリーグ1部全チームのクラブの成り立ちやチーム状況、注目選手などを当コラムの連載として掲載しております。

尚、バックナンバーは以下からご覧ください。
【①マイナビ・ベガルタ仙台レディース編】
【②浦和レッドダイヤモンズレディース編】
【③ちふれASエルフェン埼玉編】
【④ジェフユナイテッド市原・千葉レディース編】
【⑤日テレ・ベレーザ編】
【⑥ノジマステラ神奈川相模原編】
【⑦アルビレックス新潟レディース編】
【⑧AC長野パルセイロレディース編】
【⑨伊賀フットボールクラブくノ一編】

以上で、『今年から見よう!なでしこリーグ1部全チーム紹介』の連載を終了致します。
ご閲覧ありがとうございました。

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