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プレミアリーグ2016/17シーズンの上位争いとチェルシーの3バック

ぱこぱこ・へめす

2017/02/03 23:40

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期待点(ExpG)と運(Luck)

前回の記事でも触れましたが、日本ではまだ広まっていない試合分析の方法として期待点(ExpG)というものがあります。例えばこのリヴァプール対チェルシーの試合では、シュート本数は7対8でした。しかしその全てのシュートが同じ価値を持っているわけではありません。どの位置からどんな状況でシュートを打ったのか、それらの質的データを考慮すればより良い分析をすることができます。この試合では1.44対1.05(0.3とPK1本)という期待点となりました。1対1が妥当な結果と言え、わずかながらリヴァプールが高い期待点を出したことがわかります。リヴァプールは得点を決めた56分のシュートの他にも、後半開始直後や試合終了間際にチャンスを作りました。一方のチェルシーは、PKを外してしまいました。

この期待点という概念から運(Luck)を考えることができます。得点と失点から得失点差、自期待点(ExpG for)と敵期待点(ExpG against)から純期待点(Net ExpG)を計算し、その2つを比較することで運が良いか悪いかを判断することができます。すなわち、
     得失点差 = 得点 − 失点
     純期待点 = 自期待点 − 敵期待点
であり、
     得失点差 − 純期待点
の値が正、すなわちプラスであれば運が良い、逆に負、すなわちマイナスであれば運が悪いということになります。この当時、アーセナルやチェルシーの運が非常に良いことがわかります。リーグ優勝をするには時に運も味方につける必要があることを考えても、チェルシーやアーセナルがトップ2を張っていることは必然と言えるでしょう。

次の図は、横軸が純期待点で右に行くほど試合内容が良いことを表し、縦軸は攻防率(PDO)と期待攻防率(xPDO)の差、すなわち
     攻防率 − 期待攻防率
で上に行くほど運が良いことを表します。PDOとは、もとはアイスホッケーの分析に使われていた統計で、筆者はその性質から攻防率と呼んでいます。その定義は簡単で、得点率と防御率から成り立っており、最後に邪魔な小数点を無くすために1000をかけます(千分率、100をかけて百分率でも構いません)。すなわち、
     攻防率 = [得点/自シュート数 + (1 − 失点/敵シュート数)] × 1000
で表されます。筆者の個人的な感覚としては、サッカーはロースコアで勝敗が決し得点や失点が0になってしまうと、シュート数をうまく反映できないため、数学的にあまり良い印象を持っていません。続いて期待攻防率ですが、上の式の得点のところに自期待点を、失点のところに敵期待点を当てはめた場合の値となります。すなわち、
     攻防率 = [自期待点/自シュート数 + (1 − 敵期待点/敵シュート数)] × 1000
で表されます。再び筆者の見解を示しておくと、期待点はシュートの質を評価しており期待攻防率は得失点の代わりに期待点を用いているので好ましいと思いますが、攻防率の問題があるので、単純に得失点差ー純期待点の値で運を評価しても良いのではないかと思います(あくまで個人的な感覚です)。さて、話を図に戻すと、グラフの右上にいるチェルシーやアーセナル、スパーズは試合内容も運も良く、右下にいるリヴァプールやマンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッドは試合内容は良いものの運が悪く、結果が伴っていないということになります。

シュートのパターン

まずは攻撃から見ていきましょう。横軸はシュート数で右に行くほどたくさんシュートを放っていることを表し、縦軸はシュート1本当たりの期待点で上に行くほど質の高いチャンスを作っていることを表します。アーセナルが最も質の高い攻撃を見せ、スパーズは最もシュート数が多いながらも攻撃の質は低いことがわかります。アシストやその1本前のパスにスルーパスがあると期待点は高くなるのですが、アーセナルにはエジルがいますし、マンチェスター・シティにはデ・ブライネやシルバがいるので質の高さに納得できます。

次に守備を見てみましょう。横軸も縦軸も攻撃の時と同じです。チェルシーが左下に位置しており、守備の安定が伺えます。一方のリヴァプールやマンチェスター・シティは敵シュート数が少ないものの敵期待点は少し高めとなっているようです。

個人スタッツ

まずは期待点です。トップはマンチェスター・シティのアグエロで、マンチェスター・ユナイテッドのイブラヒモビッチが続いています。

デ・ブライネの覚醒

次に期待アシスト(Expected Assist)です。デ・ブライネがトップで、期待点と同じくマンチェスター・シティの選手が首位となりました。ペップ・グアルディオラ体制の中で新たに成長を見せる彼がスタッツでも結果を出しています。

コンテ率いるチェルシーの3-4-3

以前の『リヴァプールvsマンチェスター・シティ 期待点、プレミアリーグの戦術トレンド、グアルディオラの将来』という記事で、プレミアリーグの戦術トレンドについて5点を挙げました。今回は優勝候補筆頭のチェルシーの3バックを見ていきましょう。

忘れているかもしれませんが、チェルシーの2016/17シーズンの幕開けは完全にがっかりするものでした。彼らの勝利は不安定なもので、2-1のホームで敗れたリヴァプール戦や3-0で敗れたアーセナル戦は、スコアが示唆していたものよりも酷いものでした。チェルシーのプレーは明らかに劣っており、ライン間を支配されDFラインが晒されました。

シンプルなフォーメーション変更が行われ、チェルシーは破竹の勢いを見せ、13連勝で終わってしまいましたがプレミアリーグの記録である14連勝にあと一歩のところまで迫りました。すでにエミレーツ(アーセナルのホームスタジアム)、ホワイト・ハート・レーン(トッテナムのホームスタジアム)、エティハド(マンチェスター・シティのホームスタジアム)に行き、火曜日のアンフィールド(リヴァプールのホームスタジアム)への旅は恐らくリーグ優勝候補の残された最も厳しいテストとなるでしょう。

コンテ監督の3バックへの変更の決断は驚くべきものではありませんでした。彼はユヴェントスを率いてセリエAを3連覇しましたが、彼の3-5-2はヨーロッパで注目を集めていました。しかしながら、コンテ監督はそのシステムの厳格な主義者ではありませんでした。彼は当初、4-4-2に親しんでおり、それはしばしば4-2-4と見なされて攻撃的であり、そしてユヴェントスの3バックは主に3人のトップクラスのセンターバックであるバルザーリ、ボヌッチ、キエッリーニ(レアル・マドリーのベイル、ベンゼマ、クリスティアーノ・ロナウドに対抗しているのかはわからないですが、BBCと呼ばれることもあります)に恵まれていたため使うことになったのです。それは選手たちに適したシステムであり、コンテがイタリア代表を率いることになった時、彼はその3人のディフェンダーを抱えていたので、同様の形をするのが理にかなっていました。

チェルシーでは、彼の最初の意図は3バックではなく、彼は4-1-4-1システムを使い始めました。チェルシーのシーズン最初の試合、ウェストハムに2-1で勝利しましたが、サイドの特定のセクションの構造的な性質は明らかでした。クリエイティブな選手であるセスク・ファブレガスは、カンテ、マティッチ、オスカルの3センターでは省略されました。カンテはディフェンシブハーフとして、ほとんどマケレレの後継者としての役割を果たしました。通常、これはインサイドハーフであるマティッチとオスカルが自由に前へプレーできることを意味します。

しかし、彼らはそうしませんでした。彼らの主な動きは横向きであり、サイドバックが高い位置を取って、センターフォワードや両ウイングの選手たちとともに5トップ気味の形を取りました。一方、カンテはセンターバック間に列を降りる動きを見せ、センターバックはサイドへ広がりました。これは実際には、すでに3-4-3でした。

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