2012年5月。カルチョスキャンダル後初のスクデット、そして無敗優勝という最高の置き土産とともに、一人の英雄が『10番』という鎧を脱いだ。人々を魅了し続けた稀代のファンタジスタであり、老貴婦人(ユヴェントスの愛称)に忠誠を誓い続けた“バンディエラ”アレッサンドロ・デルピエロである。
英雄デルピエロがもたらしたこの11−12シーズンのスクデットから今日まで、ユベントスは7季連続優勝という栄光の日々を歩んでいる。そのうち2つのシーズンではCL準優勝と、欧州の舞台でも復権を果たしつつある。黄金期を歩んでいることは疑いはない。しかし、ビッグイヤーまであと一歩という所まで駒を進めながら準優勝に終わった2つ決勝で私たちユベンティーノは痛感した。
“10番の鎧を纏うバンディエラ”の不在である。
デルピエロが去った後、チームの主軸を担い、象徴と呼べる選手はもちろん存在した。昨季限りで老貴婦人のもとを離れた長年の功労者ジャンルイジ・ブッフォン、セリエB降格という屈辱の日々から現在まで老貴婦人に寄り添い続けているジョルジョ・キエッリーニやクラウディオ・マルキージオもバンディエラと呼べるその一人である。
しかしながら我々が待望しているのは、デルピエロのように長きにわたって10番を纏えるカンピオーネである。
老貴婦人の10番の鎧はあまりにも“重い”
デルピエロが脱いだ後の1シーズンは誰も袖を通せなかった。13−14シーズンからは確かな実績を持ったカルロス・テベスが纏い、その貢献は10番に相応しいものであった。しかし、彼が老貴婦人のもとを訪れた時にはすでにキャリアの終盤に差し掛かっており長年纏えるものではなかったため2シーズンで脱いでしまった。
次のシーズンは大きな期待を込め、長年纏うに相応しいポール・ポグバに託した。ついに後継者が現れたと喜んだのも束の間、彼はわずか1シーズンで脱ぎ捨て赤い悪魔と契約をしてしまう。
そして17−18シーズン、2シーズンに渡り21番を纏って確かな活躍を魅せてきた若き才能に老貴婦人は10番の鎧を与えた。当時23才のパウロ・ディバラである。
数多の英雄たちが袖を通してきた10番を、初めて纏い臨んだ17−18シーズン。負傷の影響もありコンディションが上がらず出場試合数自体は伸びなかったものの、リーグ戦において15−16シーズンは34試合19得点(一試合平均0.55得点)、16−17シーズンは31試合11得点(一試合平均0.35得点)に対し、17−18シーズンは21試合15得点(一試合平均0.71得点)と次世代のバンディエラに相応しい活躍を見せた。
記憶に新しい2018ワールドカップでは僅か21分の出場に留まったものの、4年後の2022年大会では間違いなくアルゼンチン代表の主役となる一人であろう。そんな若き才能に多くのビッグクラブから熱視線が注がれている中、ユベンティーノの心配はポグバのように去ってしまわないかという事だ。
だが、たくさんの噂は挙がるものの具体的に進展してる交渉はなさそうだ。
ディバラ本人も『ここ(ユヴェントス)で栄光を勝ち取りたい』と述べているように、老貴婦人に忠誠を誓う騎士として新シーズンに向けての準備を進めているように思える。
彼こそが我々が待ち続けた新たなバンディエラの系譜だろうか。いや、そうであると大きな期待を込めて願いたい。このまま残留を果たせば、同胞リオネル・メッシと双璧を為すスーパースター、クリスティアーノ・ロナウドとの共演によって更なる成長にも期待が持てる。ミシェル・プラティニ、ロベルト・バッジョ、アレッサンドロ・デルピエロら偉大なる名選手が纏ってきた重みある10番の鎧を果たしてこの若き騎士は着こなしていけるのか。あと2週間後に迫った18−19シーズンの開幕。大きな期待を込めて見守っていきたい。