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ナポリの幾何学的な美しさを生み出すトライアングル

ぱこぱこ・へめす

2017/06/22 19:46

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NEWS

2016/17シーズンが終わったが、今シーズンにヨーロッパのアナリストの間で最も評判が高かったチームの1つがナポリだった。
監督を務めるマウリツィオ・サッリは元銀行員であることが知られ、比較的早い段階からテクノロジーを用いていたことから注目されていた。
アマチュアクラブからエンポリ、そしてナポリとステップアップしてきた中、イグアインがユヴェントスに去っていった部分を補い、チームとしての完成度を高めたことが高評価の要因だろう。

ドイツの英語版戦術ウェブサイト『Spielverlagerung.com』でも、何度も取り上げられている。

守備の基準点

日本では宮崎隆司氏が“トータルゾーン”という言葉を新たに作り、ナポリの守備に関して考察している。このキャッチーな言葉には懐疑的であるが、トレンドとは異なる手法は興味深い。

守備の仕方には大きく分けて2つあり、人を守るのかスペースを守るのかである。もちろん2つを明確に分けることはできず、どちらの要素が強いのかで判断する。そこでこれらの要素を考える場合、守備の基準点の優先順位を見なければならない。

基本的には、守備の基準点としてボールの位置、味方の位置、相手の位置がある。当然ながらボールの位置が最重要なものであるが、次に注意しなければならないものによってチームのスタイルが表れる。人を指向する守備では相手の位置が重要であるが、ゾーンディフェンスの場合味方の位置を確認しながらスペースを埋める。

近年のトレンドとしては、全体としてはゾーンを守る場合でもボール保持者にプレッシングをかけるために、ボールの周辺ではマンマークで守備が行われることが多い。これによってインテンシティの高く激しい守備を行うことができる。

一方のナポリは、味方との適切な距離感を保ち、適切なポジショニングを取ることで守備を行っている。ボール保持者へのプレッシングに関しては、パスの移動中に寄せることで対処している。

トライアングルと5レーン理論

ポゼッションを行う上で最も重要なのはパスコースをできるだけ多く作ることであり、そのためには三角形を作らなければならない。4-3-3は最もトライアングルを作りやすいフォーメーションの1つである。

現在最も注目されている戦術理論の1つは“5レーン理論”だろう。中央とサイドだけではなく、“ハーフスペース”という概念をもたらしたことによって戦術の整備が進んでいる。“ハーフスペース”はダイアゴナルなパスや動き出し、死角の戦術的利用だけではなく、トライアングル作りにも貢献している。

特に今シーズンのナポリは、左サイドからの攻撃が目立った。左ウイングのインシェーニ、左インサイドハーフのハムシク、左サイドバックのグラムの三角形を中心に、周辺の選手が数多くのトライアングルを生み出すことによってボールを循環させ前進させていた。

特にパスコースについては、幾何学に関する応用数学であるドロネー三角形分割によって分析することが可能である。

ショートパスと死角の補完

ナポリのボール保持では少ないタッチ数でショートパスを繋ぐ場面が多い。これは前向きの広い視野を持った選手にボールを預けることができるとともに、それぞれの選手が死角を補完し合いながら素早いボール回しによって相手をいなすことができる。

ここで前向きの選手を使うには、列を飛ばした縦パスを送る必要がある。例えばセンターバックから中盤にパスを送り、プレッシングを受けて前を向けずにバックパスを出せば、振り出しに戻ってしまうことが多い。しかし、そこを飛ばして前線の選手まで縦パスを通すことができれば、中盤に落として前向きにプレーできて前進ができる。すなわち、2歩進んで1歩下がるということである。ナポリでは特にセンターバックのクリバリによる縦パスによる前進がよく見られる形である。

左右非対称性と可変式システム

すでに述べた通り、ナポリは左サイドでのトライアングルによる攻撃を得意としている。ここまで左右非対称なチームはそれほど多くないかもしれない。特徴の差から役割の最適化を行うことは重要である。

ナポリのビルドアップは、GKと2CB、セントラルMFによる菱形で行われ、両サイドバックとインサイドハーフがビルドアップの出口となる。またピッチ中央付近まで来ると、逆サイドのサイドバックが下がって3バックへと変換する。左サイドからの攻撃が多いため、右サイドバックのヒュサイがDFラインに残りがちである。これによってセンターバックのクリバリが左サイドに流れ、縦パスの精度によって攻撃を繋げている。

ポゼッション重視によるネガティブトランジションでの必然

ボール保持の局面を重視するチームにとって、“ネガティブトランジション”の向上は不可欠である。ボールを喪失した時にできるだけ速くボールを奪い返し、再びポゼッションをするためには、素早くプレッシングをかけてカウンターアタックを防ぎつつ、ボールをそのスペースに閉じ込めてしまう必要がある。そのためには、ボール保持者に素早く激しいプレッシングを徹底するとともに、チーム全体で適切なポジショニングを維持しインターセプトを狙わなければならない。

今シーズンのナポリはセリエAで3位、チャンピオンズリーグでは初の連覇を達成したレアル・マドリーに敗れてベスト16と、まずまずではあるがあと1歩上へ行けたというような成績だった。来シーズンはナポリやサッリにとってより良い結果となってほしい。

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