2016/17シーズンが終わったが、今シーズンにヨーロッパのアナリストの間で最も評判が高かったチームの1つがナポリだった。
監督を務めるマウリツィオ・サッリは元銀行員であることが知られ、比較的早い段階からテクノロジーを用いていたことから注目されていた。
アマチュアクラブからエンポリ、そしてナポリとステップアップしてきた中、イグアインがユヴェントスに去っていった部分を補い、チームとしての完成度を高めたことが高評価の要因だろう。
ドイツの英語版戦術ウェブサイト『Spielverlagerung.com』でも、何度も取り上げられている。
.@TomPayneftbl analysed the contrasting strategies behind Napoli's 1-1 draw with Juventus.https://t.co/f4k0e4qH3O pic.twitter.com/k3GoV8IunU
— Spielverlagerung.com (@spielvercom) 2017年4月4日
守備の基準点
日本では宮崎隆司氏が“トータルゾーン”という言葉を新たに作り、ナポリの守備に関して考察している。このキャッチーな言葉には懐疑的であるが、トレンドとは異なる手法は興味深い。
守備の仕方には大きく分けて2つあり、人を守るのかスペースを守るのかである。もちろん2つを明確に分けることはできず、どちらの要素が強いのかで判断する。そこでこれらの要素を考える場合、守備の基準点の優先順位を見なければならない。
基本的には、守備の基準点としてボールの位置、味方の位置、相手の位置がある。当然ながらボールの位置が最重要なものであるが、次に注意しなければならないものによってチームのスタイルが表れる。人を指向する守備では相手の位置が重要であるが、ゾーンディフェンスの場合味方の位置を確認しながらスペースを埋める。
近年のトレンドとしては、全体としてはゾーンを守る場合でもボール保持者にプレッシングをかけるために、ボールの周辺ではマンマークで守備が行われることが多い。これによってインテンシティの高く激しい守備を行うことができる。
一方のナポリは、味方との適切な距離感を保ち、適切なポジショニングを取ることで守備を行っている。ボール保持者へのプレッシングに関しては、パスの移動中に寄せることで対処している。
トライアングルと5レーン理論
ポゼッションを行う上で最も重要なのはパスコースをできるだけ多く作ることであり、そのためには三角形を作らなければならない。4-3-3は最もトライアングルを作りやすいフォーメーションの1つである。
現在最も注目されている戦術理論の1つは“5レーン理論”だろう。中央とサイドだけではなく、“ハーフスペース”という概念をもたらしたことによって戦術の整備が進んでいる。“ハーフスペース”はダイアゴナルなパスや動き出し、死角の戦術的利用だけではなく、トライアングル作りにも貢献している。
Napoli's passing maps throughout the season via @11tegen11. Remarkable city consistency with those left-sided combinations. #SarriBall pic.twitter.com/xMa1ZA9pKL
— Magnifiqué (@GameChangerEW) 2017年4月30日
特に今シーズンのナポリは、左サイドからの攻撃が目立った。左ウイングのインシェーニ、左インサイドハーフのハムシク、左サイドバックのグラムの三角形を中心に、周辺の選手が数多くのトライアングルを生み出すことによってボールを循環させ前進させていた。
One of Napoli's best possessions from yesterday. Left-sided combinations a big part of their game. pic.twitter.com/smvguUjYWK
— Tom Payne (@TomPayneftbl) 2017年1月25日
Napoli forcing Lazio defenders into all sorts of confusion and tough decisions pic.twitter.com/g9UfqQscRX
— sam (@11v11Sam) 2017年4月11日
Napoli movement and controlling of Juventus' defense to create space showed promise, despite not scoring here, en route to their 3-2 win pic.twitter.com/rEMR2rx1bI
— sam (@11v11Sam) 2017年4月9日
I do really love this goal. Especially because of Hamsik's movement to drop first & create space for the FB vs 4312. https://t.co/BUzSI5G4Fb
— István Beregi (@IstvanBeregi) 2017年5月15日
特にパスコースについては、幾何学に関する応用数学であるドロネー三角形分割によって分析することが可能である。
【更新しました】 フットボール統計学の世界 ドロネー三角形分割とボロノイ図によるフットボール幾何学 – FourThreeThree https://t.co/dXVTkSAhoQ pic.twitter.com/L5gMEJAwXD
— ぱこぱこ・へめす (@tenchan433) 2017年5月28日
ショートパスと死角の補完
ナポリのボール保持では少ないタッチ数でショートパスを繋ぐ場面が多い。これは前向きの広い視野を持った選手にボールを預けることができるとともに、それぞれの選手が死角を補完し合いながら素早いボール回しによって相手をいなすことができる。
Rondo 5 vs 5 | Napoli vs Cagliari #mauriziosarri #napoli #CoachPaint #ChyronHego #JoaoNunoFonseca pic.twitter.com/5y97GBIuw5
— Joao Nuno Fonseca (@joaonunofonseca) 2017年5月8日
Napoli drawing opponents out of vertical compactness – numerical superiority, blindside movements, bounce passes. pic.twitter.com/CHekTohg1F
— JM (@JMftbl) 2017年1月26日
ここで前向きの選手を使うには、列を飛ばした縦パスを送る必要がある。例えばセンターバックから中盤にパスを送り、プレッシングを受けて前を向けずにバックパスを出せば、振り出しに戻ってしまうことが多い。しかし、そこを飛ばして前線の選手まで縦パスを通すことができれば、中盤に落として前向きにプレーできて前進ができる。すなわち、2歩進んで1歩下がるということである。ナポリでは特にセンターバックのクリバリによる縦パスによる前進がよく見られる形である。
Incisive pass from Napoli to cut open up Udinese defense en route to scoring. pic.twitter.com/ak4ht9yKGj
— sam (@11v11Sam) 2017年4月16日
#Napoli positional game. Create fast positioning connections in the center of the field and on the flank @TPiMBW @KieranSmith1 @mrSheqiri pic.twitter.com/s5ssrDEvS9
— Kamil Orawczak (@KamilOrawczak) 2017年5月1日
左右非対称性と可変式システム
すでに述べた通り、ナポリは左サイドでのトライアングルによる攻撃を得意としている。ここまで左右非対称なチームはそれほど多くないかもしれない。特徴の差から役割の最適化を行うことは重要である。
ナポリのビルドアップは、GKと2CB、セントラルMFによる菱形で行われ、両サイドバックとインサイドハーフがビルドアップの出口となる。またピッチ中央付近まで来ると、逆サイドのサイドバックが下がって3バックへと変換する。左サイドからの攻撃が多いため、右サイドバックのヒュサイがDFラインに残りがちである。これによってセンターバックのクリバリが左サイドに流れ、縦パスの精度によって攻撃を繋げている。
ポゼッション重視によるネガティブトランジションでの必然
ボール保持の局面を重視するチームにとって、“ネガティブトランジション”の向上は不可欠である。ボールを喪失した時にできるだけ速くボールを奪い返し、再びポゼッションをするためには、素早くプレッシングをかけてカウンターアタックを防ぎつつ、ボールをそのスペースに閉じ込めてしまう必要がある。そのためには、ボール保持者に素早く激しいプレッシングを徹底するとともに、チーム全体で適切なポジショニングを維持しインターセプトを狙わなければならない。
Got to love Napoli. Merry Christmas, guys. pic.twitter.com/PVw2v4lxKc
— Eduard Schmidt (@EduardVSchmidt) 2016年12月25日
今シーズンのナポリはセリエAで3位、チャンピオンズリーグでは初の連覇を達成したレアル・マドリーに敗れてベスト16と、まずまずではあるがあと1歩上へ行けたというような成績だった。来シーズンはナポリやサッリにとってより良い結果となってほしい。