10月23日の日曜日。プレナスなでしこリーグ1部は全会場同時キックオフで今季の最終節となる第18節を開催。すでに2試合を残して日テレベレーザが2連覇となるリーグ優勝を決め、プレナスなでしこリーグカップ制覇に続く今季2冠目のタイトルを獲得していました。
この日、筆者が向かったのは三重県伊賀市にある上野運動公園競技場。伊賀フットボールクラブくノ一のメインホームスタジアムです。
今季の伊賀FCくノ一は前身の「伊賀上野くノ一サッカークラブ」「プリマハムFCくノ一」時代も含めてクラブ創設40周年を迎えましたが、成績不振でシーズン途中での監督交代も行われ、最終節を8位で迎えました。
ただ、勝点18の8位である伊賀が迎えたのは、勝点20の6位・ジェフユナイテッド市原千葉レディース。さらに他会場では勝点19で7位の浦和レッドダイヤモンズレディースが、独走優勝を決めた絶対女王=ベレーザを迎える試合も。つまり、伊賀は最終節の結果で順位を8位から6位へジャンプアップしてシーズンを締め括る事が可能な状況にありました。
「ポゼッション(保持)」から「プログレッション(前進)」へ
最終節の伊賀FC先発イレブン。チームはこの日も積極果敢な試合を披露した。by 伊賀フットボールクラブ くノ一
今季の伊賀は第10節から前女子技術委員の野田朱美監督が就任。野田監督は重心が後ろに傾いて守備的なチームになっていた伊賀に、高く押し上げた最終ラインからの丁寧なビルドアップや中盤でのパスワークを植え付け、試合の主導権を握るスタイルを構築して来ました。
就任当初はそれがビギナーズラック的なカンフル剤として公式戦3連勝という好結果に直結したものの、次第に産みの苦しみを味わい、ポゼッション(ボール保持)は出来ても崩しきれなかったり、決定力を欠くという守備的なチームからの転換時に置ける典型的な問題点が露呈。リーグカップでは6連敗、さらにリーグでも5連敗を記録して最終節を迎えていました。
その最終節の相手は昨季のなでしこリーグ得点女王でもあるFW菅澤優衣香選手、そして昨年の「FIFAカナダ女子W杯で大会全参加国の登録選手の中で最も身長の高い選手」だったGK山根恵里奈選手、という近年のなでしこジャパンに定着している選手2人を擁するチーム。
伊賀はこの日もDFラインを押し上げて積極果敢に挑み、尚且つボランチの位置からミドルレンジのパスを使うというアレンジも施していました。ハーフウェイラインまではしっかりと全体でパスを回して持ち上がるため、これは単なる前線への放り込みではないのは明らか。それが今までは相手が引いてスペースを消して来た上で、攻撃の軸であるMF杉田亜未選手に密着マークが付くと、得点パターンが限れたチームが導き出した最適解でした。
相手の初期プレスを外した上で素早くサイドのスペースを使い、下條彩選手・福丸智子選手の両サイドMFが前を向いて鋭いドリブル突破を仕掛けて相手を翻弄。今季後半戦から1.5列目気味にプレーするMF杉田選手が中盤に下がっては逆サイドに精度の高いサイドチェンジのパスを送ったり、カウンター時は得意の左サイドに流れて自らドリブル突破を仕掛けてフィニッシュに持ち込むなど、チームとして速攻の展開でフィニッシュに持ち込む事で課題を克服。
そのスタイルは「ポゼッション(ボール保持)」というよりも、「プログレション(前進)」サッカーというべき形に昇華されていました。
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