ライプツィヒ特集【第3弾】ブンデス首位快走を支える注目選手達とスウェーデンが生んだ民主的な『10番』フォルクスベリ

 今季初めてブンデスリーガ1部に昇格して来たRBライプツィヒ。開幕から先週末の第13節まで無敗を維持し、現在も8連勝中で首位を快走しています。

 当コラムでは過去2回でRBライプツィヒというクラブの成り立ち、そのサッカーの特徴である『パワー・フットボール』と、その伝道師であるラルフ・ラングニックSD(スポーツディレクター)などに焦点を充てて連載して来ました。

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 それでは、そんなRBライプツィヒではどのような選手が活躍しているのか?ライプツィヒ特集の最終回となる第3弾は、個々の注目選手に特化してお届け致します。
 
 とはいえ、今季のライプツィヒは10勝3分無敗という成績と共に、13試合で29得点11失点という数字も見逃せない部分です。首位チームである事はもちろんですが、昇格組とは思えないのは1試合平均2得点越えの得点力。その前衛的なスタイル『パワー・フットボール』を貫いているがゆえの成果です。

攻守にフルスロットル可能な分厚い陣容を揃える若手タレントが揃った前線

今季チーム最多8得点を挙げているドイツU21代表FWヴェルナー。20歳ながらブンデス通算出場100試合を越える経験も持つ逸材だ。by Die Roten Bullen

 システムは<4-4-2>ですが、そのシステムの運用形態から、しばしば<4-2-2-2>と表記されています。当コラムの第2弾でも述べたように超高速カウンターを成立させるため、サイドのエリアを少なくした縦長のフィールドでトレーニングや紅白戦を行っていますが、それは中央にアタッカーを密集させるこのシステムの機能性を引き出すためです。

 相手ボールの時は片側のサイドに極端に密集を作る数的優位からボールを奪うのはもちろん、ボール奪取後もその密集のまま速攻を仕掛けます。強引に縦パスを入れ、ミスが出てもそれをカヴァーできる距離感で前線の4選手が密集して仕掛けるのが『パワー・フットボール』のコアな部分です。

 ただ、FWや2列目のアタッカーにも攻守に渡ってフルスピード、フルスロットルに動き回る事が要求されるため、ライプツィヒには確固たる点取り屋は存在しません。その分、このチームにはベンチから出て来る選手も含めて、粒揃いの若手タレントが勢揃いしています。

 193cmの長身でポストプレーに長ける22歳のデンマーク代表FWユスフ・ポウルセン選手は開幕から13試合中12試合で先発起用され、チームで最も相手ゴールに近い位置にポジショニングする事が多い選手でありながら、ここまで僅かに1得点。それでも彼は首位チームの最前線で重要な役割を担う主力FWです。

 そして、超高速カウンターから得点を量産するライプツィヒで、今季ここまでのチーム最多8得点を挙げているのは、今季2部に降格したシュツットガルトから新加入したFWティモ・ヴェルナー選手。弱冠20歳の若手ながら、すでにブンデスリーガ1部で通算108試合の出場経験があるドイツU21代表のスピードスターです。

 180cmとドイツ人FWとしては小柄な部類に入るヴェルナー選手。実際、彼はサイドに開いて縦へ突破するドリブルでの推進力も売りにしており、世界的に1トップの布陣が一般的な現代サッカーではサイドアタッカーとして見られがちです。

 しかし、特異な<4-2-2-2>を採用し、2トップの1角として起用され、超高速カウンターの旗手として縦パスを引き出し、それを得点に直結させるヴェルナー選手は、まさにライプツィヒに最適なスピード系FWです。

『ベイルの再来』と称されるスコットランド代表FWバーク(19番)。巨漢ながら縦への推進力を持ち味とする驚異の19歳だ。by kicker

 また、今季からの新戦力として、現在は主にスーパーサブとして終盤から出場しているスコットランド代表FWオリヴァー・バーク選手。188cmで公称74kgとは思えない巨漢ながら、主に右サイドハーフの位置から『ギャレス・ベイル(レアル・マドリー/ウェールズ代表)の再来』と称される弾丸のような鋭いドリブル突破と推進力を感じさせるスピードに長けたアタッカーです。ポウルセン選手やヴェルナー選手以上の存在になる可能性を随所に感じさせる大器です。

 「ドイツ代表の未来を担う」と多くの国民から期待されている本格的な点取り屋タイプで、ドイツU21代表のエースFWダビー・ゼルケ選手ですら出番が限られる程に攻撃陣の層は分厚く、ラルフ・ハーゼンヒュットル監督は、選手交代を駆使しながら前線の選手の負担も多い『パワー・フットボール』を機能させています。

先発定着後全勝を牽引するフォルクスベリ~親子3代、妻まで選手のサッカー一家

12試合の出場で5得点7アシスト。先発に定着した第6節以降、チームは8連勝中と好調を牽引するMFフォルクスベリ。by SVT.se

 そんな個性豊かな若手タレントが揃う前線を操るのが、現在25歳で、このチームでは「お兄さん」的存在であるエミル・フォルクスベリ選手。主に左側の攻撃的MFとして起用され、ここまで12試合の出場で5得点。さらにブンデスリーガトップの7アシストを記録。チームの10番を背負うスウェーデン代表のMFです。

 上記した選手を含め、前線には新加入選手も多かった事もあり、今季は第5節まで先発1試合と開幕当初はレギュラーではなかったフォルクスベリ選手。しかし、彼が先発に定着し始めた第6節以降、チームは8連勝と全勝街道を牽引する活躍を見せています。

 そんなフォルクスベリ選手は「サッカー一家」として知られ、祖父・父親に続き、3代続いてGIFスンズバルというスウェーデンの地元クラブでデビュー。特に父親は1990年代までプレーした同クラブで123得点を挙げ、背負った背番号「10」が永久欠番となるほどのレジェンド。

 しかも、今年7月に結婚したばかりの彼の奥様もサッカー選手で、彼と同じくRBライプツィヒでプレーしています。

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スウェーデン代表にとっても民主的な新時代の10番

スウェーデン代表の新旧10番。絶対的なカリスマ=イブラヒモビッチ(右)と民主的な10番=フォルクスベリ(6番)。by ltz.se

 そんなサッカー一家に育った彼は、今年のEUROフランス大会にもスウェーデン代表として出場し、全3試合共に先発でプレー。当時は6番を着てプレーしていましたが、同大会を最後に代表を引退した現在35歳のFWズラタン・イブラヒモビッチ選手(現マンチェスター・ユナイテッド/イングランド)の跡を継ぎ、現在は彼の10番を継承しています。

 点取り屋であるだけでなく、アシスト能力も高く、身長195cmの高さや強さ、巧さ、若い頃は速さまで揃えた世界最高のFWだったイブラヒモビッチ選手ですが、彼はそれ故に守備を免除される独善的なプレーやピッチ外での行動でも有名な選手でした。

 そんな絶対的なカリスマ性を持つイブラヒモビッチ選手とは違い、フォルクスベリ選手はライプツィヒが志向する『パワー・フットボール』で最も運動量が要求される2列目のポジションでフルスプリントを繰り返す『民主的な10番』です。

ハイ・インテシティの中で「違い」を作る『非カリスマ型リーダー』

組織を引っ張るよりも、自ら組織の中に入り込む『非カリスマ型リーダー』のフォルクスベリ(中央)。by Mirror Online

 ライプツィヒでは前線から連動したプレッシングを敢行し、外されれば守備ブロックの一端を担うために後方に戻り、守備から攻撃への切り替え後もフルスプリントして左サイドから中央や逆サイドへ抜けるダイアゴナルランでパスを呼び込み、ドリブルや周囲の選手とのワンツーやダミーラン(囮の動き)で攻撃に関与し続ける。

 フォルクスベリ選手はそんなハードな役割をこなしながら、トップスピード&ハイ・インテンシティ(プレー強度)の中でもプレー精度が落ちずに得点やアシストを量産するための”違い”を作れる存在です。キック精度が高く、ライプツィヒでも代表でもセットプレーのキッカーも務めています。

 スウェーデン代表では左サイドMFとしてプレーし、サイドから中央へカットインするドリブル突破から強烈かつ正確なミドルシュートや、柔軟なスルーパスを披露する天才肌の10番ぶりを見せていますが、守備時には組織的な守備ブロックの一員としてスウェーデン伝統の堅守にも貢献する献身的なMFです。

 サッカー界だけでなく、一般社会でも『非カリスマ型リーダー』が高く評価される現代。179cm78kgと一般的な体格ながら、組織プレーを遵守し、個人としても違いを作って攻撃陣を牽引するフォルクスベリ選手は、そんな『非カリスマ型リーダー』として、現代サッカーが求める理想のサッカー選手なのです!

 以上、3回に渡ってお伝えして来た『ライプツィヒ特集』ですが、『パワー・フットボール』はボルシア・ドルトムントでユルゲン・クロップ監督(現リヴァプール監督)が日本代表MF香川真司選手を軸とした『ゲーゲン・プレッシング』にも似ており、本日紹介したフォルクスベリ選手は、その香川選手をもう少しサイド寄りに完成させたような選手。

 ライプツィヒの躍進の原動力である新戦術や、フォルクスベリ選手の特徴やプレースタイルは、日本サッカーの戦術的観点や選手個々の成長を促すための道標にもなりそうな要素が多分に含まれています。

 Jリーグは全カテゴリーの日程を終了し、日本代表戦も来年3月まで試合がありませんが、ライプツィヒの試合を観ながら日本サッカーの戦術や選手の未来像を想像するのも、サッカーファンの楽しみとなるのではないでしょうか?

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