ゾーン守備を攻撃に活かす「ゲーゲン・プレッシング」の原型
ドルトムントで日本代表MF香川真司をトップ下に据え、「ゲーゲン・プレッシング」でブンデスリーガを2連覇したクロップ監督もシュツットガルト出身の指導者。by SPOX.com
時は1990年代、イングランド発のゾーン守備を、イタリアが発展解釈して「ゾーンプレス」が生まれ、他方ではオランダ発の「トータル・フットボール」がヨハン・クライフ氏によってスペインに移植され、攻撃のための守備=「前進守備」が生まれました。
しかし、1990年のイタリアW杯と1996年の欧州選手権(現・EURO)イングランド大会を制していたドイツは過去の成功体験に縛られ、欧州全体が戦術的に進化する波から取り残され、代表チームもクラブレベルでも世代交代の遅れが始まり、次第に国際競争力を失っていきました。いつまで経っても「ドイツはゲルマン魂のサッカー」として語られる期間が長かったのはそのためです。
そんな3バックのマンツーマン守備が蔓延るドイツで、前線から最終ラインまでをコンパクトにする事により、4バックのゾーン守備を取り入れたラングニック一派。
そして「教授」ラングニック氏は3部リーグ時代のホッフェンハイムの監督に就任し、その実験をより深化させる事に成功。具体的にはボールを奪ってからの選択肢を縦パスに限定し、横パスはぺナルティエリアに入ってから許可される、という超高速カウンター攻撃でした。
横パスの選択肢を消すため、サイドエリアがほとんどない縦長のフィールドで行うという練習メニューや紅白戦が日常化されました。
最前線からのプレッシングを敢行するはもちろん、ボールを奪った瞬間の攻守の切り替えの速さで優位を作るサッカー。「ゲーゲン・プレッシング」や「トランジション型サッカー」と呼ばれるスタイルの原型を生み出したのです。
パワー・フットボール=「秩序化されたカオス」
RBライプツィヒのハーゼンヒュットル「現場監督」。首位を走るライプツィヒの躍進はもちろん、昨季躍進させたインゴルシュタットが最下位と低迷しているのも彼の有能さを証明している。by kicker
他にもボール奪取後8秒以内にフィニッシュに至るという約束事を作るなど、このサッカーには瞬発系のスピードと共に、それを90分間フルスロットルでやり続ける事を求められる、という意味合いで「パワー・フットボール」と名付けられました。
このサッカーを浸透させるには、スピードとスタミナが必要不可欠な上、未だ完成されていない軟らかいサッカー能を持つ若手選手の多いチームである事が絶対条件。その上に攻撃の最終局面では個のタレントに任される部分もあるため、ホッフェンハイムやライプツィヒ、ザルツブルクなどに将来を有望される若手タレントが揃うのも必然です。
競技力の強さだけでなく、歴史的な伝統を持つビッグクラブに対抗できないライプツィヒやホッフェンハイムは若手タレントを集めて斬新なサッカーをするため、大枠での戦術的な縛りは多いのですが、「獲得時より市場価値を上げる野心のある24歳以下の若手」という獲得対象となる選手たちは、概ね3年以内に国内外のビッグクラブや上位クラブへ高額な移籍金で引き抜かれて行きます。
チーム戦術上ではマンネリかもしれませんが、現場では半ば必然的に編成に変化が訪れるため、ラングニック氏のようなSDならぬ総監督の必要性や存在意義が高いチームです。
現在のRBライプツィヒのラルフ・ハーゼンヒュットル監督は、昨季は有力選手が皆無の昇格組・インゴルシュタットで降格圏とは無縁の11位に押し上げ、絶対王者=バイエルン・ミュンヘン相手にも獰猛なプレッシングで挑むサッカーを高く評価されていました。
そんな彼がラングニック氏が作った指導書やメソッドを現場で実践しながら、自身の経験や考えをアレンジとして取り入れ、「現場監督」として現実的にチームを作る。ロジャー・シュミットを生んだザルツブルクも含め、ライプツィヒも監督を養成する組織にもなっています。
「パワー・フットボール」は「秩序化されたカオス」とも表現されますが、子供たちがボールに群がりながら続く「団子サッカー」を、大人たちが複雑な約束事を用いて同様の密集を作って行うサッカーです。
余談ですが、サイド攻撃に特徴があったものの、オールコート守備や速攻の形など、これに近いサッカーをイタリアで1996年頃から初めていた斬新な指導者がいました。アルベルト・ザッケローニ氏。よく聞いた名前です。
ライプツィヒ特集最終回となる次項では、この「パワー・フットボール」を実践する注目選手に特化した内容でお伝えしたいと思います。
お楽しみに☆
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