祝・ルヴァン杯制覇で初タイトルの浦和ペトロヴィッチ監督~”ミシャ・スタイル”を越えた末の戴冠

01_%e6%b5%a6%e5%92%8c%e3%83%ac%e3%83%83%e3%82%b9%e3%82%9913年ぶりの大会制覇となった浦和。主要タイトルの獲得も2007年のACL以来9年ぶりと久しぶりの戴冠となった。by Football ZONE WEB

 代表ウィークを経てシーズンも佳境を迎えた日本のサッカーシーンは、今季最初の主要タイトルの行方を決めるビッグマッチを迎えました。今季の決勝トーナメント以降にヤマザキナビスコカップから改称し、新たに生まれ変わった「YBCルヴァンカップ」の決勝は、2014年の覇者にして3年連続の決勝進出となったガンバ大阪と、同大会では2003年以来13年ぶりの優勝を狙う浦和レッズというライバルによる”ナショナル・ダービー”の対戦となりました。

 2016年10月15日に埼玉スタジアム2002で開催された試合は、立ち上がりからG大阪がハイテンポで圧力をかけて試合を支配。そして、先頃レンタル移籍から完全移籍への移行が発表されたFWアデミウソン選手の約60mを独走する驚異的なドリブル突破から、GKとの1対1を制する圧倒的な個人技でG大阪が先制。ただし、前半の終盤頃から早い時間帯に途中出場したMF駒井善成選手が右サイドで起点となり、浦和がリズムを取り返していました。
 
 迎えた後半、勢いを増した浦和はズラタン選手や李忠成選手と強力FW陣を続けざまに投入し、同点に迫ると、76分。右からのコーナーキックにピッチに入ったばかりのFW李選手がファーストタッチとなるヘディングシュートを決めて1-1の同点に。その後もサイド攻撃を軸に、攻撃に”幅”と”深さ”をもたらしていた浦和が攻勢に出て、G大阪は本来の堅守速攻からのカウンターで一発を狙うという構図に。

 1-1のまま迎えた延長30分を含めて両者ともに決勝点こそ奪えなかったものの、先制されながらも盛り返した浦和はPK戦でも全5選手が成功。5-4で制し、同大会13年ぶり2度目の優勝を遂げました。

 チームとしての主要タイトルの獲得は、2007年のAFCチャンピオンズリーグ以来9年ぶりです。

祝・来日11年目の初戴冠となったペトロヴィッチ監督

来日11年目で初の主要タイトル獲得となったペトロヴィッチ監督。by 浦和フットボール通信

 浦和は昨季の明治安田生命J1リーグ第1ステージを無敗で優勝する偉業を果たしていましたが、昨年末の明治安田生命Jリーグチャンピオンシップでは準決勝でG大阪の前に延長戦の末に惜敗。

 そのため、浦和のミハイロ・ペトロヴィッチ監督はクラブ史上最長政権となる今季5年目のシーズンで初の主要タイトル獲得となりました。また、2006年6月にシーズン途中からサンフレッチェ広島の監督に就任するために来日した同監督は、広島での5年半の指揮も含めて、来日11年目で悲願の初タイトルとなりました。

 ペトロヴィッチ監督が就任する前年度の浦和はシーズン最後までJ1残留争いを強いられる低迷ぶり。そこでJリーグ屈指のビッグクラブである浦和が、広島で組織的で完成度の高いチームを作っていた同監督を招聘したのが2012年でした。

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独自の戦術で高く評価されるも、「サンフレッズ浦島」と揶揄されて・・・

実は広島時代から無冠だった柏木(左)と槙野(右)、李。優勝経験では森脇の方が勝っていた。by がっとーりおのJリーグワールド

 愛称”ミシャ”ことペトロヴィッチ監督は2006年6月から2011年シーズン終了までの5年半に渡って指揮した広島で、ユース出身の若手選手を主力に抜擢した上で、独特な<3-4-2-1>(攻撃時は<4-1-5>、守備時は<5-4-1>となる)の可変型フォーメーションを編み出し、日本サッカー界に衝撃を与える戦術家として高く評価されていました。

 指導者としてはジェフユナイテッド市原・千葉、日本代表監督などを歴任したイビチャ・オシム氏の下でコーチを務め、オシム氏が志向したような日本人選手の技術や運動量、勤勉性を活かした流動的なパスサッカーを日本流にアレンジしたのが、上記の可変型フォーメーションでした。そのため、オシム氏時代のジェフの選手は他クラブに移籍後は活躍できていませんが、広島や浦和では活躍するのは面白い現象です。

 浦和の指揮官に就任したペトロヴィッチ監督は、その広島で完成させた独自の可変型フォーメーションをそのまま導入した事もあり、当初は広島時代に自ら指導した選手を獲得してチームを作り、就任1年目から3位に躍進。

 しかし、就任前から在籍していたMF柏木陽介選手、2012年にはDF槙野智章選手、2013年にはDF森脇良太選手、2014年にはGK西川周作選手とFW李忠成選手、2015年にはFW石原直樹選手と次々と広島でプレーした選手を獲得しながら無冠が続き、一部ではサンフレッチェ広島と浦和レッズの双方を捩った「サンフレッズ浦島」などという風刺造語で揶揄されました。

 また、浦和はペトロヴィッチ監督の就任前こそ低迷していたものの、タイトルを宿命付けられるようなビッグクラブ。その中で、特に柏木選手と槙野選手、李選手に関しては広島でもタイトルを獲った事がなかったため、チーム戦術を推進する上での強化になったとはいえ、それが必ずしも総合的な「補強」と言えたのかどうかも厳密に言えば微妙に思える向きもありました。

“ミシャ・スタイル”を越えて個性が輝く現在のチームが3冠へ挑む!

4年間プレーした仙台で6得点ながら、浦和での約2年で24得点を挙げているFW武藤。彼や関根、駒井といった未完の才能が開花し始めた事が、チームの脱皮を象徴している。by Football ZONE WEB

 そこに変化があったのは2013年にDF那須大亮選手、2014年にGK西川選手という守備陣に優勝経験が豊富な選手が加わり始めてからです。

 後方に安定感が出た上で、2014年途中からはユース出身のMF関根貴大選手、2015年にはベガルタ仙台でも主力ではなかったFW武藤雄樹選手、今季は京都サンガから加入し、J1での出場歴が皆無だったMF駒井選手といった、無名ながらも、この独特なチーム戦術に適合するポテンシャルを持つ選手を発掘・台頭させて来ました。U23日本代表の主将を務めていた湘南ベルマーレのDF遠藤航選手を7クラブの競合の末に獲得できたことも大きかったでしょう。

 こうした若手やハングリー精神の強い選手が台頭した事で、それまでは難解なチーム戦術やスタイルを遵守するために固定されてきたレギュラー陣も奮起。競争力が高く、分厚い選手層のチームが出来上がりました。

 具体的にはそれまでは戦術やスタイルに傾倒しがちだった部分が、熾烈な競争により、プラスアルファで選手個々の個性を引き出す事に繋がったのです。”ミシャ・スタイル”が浸透するだけでは「広島の廉価版」だったかもしれませんが、そうした個性を輝かせる事でそれを脱皮したのが、現在の浦和レッズです。

 残り3試合となった今季のJ1リーグでも、第2ステージと年間順位で首位に立っている浦和。すでにチャンピオンシップ出場権も獲得しています。ルヴァン杯に続き、J1リーグと天皇杯に続く国内3大タイトルの独占も射程圏内。

 久しぶりの戴冠となった今季の浦和は、いくつタイトルを獲るのか?シーズン佳境のJ1リーグでも浦和の動向から目が離せません。

 そしてミシャ監督、おめでとう!

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