年間勝点1位を狙う川崎フロンターレとCS消滅のガンバ大阪~交わる事のない攻撃サッカーの雄それぞれの歩み

 明治安田生命J1リーグもいよいよ残すところ1試合。「文化の日」の11月3日、全会場13時30分キックオフで最終節が開催されます。

 先週末、浦和レッズが第2ステージ優勝を決めたものの、浦和はすでに明治安田生命Jリーグチャンピオンシップへの出場権を年間勝点3位以上の確定により決めていたため、あまり第2ステージの優勝はCSの行方には関係がありません。

 むしろ、CS準決勝を免除され、決勝までシードされる「年間勝点1位」の座を巡る争いこそが重要で、浦和はこちらでも勝点73で首位に立つものの、川崎フロンターレが同72で続いているため、最終節まで「優勝争い」は継続しています。

 ただ、今季の浦和と川崎の双方の勝点ペースは凄まじく、2005年にJ1リーグが18チーム制になって以降の年間最多勝点である昨年のサンフレッチェ広島の「74」という大記録を2チームともに更新する可能があります。

 そんな中、両ステージで優勝せずとも「年間勝点1位」を狙う川崎がホームで迎える最終節の相手は、ガンバ大阪です。

 
今季第1ステージの対戦では宇佐美の流血や疑惑のPK見逃し判定、川崎GKチョンの負傷交代などもあった因縁の対決。試合は大久保の得点でアウェイの川崎が0-1で勝利。by ログ速

「攻撃力完全2強時代」とタイトルマッチの因縁

 
川崎とG大阪の年度別リーグ成績比較

 良くも悪くもJリーグは実力差がなく、優勝の可能性があるチームが多いと言われます。特に多くの有力な若手選手を欧州へ輩出するようになった2010年前後辺りからはそれが顕著で、2010年から3年連続で初めてのリーグ王者(2010年:名古屋グランパス、2011年:柏レイソル、2012年:広島)を産み、2011年の柏と2014年のG大阪はJ1昇格1年目でのリーグ制覇を果たしました。

 しかし、ことコレが優勝クラブではなく、「リーグ最多得点チーム」に置き換えてみると、2005年から2013年までは、川崎(2006,2008,2009,2013年)とG大阪(2005,2007,2010,2011,2012年)が9年連続で「攻撃力最強」のこの称号を分け合って来ました。(上記表を参照)

 また、G大阪が大逆転で2005年のリーグ初優勝を決めた最終節と、2007年のヤマザキナビスコカップ(現・YBCルヴァンカップ)初優勝を決めた決勝、その2試合の対戦相手が川崎だった事もあり、因縁めいた対戦が続いています。

次ページ:風間監督の就任で華麗なパスサッカーへ変貌した川崎

風間監督の就任で華麗なパスサッカーへ変貌した川崎

 
今季限りでの退任が決まっている風間監督。他チームのサポーターをも魅了する華麗なパスサッカーを植え付け、集大成となるタイトル争いに挑む!by Gunosy

 川崎は就任5年目の風間八宏監督の下、元日本代表MF中村憲剛選手やリオ五輪の主力で日本代表にも定着して来たMF大島僚太選手を軸に、自他共に認めるJリーグナンバー1の華麗なパスサッカーを披露。その中で昨季まで元日本代表FW大久保嘉人選手が3年連続の得点王も獲得し、今季は得点王こそ首位と4点差で厳しいものの、その大久保選手と日本代表に定着したFW小林悠選手が15得点ずつを挙げています。

 攻撃志向が強い川崎ですが、このチームには時代と共に変化があり、関塚隆監督時代(2004~2008、2009年)は前線のジュニーニョ選手やレナチーニョ選手、チョン・テセ選手(現・清水エスパルス)等のような、個人技と決定力に長けた外国籍FWをシンプルに使う縦に速い攻撃を志向していました。

 それが風間監督が就任以降は監督自身や選手達が頻繁に口にしているように、「DFの逆を取って外してパスを受ける」「受けて、出して、動く」というパス&ムーヴを軸とした流動的なパスサッカーを導入。緻密な精度が要求されるスタイルに変化しました。

 しかし、そのパスサッカーをするに至っては、中村選手や大島選手、MF森谷賢太郎選手、MF/DFエウシーニョ選手、FW大久保選手・小林選手のように、主力選手が揃う事が条件となる選手層の乏しさを感じる部分が存在します。

 阿吽の呼吸や個々の組み合わせからチームを作り上げているため、「他の選手が入ると違和感が生まれてしまう」、というニュアンスが適切な表現と言えるかもしれません。

 それでも今季は上記の主力選手に負傷やリオ五輪派遣などで欠場者が多かった中、MFでは大塚翔平選手やU19日本代表の主力MF三好康児選手、3バックの右ストーパーにコンバートされたMF田坂祐介選手らが穴を埋め、風間監督も選手個々の特徴をより広く引き出せているからこそ、Jリーグ史上最多勝点記録の可能性を残して最終節を迎えるチームが出来上がっています。

長谷川監督の守備戦術が浸透したG大阪

 
西野監督(左)時代のMF二川(右)等を軸としたパスサッカーは現在のG大阪にはない。川崎とG大阪は真逆の進化過程を進んでいる。

 逆にG大阪は、「黄金の中盤」と呼ばれた遠藤保仁選手・明神智和選手(現・名古屋)・二川孝広選手(現・東京ヴェルディ1969)・橋本英郎選手(現・長野パルセイロ)という日本代表経験者が4人揃った中盤に、MF並みのパス能力を持つ日本代表DF山口智選手(現・G大阪強化スタッフ)を固定し、2002年から2011年まで指揮した西野朗監督(現・日本サッカー協会技術委員長)時代に「パスサッカーの本家」としての地位を確立。

 西野監督時代のG大阪は、J1リーグやナビスコ杯、2度の天皇杯だけでなく、2008年のAFCチャンピオンズリーグも制覇しましたが、最も大きなタイトルは、この「攻撃スタイルとイメージの定着」とも言える程でした。

 ただ、G大阪の場合は、家長昭博選手(現・大宮アルディージャ)や寺田紳一選手(現・横浜FC)のような下部組織出身の逸材MFが主力に定着できず。結果として選手層が薄くなり、終盤戦で疲労の色が濃くなって失速するパターンは、昨季までの「風間フロンターレ」そっくりでした。

 得点数が多いから、川崎とG大阪は「この2チームは似ている」という声をよく耳にします。

 しかし、G大阪は長谷川健太監督就任後に「黄金の中盤」を軸としたパスサッカーを捨て、2014年にはJリーグ史上初のJ1昇格初年度での3冠を達成しました。ただ、そのサッカーは中央を分厚くした守備ブロックからバスケットボールのファストブレイクのような反転速攻から、ブラジル人FWパトリック選手のフィジカルや突破力、または日本代表FW宇佐美貴史選手(現・アウクスブルクウ/ドイツ)や元U21ブラジル代表FWアデミウソン選手の個人技を活かすトランジション型(攻守の切り替えの速さ)のサッカーによるモノでした。

 長谷川監督が就任してからは口癖のように、「攻撃は水物」と言っている事に対して未だに受け入れられない部分があるファン・サポーターも相当数いるように感じられます。また、タイトルマッチ級の重要な試合での無得点による敗戦が多いのも「変化」の顕れと言えるでしょう。

似ているようで似ていない!真逆の進化過程を辿る攻撃サッカー対決

 
昨季の対戦でも5-3で勝利し、2得点を挙げているFW大久保。相棒FW小林が負傷離脱した現在、4年連続得点王の可能性を僅かに残す彼に期待がかかる!by エキサイトニュース

 対照的に川崎は、ボール支配を上げ、試合の主導権をさらに握るため、相手陣内でのプレッシングを強化。「前身守備」により、スタイルの継続と深化を図って熟成させて来ました。

 つまり、川崎とG大阪は立ち位置が逆方向にした進化過程を辿って来たチームです。

 「自分達のサッカー」や、「スタイル」、とはクラブやチームが持つモノではなく、監督が持つモノというのがJリーグの中での共通認識になりつつありますが、それが明確化したのは、西野監督の退任前後のG大阪の変化が大きいと考えられます。

 すでに今季限りで退任が決まっている風間監督が植え付けた華麗なパスサッカーは、「風間スタイル」なのか?「川崎スタイル」なのか?それを見る上でも興味深い最終節になるのではないでしょうか?

 ちなみに今季の「リーグ最多得点チーム」は、2位の浦和に6点も上回っている66得点の川崎。少なくとも今季はこちらのタイトルは奪還濃厚ですね☆

モバイルバージョンを終了