今回、宮城県高校サッカー界の重鎮、大森貞夫先生の挑戦についてインタビューさせて頂きました。大森先生は東北高校に26年間務め、今野泰幸選手をはじめプロ選手を多く輩出したサッカー部の名将でした。平成22年度から、仙台城南高校で新たな挑戦を始めました。決して強豪とはいえなかった仙台城南高校で指揮をとり、2014年10月には26年務めた東北高校に勝利。そして、2015年には宮城県高校サッカー新人大会で優勝を飾り、同サッカー部を県内有数の強豪校に育て上げました。大森先生の新たなチャレンジを紹介させて頂きます。
26年務めた東北高校から、仙台城南高校へ移られたのでしょうか?
単純な理由ではないです。多くの人達は、城南高校から引っ張られたと思われているようです。本当のことを言うと、東北高校で問題がありました。ちょうどその時、早期退職という制度がありましたので、平成22年度に(東北高校を)辞職しました。私は定年退職まで東北高校で教鞭をとろうと考えていましたけど、少し残念でしたね。逆に今となれば、65歳まで働ける城南高校さんでやれていることはよかったと思います。(平成27年度宮城県高校新人サッカー大会優勝)結果もそれなりに果たせました。周りの若い指導者に夢みたいなものを与えられたかなと考えています。
新天地の城南高校で一番苦労なされたことはありますか?
もっともっと、苦労するとは思っていたんですけどね(笑)たまたま、(東北高校時代)教え子の大和くんが城南高校に(教員として)採用されましたので、練習もスムーズにできるようになりました。徐々に、生徒数も増えて、質も上がっていきました。目に見えて、上手くなってきているなと実感しています。まだ、優勝は考えていませんが、ベスト8を常に目指してやっています。特に城南高校はチームスポーツで上位へ行っている部活がありませんので、そういう面で恩返しできたかなと考えてはいます。
練習見学中にインタビュー受けて頂いた大和史弥先生と小野周也主将
教育者として指導に心がけていることを教えてください。
サッカー監督が仕事ではなくて、教員が本業ですからね。選手には、授業をきちんと受けろと指導していますし、校内でも模範的な生徒になってほしいと口煩く言っています。今、(ユース)クラブチームが凄く充実してきています。クラブチームの指導者にはできない選手の生活が見れるところが、(教員の)利点だと考えています。我々は、仕事の中で生徒を見ていられますし、グランドでサッカーの練習も見れます。この2つができて初めて、いい選手が育ち、いいチームができると考えています。
ユースやリーグとサッカー界の動きは目まぐるしく変わっていますが、どのように対応なさっていますか?
(ユースやリーグは)日本サッカー協会の考えを地方にうつした形と考えていますけど、私は最初賛成しなかったんですよ。リーグ戦を多くする狙いがあって、海外ですとリーグ戦が主体であり、リーグ戦に強いチームが一番強いチームという考えがあったんですね。僕は、一発勝負のトーナメントを経験してきたので、特に力のないチームが強いチームを倒すということに生きがいを感じていました。トーナメントのほうが、日本に合っていると考えていました。ただ、リーグをやってみて、タフさとか真の力が見えてくるのはリーグ戦かなと感じました。このリーグ戦で力をつけたチームが、トーナメントで力が発揮出来るなと痛感しました。リーグ戦で他のチームも変わっていることは、目に見えて分かります。(今は)リーグ戦方式は間違っていないと考えています。
5時間強のフィジカルトレーニングをしっかりこなす部員達
大森先生は今野泰幸選手、村田純平選手、嶺岸佳介選手など多くのサッカー選手を育てました。新天地では、今野選手のような素晴らしい選手を輩出できそうですか?
できると思います。今野選手とか純平は育て上げたって実感はないんですよ。持っている力を引き出したというか、自分達の力で育ったと考えていますけどね。もっともっと能力が高い子供も見てきていますけど、それが中々(プロ)にいけないのは僕の力もありますし、その子自身の力っていうのもあると思います。僕が作り上げたということは、決して思ったことはないんですよね。
(今野選手のエピソード)
中々、今野のよさを認めない指導者が日本には多いんですよ。たまたま、岡田さんとソニー仙台の監督だった長澤さんが独特な見方をしてくれて、発掘した感じなんですね。それが、日本代表になった大きなきっかけだと思うんですね。私もそこまで、彼が凄い選手とは思っていなかったんですよね。誰よりも努力するということはあったんですけど、上でマッチできるのかなという不安はありましたね。彼は大人しいし、表面に出す子じゃないから上にはいけないかもと思っていました。ですが、岡田さんに見出されたのは大きいですね。
新天地での最終目標はありますか?
この前のTVでの取材で言ったことですけど、我々は強いと思われている高校に簡単に勝たせないというチームを作る。そういったチームは間違いなくできると若い指導者に示したいです。最終的には、頂点に立てればと考えています。一番は、簡単に負けないチームを作りたいですね。それが宮城県のレベルアップや全国大会に行っても、うちと同じチームはありますので、それらに勝てるチームがあってほしいです。中々、全国上位で勝ち上がるようなチームが宮城県にはないことに、レベルの低さを感じますね。
大森先生に取っての高校サッカーとは?
人間を作る環境ですね。サッカーで人を作る環境だと思いますね。私も高校サッカーを長いことしていて、生徒や指導者と交流して人生も豊かになりました。そして、サッカーという深みのあるスポーツである以上人間の繋がりも長く深く付き合えるのが嬉しいですし、生徒達にも同じ経験をして欲しいと思っております。
仙台城南高校の主力選手達。さわやかですね。
実際に城南高校で練習見学をさせて頂きましたが、フィジカル練習を入念に行って生徒達の身体作りに取り組んでいました。専属のフィジカルトレーナーを雇い、基礎から重点的に指導する高校はあまり多くないです。日本サッカーのトレンドはテクニカルなサッカーになりつつありますが、質実剛健な堅守速攻を掲げる大森先生のサッカーは基礎を非常に大事にしていると感じました。そして、取材に受け答えして頂いた大和史弥先生と小野周也主将も大森先生のフィロソフィー(哲学)を理解し、チームが一致団結しています。仙台城南高校サッカー部は宮城県だけでなく、全国に新しい風を作るでしょう。