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【コラム】敗れてなお、美しくあれ─。誇り高き“老貴婦人”の振る舞い。

水上いろは

2018/04/05 23:40

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チャンピオンズリーグ準々決勝。このラウンド屈指の好カードで、ユベントスが本拠地アリアンツスタジアムにレアル・マドリーを迎えた一戦。最強の“盾”を持つ守備のユベントスと、最強の“矛”を持つ攻撃のレアル・マドリーの対戦はどちらに転ぶかわからない接戦が予想されたが、結果は0-3と、一方的に“矛”が“盾”を貫き破る結果となった。

この日のユベントスはいつもとどこか違った。通常、磐石の立ち上がりで安定したゲーム運びを展開するユベントスは、浮き足立ったプレーをし開始僅か3分で先制を許してしまう。完全に出鼻を挫かれたユベントスは、度重なるミス、数多の窮地を救ってきた名手キエッリーニの安定しないプレーなど、本拠地であるにも関わらず、完全に試合を支配されてしまった。

そして、64分。おそらくチャンピオンズリーグの歴史に残るであろうスーパーゴールが生まれる。レアル・マドリーの絶対的エース、クリスティアーノ・ロナウドによる推定238㎝の高度から放たれたスーパーバイシクルシュート。完全にこの試合の“主人公”となった彼のスーパープレーは、ユベントスサポーターからもスタンディングオベーションが贈られるほどスタジアム全体を彼のモノとした。

その後、パウロ・ディバラの退場とマルセロの追加点というハイライトはあったものの、その全てを霞ませるクリスティアーノ・ロナウドのスーパーゴールは、ラウンド突破を願うユベントスサポーターの心を打ち砕く事を通り越して、感動すら与えてしまった。

ユベントスのキャプテン、ジャンルイジ・ブッフォンは試合後のインタビューで『クリスティアーノ・ロナウドは世界最高の選手だ。僕らのラウンド突破は非常に難しくなり、とても悔しい結果であるが、客観的に見ても今日の彼らは勝利に相応しい最高のプレーだった』と称賛を唱え、アンドレア・バルザーリは『彼は本当に驚異的な選手で、世界最高の一人だ』と拍手を贈った。

本拠地で0-3という結果。セカンドレグではレアル・マドリーの本拠地ベルナベウで、ディバラを欠いた状態で少なくとも4点奪わなければラウンド突破ができないという状況は、いちユベントスファンとして絶望感を隠しきれない。しかし私は、結果以上に誇らしい想いもある。

例のスーパーゴールの後、そして試合後の二度に渡り、スタジアムに訪れたユベントスサポーターはクリスティアーノ・ロナウドに対しスタンディングオベーションを贈った。敗れた試合で、ラウンド突破が絶望的になったこの状況で、その様なリスペクト溢れる行為を行える事は、まさしく“老貴婦人”の名に恥じないとても美しい瞬間であった。敗れてなお、選手・サポーター共に、高貴に振る舞えるその姿勢は、近年のフットボールで中々見る事のできない美しく瞬間であったと思う。
称賛を受けた当のクリスティアーノ・ロナウドも「素晴らしいサッカーをするチーム、そして優れた選手たちがいるユヴェントスのスタジアムで、このような拍手を受けとても興奮した。僕のキャリアを通してあのような拍手は最も心に残るものであり最も誇らしい瞬間だった。全てのイタリア人に感謝したい」と言葉を残した。

敗者たる時こそ、美しくあれ──。まさしくこの言葉を体現した“老貴婦人”であったが、まだラウンドは90分残っている。もちろん難しい状況ではあるが、可能性はゼロではない。その誇り高い姿をまた披露し、あわよくばこの美しい老貴婦人たちをあと90分で見納めにならない事を、願いたい。

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