“名岐ダービー”は今シーズンのハイライトだった。
——観客動員について話を移しますが、先のインタビュー<J2参入10周年『挑戦 Challenge』FC岐阜の集客アップ大作戦の全容に迫る>の中で、宮田社長が語っていた集客力、そのハイライトと言えるのが第35節の名古屋戦、“名岐ダービー”だったのではないでしょうか。
(白鳥)17027人。FC岐阜史上最高の観客動員でしたね。やはり“名岐ダービー”は特別ですよね。
——岐阜出身のFC岐阜サポーターの白鳥先生にお伺いします。名古屋から岐阜は電車に乗れば20分ほどで到着することができる、いわば同じ経済圏にある土地同士の対戦には、並々ならぬ対抗意識があると想像してしまいます。両チームの対戦にはどのような意味合いが含まれているのでしょうか。
(白鳥)そもそも名古屋グランパスはFC岐阜ができる前からありましたし、しかも長良川メモリアルセンターでも試合をしていましたから、昔からのサッカー好きは名古屋を応援していました。岐阜にチームがありませんでしたから。でも、岐阜にクラブができたから、じゃあオレは岐阜を応援する、でも子供は名古屋を応援している。家庭内で応援するチームが違う人が結構います。
両方好きという人もいれば、嫌いという人もいますし、やるからには本気でという態度で我々(サポーター)も臨みましたが、名古屋で試合ができることはすごく良いことですし、名古屋がJ1にいてくれるとJ1の試合が名古屋で瑞穂とかで観られるからいいかなという。そういう意味では良い立地ですね。
親戚みたいなものです。(笑)知り合いが名古屋サポーターとか、父親が名古屋のサポーターだとか。クラブスタッフだってそうですよ。岐阜にクラブができるから名古屋から移ってきたとか、スポンサーだってそうですし。
——天皇杯やリーグカップを含めて、名岐が対戦することは初めてだったのですか?
(白鳥)違います、天皇杯はあります。まぁ負け続きですけど、3月の名岐ダービーは1-1で引き分けました。先制点もウチが入れました。ですが、ホームでやった時は2-6負けて、地力を出されたとは思いますが、それでもやはりここまできたという気持ちもありますし、名岐ダービーをやれたこと自体が本当に嬉しかったですね。
名古屋からたくさん来てくださるので、普段は解放されないアウェイゴール裏もアウェーサポーターに開放されて。ウチもコレオ(コレオグラフィー)やりましたけど、向こうも旗を全面に掲げてくれて、とっても良い雰囲気でした。
——コレオをやったのですね!
(白鳥)文字つきのコレオはおそらく史上初ではないでしょうか。サポーターは前日から準備をして、当日もコレオは座席をきちんと詰めないと出来上がらないので、だからすごくピリピリしていて、私も人と会う約束がありましたが、コレオのために早めに駆けつけました。
——FC岐阜の魅力は何でしょうか。
(白鳥) 私は岐阜出身だからFC岐阜を応援するという感じですね。サッカーにはそれほど詳しくないですし。でも、岐阜にチームがあって2週間に一度、ホームで試合が観られる。FC岐阜のチャントは“岐阜”という言葉を多く用いるので、地元の名を叫べるというのが魅力です。あとは今のチームがしているサッカーが面白いからですね。
——大木監督が就任して、白鳥先生から見てチームはどう変わりましたか?
(白鳥)以前は戦術がなかったですね。個人任せみたいなところがありましたが、今はパスがすごく多い。ポゼッションサッカーというと監督は怒ると思いますが、チームが何をしたいのかが伝わってきますね。成長したいという気持ちがクラブからも伝わってきますし、チームからも伝わってきます。勝てばいいではなく、一貫しているように感じます。だから来年こそはという期待を抱かせてくれる。
——白鳥先生が選ぶ、今シーズンのベストゲームを教えてください。
(白鳥)名岐ダービーはもちろんですが、アウェー水戸戦ですね。コラボイベント『アニ×サカ』も嬉しかったですしね。開始早々に前田(大然)選手に決められて、そこから跳ね返したという。逆転して勝つというのはやはり嬉しいですよね。最後まで諦めない、終盤、相手の足が止まったところでも岐阜はまだ動いている。チームの成長を目の当たりにする嬉しさもありますし、そこに自分が多少なりとも関われていることが本当に嬉しいです。
クラブ隆盛のために必要なこと
——岐阜サッカー、岐阜のクラブ、あるいはJ2 が繁栄するために、集客という意味でその企画に関わった当人として、どのような感想をお持ちですか。
(白鳥)まず痛感したのは、アニメの力だけで劇的にクラブを変えることは不可能だということですよね。でもアニメがあることで、例えばイベントで200人集めて、その中から1人でもシーズンチケットを買ってくれる。J2はホームの試合数が多いのでそういう人を少しでも増やしていくことが大事だと思います。だから、コレはサッカーと関係ないからと言わずに、どうしたら楽しんでもらえるかを考えてみる。柔軟な発想が必要だと思います。
ただし、成熟しているクラブ、歴史あるクラブには、そういうところにそういうものを安易に入れてしまうと、コレちょっと違うよねという声が挙がるのは当然だと思います。そういったクラブでは、サッカーに特化した企画、あるいは、目の肥えた方に来ていただくイベントをしてもいいですし、サッカーに目の肥えた人を増やす、その人たちにお子さんを連れてきてもらうためにどうするのか。そういうところに力を入れてもいいかもしれませんね。
——水戸ホーリーホックとのコラボをはじめ、ライバルチームと手を取り合うことは、J2ならではという印象がありますが、ツエーゲン金沢との“白山ダービー”など、こういった取り組みを積極的に仕掛けられていることについてどう思われますか。
(白鳥)すごく良い事だと思います。何でもダービーかよという批判はもちろんありますが、踏み出さなければ歴史は積み上がりません。近くにせっかくJ2という同じカテゴリーのクラブがあるのですから、積極的にやるべきだと思います。群馬さんだったら温泉ダービーとか、大分さんも含めて三名泉ダービーみたいな感じでやってもいいですし。そういうことをやってくことで、うち(岐阜)の魅力の再発見にもつながるかもしれません。
——柔軟さが際立っていますよね。
(白鳥)宮田社長になってからは特に。それは確実に集客面にも表れています。今年はゴール裏1000円や、シーチケ(シーズンチケット)も1万5000円くらいですかね。ただそれが金のばら撒きかというと、そうではないと思います。事実、来年シーチケを値上げして、どれだけ買ってくれるかだとは思いますが、まずはお客さんを増やさないことにはどうしようもないですから。
それに今年は観ていて面白いサッカーをやっているので、雨が降ってもお客さんは来ますし、この前はハロウィン席にご招待みたいな企画をしていましたが、たくさんの方が仮装して来られていましたし。クラブ側が本気で面白いことをやろうとしているので、「じゃあオレたちも!」と言ってお客さんも追従する。クラブの決意が伝わるようになってきたなと感じています。
——今後目指すところは?
(白鳥)やはりJ1に行きたいですね。そのためにはどうしたらいいのか。例えばビラ配りやったりポスター貼りやったりというのはサポーターと一緒にやっていますけど、それを地道に続けていくことも大事だと思います。
まず地域の人たちに知ってもらうことが先決ですね。私は岐阜県東濃地方多治見市という岐阜の東の方の地域出身ですが、岐阜東の方はサッカークラブもありますし、サッカー部も結構強いところがあるのですが、じゃあFC岐阜の試合を観に行こうかという風には中々ならない地域なんです。でも今度FC岐阜にその東濃地方出身の選手が入るんです。だから何とかして地元の人たちにFC岐阜の試合を観に来て欲しい!そういう夢はあります。私の地元のサポーターが増えたらいいなと、すごく思いますね。
——FC岐阜のホームゲームでイベントは、県内の市町村が持ち回りで企画していると伺っています。こうした取り組みが観客動員増につながっているとう実感はありますか。
(白鳥)それはものすごくありますね。いろんなイベントが行われるようになったことで、ホームタウンが岐阜の全土に広がっているという実感がありますね。各市町村の皆さんが当事者意識を持って取り組んでいるように感じます。
今度の試合でウチの町のイベントがあるから、みんなで観に行こうとか、タオルマフラーも全市町村のコラボがあるので、オレはココの出身だからコレを買おうとか、そういうことをしてくれるようになりました。タグ付けという言い方が正しいかどうかはわかりませんが、どこかに自分に引っかかるタグがFC岐阜にある、だから観に行こうと。巻き込み方が秀逸だと思います。
——多くの人の当事者意識を引き出すこと、それがクラブの人気へとつながっているのですね。
(白鳥)そうですね。サポーターというのはそういうものだと思います。自分もその一員だと実感しています。
——本日はお忙しい中、ありがとうございました。
白鳥 士郎(しらとり しろう)
岐阜県出身のライトノベル作家
代表作『のうりん』をはじめ『らじかるエレメンツ』『蒼海ガールズ!』『りゅうおうのおしごと!』(全てGA文庫刊)など数々の作品を出版
Twitter: @nankagun
ブログ: のうりんぶろぐ thurinus.exblog.jp
今回のインタビュアー勝村大輔氏のサイトでインタビュー後記を掲載しておりますので、そちらもご閲覧くださいませ。
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