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我々の強みは育成に長けていること。受け継がれる“読売”の伝統とは。《東京ヴェルディ/日テレ・ベレーザ 竹本一彦GMインタビュー》

勝村大輔

2017/10/25 08:03

2017/10/28 10:52

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NEWS

再びヴェルディへ

©TOKYO VERDY

——テクニカルダイレクターとしてクラブに戻ってきた竹本さんは、同年にGMに就任されました。これから興行としてどうやってヴェルディを盛り上げていくのか。また、圧倒的に強さを発揮しているベレーザが、なぜ観客動員に苦戦しているのか。ご意見をお聞かせください。

(竹本)現在、東京都にはJ1クラブは一つしかありません。もっとあるべきではないかと思っています。しかし、スタジアムがたくさんあるわけでもなく、プロチームが常に興行できる環境になっていない。今、苦しい状況でもヴェルディを応援してくださるサポーターもいますが、大都市東京には、まだまだライト層がたくさんいるはずです。スター選手を置くとか、優勝争いをすることによって、5万人集めることもできる。この地が秘めているポテンシャルは高い。だからこそ、そこに向けて、まずはJ1に上がること。

女子サッカーは男子に比べて少々マイナー感がある。それはヨーロッパでも同じです。その中でも力を入れ始めている国もあります。これまでは、フランス、ドイツ、イングランド、ノルウェーなどが列強国として挙げられていましたが、スペインを筆頭に、先のヨーロッパ選手権の決勝を演じたオランダとデンマークが力を入れ始め、ワールドカップとオリンピックを獲りにきている。新興国の台頭により、かつてのチャンピオン日本は今苦境を強いられています。なでしこリーグのレベルがさらに高くなり、毎日のトレーニングの質も高め、裾野を広げていく。世界のレベルに強化していくことが大事ですね。

まずは2019年のフランス・ワールドカップ、そして2020年の東京オリンピックで結果を残すことが絶対に必要になってくる。女子サッカーはやはり興行的に集めるのは難しい、世界で通用する選手を育てること、それがお客を呼ぶことに直結する、そう思っています。

——ヴェルディは、ホームタウンを移転した稀有な歴史を持つチームですが、地域に根ざすという意味では今後どのような活動をお考えでしょうか。

(竹本)ここ(よみうりランド)は、すごくおもしろい土地で、住所を2つ持っています。川崎市でもあるし東京都でもあります。メインは東京都稲城市矢野口になっていますが、川崎市多摩区菅仙谷という場所にもかかっている。

ここの利点は、小田急線、京王線、南部線、首都圏内どこからでも来られる場所にあるということです。各地のエースを1時間から1時間半で、この山の上に呼べるんです。東京、神奈川のチームというよりは、関東のチームみたいなもの。だから当時、読売クラブがヴェルディになる、プロサッカーできるぞといって、みんなが憧れた。これと同じことがベレーザにも言えます。ここに練習場があることによって、限定された場所のクラブとは言えないかもしれません。

今後の展望

©︎Shooty

——今後の展望をお聞かせください。

(竹本)どんなにチームが経済破綻しても、これは海外でもそうですが、フランスでもドイツでも、育成に長けていることが何よりにも勝る強みです。だから、やはりアカデミーを大事にすることです。そのためには良き環境と良き指導者が欠かせません。どんなサッカーをしていくか、指導者のマインドが深く関わってきます。トレーニングで上手くなることはある程度できるけど、そこにクラブのDNAが引き継がれているかどうか。

それから選手をスカウティングすること。能力の高い将来性のある子を入れて、繋げていくこと。これがまず大事なことだと思います。次に、これは女子も男子も一緒ですが、トップチームが、海外に繋がる、日本一になる、代表選手を輩出する。プロ選手も輩出
するだけではなく、世間に影響を与えるような選手を輩出すること。夢を抱かれる選手を育てることですね。世界トップレベルの価値観とマインド、立ち振る舞い、そういうことも選手に指導できる、与えられる。与えていく環境づくりがやはり大事だと思います。

——ドイツW杯で優勝したなでしこジャパンのメンバーをはじめ、「読売」をルーツに持つ多くの選手が、日本サッカーを牽引していますよね。

(竹本)そうですね。あの時のメンバーの中で、多くの選手がここから育っていきましたね。澤穂希もその中の一人です。彼女の強いマインド、人間性。あそこまでいくとは思いませんでしたが、あのワールドカップのMVPに、それにバロンドールまで。そういう強い選手を見つけたいんです。見つけて育てたい。それは今も昔も変わりません。

高倉 麻子(なでしこジャパン監督)や野田 朱美や大竹 七未、それぞれが、そういうものを持っていた選手だと思うし、ベレーザの中にも長谷川 唯なのか籾木 結花なのかそういう存在にまでなれる可能性を秘めている選手もいる、木下 桃香や菅野 奏音ら下の世代にもそういう素材がいます。

世の中の価値観を変えるような選手を育てられること、これがベレーザの強さです。始めの話に戻りますが、自給自足という好循環がある、そういう意味でもベレーザが好事例ですね。

——ヴェルディにもそう行った選手いますよね。

(竹本)そうですね。中島翔哉や小林祐希、河野広貴をはじめうちを出て他チームに行く選手、海外に行く選手も多いですね。みんな買われてしまうんですよね。選手はやはりJ1の舞台の華やかさ、あそこのピッチに立ちたいって。J1に呼ばれたらやっぱり嬉しいだろうし、待遇も環境もいいところで勝負したい。うちがJ2に留まっている限り、選手は皆ステップアップしてしまう。だからこそいち早くJ1に上がりたい。

——J1復帰へ向けて、道のりは順調でしょうか。

(竹本)そうですね。ロティーナ監督とイバンコーチは、人間性も豊かですし、サッカーの指導理論、チーム作り、試合における経験値、全てが高い。この二人のコンビを呼んできたことに何の悔いもないですね。ブラジル路線からスペイン路線に変えたとか、そういうことではなくて、時代の変化に対応していかなければいけない。そのためにはトレンドのエッセンスを入れていくことも悪いことではありません。

自分たちは常に現実を見なければいけません。まずは今週の試合に勝つこと。夢を叶えるには、勝負どころで負けない選手たち、それをコントロールするスタッフ、それを束ねるフロント、そこが一枚岩となって戦うことです。ヴェルディが引き継いできたDNA、勝負強さを発揮していきたいですね。

——お忙しい中、ありがとうございました。

竹本 一彦(たけもと かずひこ)

1955年生まれ 愛知県出身
早稲田大学卒

1980年 読売サッカークラブ(現在の東京ヴェルディ)にユースコーチとして入団。
その後、女子チームの読売西友ベレーザ(現在の日テレ・ベレーザ)に移り、1986年から11年間監督を務めた。1984年から1986年までは日本女子代表のコーチも務める。
読売退団後は1999年から2004年までガンバ大阪、2005年は柏レイソルのコーチ(2001年、2005年はシーズン途中から監督(2005年は代行)を務めた。)翌年、今治FCのアドバイザーを務める。
2014年9月にテクニカルディレクターとしてヴェルディに復帰。同年12月にGMに就任。
妻は、元日本女子代表の高倉麻子。

今回のインタビュアー勝村大輔氏のサイトでインタビュー後記を掲載しておりますので、そちらもご閲覧くださいませ。

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