浦和レッズ 2-3 ドルトムント エムレ・モルが活躍するまで

レポート

ヨーロッパのクラブがプレシーズンのトレーニングを始めるこの時期にJリーグが中断期間を作り、試合を組めることは非常に大きい。もちろんフィジカル面もメンタル面もトップレベルではないが、“トランジション”の重要性が高まる欧州のクラブと戦い、そのインテンシティの高さを体感できる機会が増えることは素晴らしいことだろう。

ドルトムントは前任のトーマス・トゥヘルが退任し、アヤックスの指揮官を務めていたピーター・ボスが就任した。昨シーズンのアヤックスと言えば、ヨーロッパリーグで準優勝を果たしたことだろう。決勝ではモウリーニョ率いるマンチェスター・ユナイテッドに敗れたものの、オランダ式の4-3-3でチームが復権したと言える。


by @11tegen11

今回の浦和レッズとドルトムントの試合を見てどのように感じたかは難しいかもしれない。普段ヨーロッパサッカーを見ている人も、Jリーグを見ている人も、そしてサッカーを滅多に見ないのにツイートして炎上している人もいる。ただ、筆者がいつも示している期待点(ExpG、xG)で見てみると、2.28-1.76であり浦和レッズがやや優勢であった。

スターティングメンバー


by footballtactics

ドルトムントのボール保持と浦和レッズの守備ブロック、トランジション


by @11tegen11

浦和レッズは5-4-1(5-2-3)で守備ブロックを形成した。2シャドーが守備の局面で中央に絞り、中盤へのパスコースを切るポジショニングを取った。1トップの興梠も低い位置で中盤から離れずにプレーした。

ドルトムントのポゼッションは4-3-3で行われた。特徴的だったのは3センターである。カストロ、シャヒン、ロデが1列に並び、浦和の2センター(柏木と阿部)とマッチアップする位置でプレーした。通常の3センターではディフェンシブハーフの少し前にインサイドハーフが並び、時にはディフェンシブハーフがDFラインに落ちて3バック化ビルドアップ(“サリーダ・ラ・ボルピアーナ”)を行う。この中盤が頑なにDFラインに落ちないことはアヤックス対マンチェスター・ユナイテッドの試合でも見られたので、ボスのこだわりなのかもしれない。

浦和が2シャドーを中央に配置したことによって、ドルトムントのサイドバックが空き、必然的にサイドからのボール前進が見られた。3センターがあまり下がって来なかったため、サイドバックは低い位置からボールを運び、それに伴ってサイドにポジショニングしていたウイングがライン間に侵入する。またインサイドハーフも浦和の2列目に応じて位置取りすることでサイドとハーフスペースの2レーンでトライアングルを作る。しかし浦和の撤退守備もあり、なかなかフィニッシュまで繋げられなかった。

ここで上のパスマップを少し見ていく。選手交代が多かった影響であまり意味を持たないかもしれないが、かなり前半の様子を表していると思う。まずはDFラインの高さとボールタッチ回数である。ドルトムントが長い時間ボールを保持して浦和が撤退守備をしたことがわかるだろう。ただし、ドルトムントのパスはほとんどがセンターバック間であり、2人とも期待点関与(xGChain)トップ3の星がないことから、チームとして意味のあるパスをできていなかったことになる。一方シュメルツァーはボールタッチ回数だけではなく、攻撃への関与も多かった。

ドルトムントは“ネガティブトランジション”のスピードが見逃せない。プレシーズンマッチとは言え、トランジションのスピードが身体に染みついており、ボールを失った瞬間にボール周辺の3、4人がプレッシングをかけて全体としてインターセプトを狙っている。しかしクロップの“ゲーゲンプレッシング(カウンタープレッシング)”というイメージがあるかもしれないが、トゥヘルやボスは“ポジショナルプレー”と呼ばれるプレーモデルを敷いているため、トランジションにおけるプレッシングの目的は異なる。

後半の変更とエムレ・モルの活躍


by footballtactics

後半ドルトムントは選手交代とともに、システムを3-4-3へと変更した。ただシステム変更を確認する前から途中交代のズラタンがプレッシングをかけていたことから、浦和は予め決めていたことだったのだろう。これらのことが試合に影響を与えた。

ドルトムントは3バックと2センターを中心にビルドアップを行うようになり、サイドバックだったシュメルツァーとピスチェクがウイングバックに上がり、ウイングのシュルーレとエムレ・モルがライン間で自由にプレーできるようになった。

3バックによるビルドアップでは、センターバックが“運ぶドリブル”をしやすくなる。噛み合わせが合致することで、センターバックの“運ぶドリブル”に対して3トップが対応するようになり、2センター同士がマッチアップする。柏木と阿部の守備の基準点がシャヒンとカストロになるのだが、その2センターの周辺にウイングがライン間で自由に動き回ることで攻撃を活性化させた。このウイングに対して、浦和は両脇のセンターバックがマッチアップすることになる。初めは槙野がエムレ・モルを抑えていたが徐々にペースを掴まれ、2得点を与えることになる。

3バックは守備においてもメリットがある。2枚よりも3枚の方がカバーリングしやすく、その分積極的にチャレンジできる。特にドルトムントの中で最もボール奪取がうまいソクラテスは、昨シーズンも多くの決定機を阻止し続けた。この試合でも前にチャレンジしてボールを奪い、そのまま攻撃に繋げる場面が目立った。また縦パスでスイッチを入れることもでき、この試合では2ラインを超える縦パスをライン間に送った。

この試合のビルドアップで穴となっていたのはザガドゥーだった。後半から左バックとして入った左利きだが、ビルドアップにおける身体の向きやファーストタッチが悪く、後ろ向きになることでプレッシングの起点となってしまった。それによりバックパスも目立った。また守備でも良いアクションが取れず、この試合ではアピールが失敗だった。

セットプレーとファーサイドの対応

ドルトムントの失点は2点ともコーナーキックからだった。プレシーズンが始まったばかりでまだ練習をできていないのだろうが、マンツーマンで行うことと前線にできるだけ人数を残すという姿勢であることはわかった。個人的には「オープンプレーと同様にセットプレーでもゾーンで守る」というペップ・グアルディオラのスタイルを好んでいるが、同じポジショナルプレーでも詳細は異なるのである。

また後半は特に、ファーサイドへのクロスで決定機を何度か作られている。3バックでは特に逆サイドを狙われ易いのだが、あまりにもフリーでシュートを打たれていたので修正が必要である。もしも期待点(xG)にトラッキングデータが組み合わさっていれば、60分あたりの浦和の攻撃は逆サイドでフリーでシュートを打っているので、もっと可能性が高いと評価されると思われる。

トラッキングデータの行方


by jleague.jp

トラッキングデータによる走行距離とスプリント回数である。シーズン真っ只中の浦和がプレシーズンのドルトムントとほとんど同じ走行距離であることは少し不満である。試合前のトークセッションで原博実Jリーグ副理事長が言っていたように、受け身ではなく最初からインテンシティの高いプレーをしてほしかった。

さてトラッキングデータに関して、スポーツ生理学などの学問の知識があればこれらの数字も意味があるかもしれないが、戦術的な分析においては全くの無意味である。では価値のあるトラッキングデータとはどのような形なのだろうか。その形の1つは以下の動画のようなものなのかもしれない。

タイトルとURLをコピーしました