ブンデスリーガ開幕戦のドルトムント対マインツの戦術分析をするにあたり、そのプロローグとしてドルトムントのトゥヘル監督が信奉するポジションプレー戦術についてまとめました。
ポジションプレー戦術とは何か
トーマス・トゥヘル監督が信奉している戦術はポジションプレー(Position Play)と呼ばれ、アヤックス、オランダ代表、バルセロナのトータルフットボールを源流とするボール保持を中心とした考え方に基づいています。現在ポジションプレー戦術で最も有名なのは、バルセロナでメッシ選手を偽9番に起用して監督としてその名を轟かせ、バイエルンでは偽サイドバック戦術を編み出し、今シーズンからマンチェスター・シティの指揮を執るペップ・グアルディオラ監督です。トゥヘル監督はグアルディオラ監督をリスペクトしており、ボール保持の仕組みに多くの共通点を見出すことができます。
日本ではポゼッションサッカーという言葉が浸透しておりますが、ボール保持において日本では選手たちのポジショニングが適切ではないことが非常に多く、ボールを前進させることがうまくできなかったり、ボールロストの後にカウンターアタックで大ピンチに陥ることが散見されます。
ここでポジションプレーの定義を簡単にまとめると、「適切なポジショニングを取りながらボールを保持、循環し、それによって優位性を作り出す。そしてその優位性を生かしてゴールへ向かう」ということになります。適切なポジショニングには、それぞれの監督やチームの特徴があり、相手チームに対応する必要がありますが、重要なのはピッチをワイドに使い、深さを取ることです。ピッチをワイドに使うには両サイドの選手がタッチライン際まで開き、深さを取るにはFWの選手が裏取りをしながら相手DFラインを押し下げる、またCBの選手が下がって中盤の選手にスペースを与える必要があります。
Left-to-right switches were a key part of #BVB's attacking strategy in the 3-0 against #B04. pic.twitter.com/6gzQqUcu1n
— Tom Payne (@TomPayneftbl) July 20, 2016
Under pressure, Mkhitaryan finds Weigl in space who can exploit the gaps in Mainz' weak midfield pressing structure. pic.twitter.com/eX0mnyfRkH
— Tom Payne (@TomPayneftbl) August 17, 2016
3つの優位性
上記のポジションプレーの定義で優位性について触れましたが、優位性には数的優位(Quantitative/Numerical Superiority)、質的優位(Qualitative Superiority)、位置的優位性(Positional Superiority)の3つに分類されます。言うまでもありませんが、数的優位とは2対1や3対2など局面的に相手より人数が多い状況を作り出すことです。
また質的優位は、自分たちのストロングポイントや相手のウィークポイントを使うことを指します。例えば、グアルディオラ監督はバイエルン時代、ロッベン選手、リベリ選手、ドウグラス・コスタ選手、コマン選手らのことを1対1の選手(1-vs-1 player)と呼び、重宝していました。
では位置的優位とは何でしょうか。これは、相手の選手間やライン間にうまくポジショニングすることで、相手がゾーンディフェンスを維持すればパスコースが空いてしまう、相手がマンツーマンディフェンスをすればスペースが空き陣形が崩れてしまうという状況を作り出すことです。フットサル用語であるエントレリネアス(Entre Lineas)もグアルディオラ監督の影響で欧州サッカー界で広く普及しました。
Hummels' laser-passing was another crucial factor against Bayer's pressing, allowing #BVB to exploit space behind. pic.twitter.com/Lk0xq4yirN
— Tom Payne (@TomPayneftbl) July 22, 2016
Guerreiro in CM looked promising. Strong in tighter areas, sound positional intelligence and many vertical actions. pic.twitter.com/ylcy5Gd5b0
— Tom Payne (@TomPayneftbl) August 10, 2016
ハーフスペース
グアルディオラ監督の影響で普及した言葉には、ハーフスペース(Half Space)というものもあります。
J開幕戦、金崎夢生が見せた「ハーフスペース」の活用。目線を動かす技術
人とボールを斜めに動かすハーフスペースを活用して、相手の視野を動かす
言葉の定義などは上記の2つのリンクを参照して頂くとして、大切なのはハーフスペースが斜め、ダイアゴナルという考え方に結びつくということです。そして香川真司選手の主なプレーエリアが、相手のCB、SB、SH、CHの四角形の中心であり、このエリアはライン間であると同時にハーフスペースでもあるのです。