FWとして「走行距離トップ20」に唯一ランクインしながらも得点王となったトッテナムFWケイン。by Telegraph
先月まで開催されていたEURO2016フランス大会。平均年齢が大会最年少となる25.4歳となり、「サッカーの母国」の新たなスタイルを標榜しようと図ったイングランドだったが、決勝トーナメント1回戦で小国アイスランドに敗れてベスト16で敗退した。
また、昨季のイングランド・プレミアリーグはレスター・シティの優勝の話題が国内外問わずに世界中で確かに盛り上がっていたのですが、それはあくまで話題性の部分。リーグとしての実力や国際競争力については、近年のUEFAチャンピオンズリーグでの低迷ぶりが顕著で、レスターの優勝は国際競争力を考えると危機感が募る部分もあります。
莫大なテレビ放映権でビッグクラブとその他のクラブの実力差が縮まったプレミアリーグ。しかし、その国内競争力の高まりが、皮肉にも欧州の舞台での低迷を招いている可能性もあるのです。イングランドにとって、それらを証明する。あるいは現在地を知るための場所がEURO2016だったのですが、惨敗に終わりました。
そんなイングランド代表で「母国」の9番を背負いながらも、無得点に終わった新エースFWハリー・ケイン選手には批判が集まりました。新シーズンでEUROの鬱憤を晴らせるでしょうか?
「走れるFW」にしてプレミアリーグ得点王のFWケイン
ケインは、昨季のプレミアリーグで「走行距離6位」。また、ケインだけでなくトッテナム所属選手の走力に注目が行くランキングに。
昨季のプレミアリーグで得点王となる25得点を挙げたケイン選手が所属するトッテナム・ホットスパーは、マウリシオ・ポチェティーノ監督が率いています。彼が直接指導した選手が現イングランド代表に7選手もおり、得点王まで獲得したケインはその象徴的な存在です。
相手ボールになったと同時に始まる”ポチェッティーノ流”の代名詞「ハイライン+ハイプレス」は、1トップの最前線を担うエースFWケイン選手から始まります。ケイン選手がフォアチェックで時間をかける間に、<4-1-4-1>の2列目を組む4人が近い距離感を保って高い位置で中盤のブロックを形成し、その網を破られても、DFからコンバートされた「中盤の掃除屋」MFエリック・ダイアー選手がカヴァーリングやセカンドボール処理を担う。そして、ボールを奪えば一瞬のショートカウンターでフィニッシュまで迫る。速攻でシュートまで持ち込めない場合に、”休憩”となる遅攻が始まりますが、ほとんど休む暇がありません。
ポチェッティーノ流では常にハードワークが要求されるため、シーズン中も2部練習が当たり前。選手たちはそのスタミナを体得すると共に、怪我に屈しない頑丈なボディも手にしました。ケイン選手も昨季のプレミアリーグには全試合で先発出場を果たしています。チームもレスターと最後まで優勝を争った上での3位へと躍進。21世紀に入ってからの最高成績となりました。
守備でのハードワークを要求されたケイン選手は、昨季のプレミアリーグでの総走行距離ランキング(上記表)でも6位に入りました。トップ20にFWとしてランクインしたのは彼だけです。それもエースFWとして得点王を獲得し、リーグ断トツでトップとなるシュート数を放ちながら。(下記表「シュート本数ランキング」)
ケイン選手は合計4度のレンタル移籍先でもレギュラーを務めるほどの点取り屋ではありませんでした。ポチェティーノ監督が就任してから花開いた選手です。彼には「得点を奪うためには守備を免除してくれ」の古い定説や言い訳は必要がありません。それどころか、「守備もできるから得点も奪えるんだ」とでも言いそうな、まさしく現代サッカーの模範例と言える万能型FWです。
日本でも今季のJ1リーグ開幕を迎えるに至り、湘南ベルマーレのチョウ・キジェ監督が、「シームレス・サッカー」という言葉を使いました。攻守の切り替えのつなぎ目がないサッカーという意味で、トッテナムと湘南スタイルは似ています。湘南にケインのようなFWが台頭してくれば面白いのかもしれません。楽しみにしたいと思います。
利他的なプレーを強いられながらもストライカーの本能も持ち合わせるケインは、シュート数でも断トツのトップだった。
憧れはシェリンガム氏~多彩なプレーができる現代型FW
ケインの憧れだった元イングランド代表FWシェリンガム。代表ではエースFWシアラーを活かすセカンドトップとして、中盤と前線をリンクさせる役割を担った。by Daily Mail Online
そんなケイン選手の憧れは、元イングランド代表FWテディ・シェリンガム氏。マンチェスター・ユナイテッドでの3冠が記憶に残る選手ですが、トッテナムで合計7シーズンをプレーしたレジェンドです。11歳の頃からトッテナムの生え抜きとしてプレーしているケイン選手にとっては憧れであり、目標の選手像となるのも納得です。ただ、彼はどう考えても点取り屋タイプのFWではありませんでした。
特にイングランド代表としてのシェリンガム氏は、エースFWのアラン・シアラー氏と中盤を繋ぐ”リンクマン”としてセカンドトップのような役割を担った万能型のFWでした。10番を着ることが多かったのもその証拠で、シェリンガム氏のプレー・ヴィデオを、「擦り切れるほど観て、その動き出しを真似した」ケイン選手には、利他的な動き出しも多いのです。サイドへ開いたり、ポストプレーで起点を作ったり、スルーパスを出す側にもなれる。それらは現代型FWとして、時代の先を行っていたシェリンガム氏の影響が強いと考えられます。
現代のサッカーでは守備面の負担もあって、2トップは採用しにくいため、1トップに入る選手にはより万能な能力を求められます。ケイン選手はシェリンガム氏とシアラー氏の両方の能力が備わっているようにも感じます。
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