東アジア杯で2得点、なでしこジャパンに現れた新型MF
昨年の6月から7月にかけて行われたFIFA女子W杯カナダ大会。なでしこジャパンことサッカー女子日本代表が準優勝しました。2011年のドイツW杯の優勝、2012年のロンドン五輪の準優勝に続き、国際主要大会3大会連続のファイナリストとなりました。
ただ、当時のなでしこジャパンのメンバー23選手はドイツW杯での優勝メンバーが17選手も占めていました。ドイツ大会は登録メンバーが21選手だったので、外れたのはGK山郷のぞみ元選手、DF矢野喬子元選手という引退したお2人に、今大会直前の負傷で招集外となったFW高瀬愛実選手、負傷が多くなった人気者FW丸山桂里奈選手の4選手のみ。世代交代が全く進まないことはリオ五輪出場権を逃したアジア最終予選の結果以上に懸念されていました。
カナダW杯から1カ月後の昨年8月。男子の試合と1日交代で行われる年齢制限のないフル代表の国際大会が中国の武漢で開催されました。EAFF東アジアカップ決勝大会です。開催国・中国の他に、韓国、北朝鮮と4カ国での対抗戦でした。しかし、なでしこジャパンはカナダW杯で準優勝を果たしていながら、東アジア杯では1勝2敗の3位に終わりました。
それでもカナダW杯の主力選手を全員外して挑んだ「チャレンジなでしこ」は試合を経るごとに課題と収穫を積み重ね、最終戦で男女唯一の勝利を挙げました。親善大会なのに、ヴァヒッド・ハリルホジッチ監督が「現実的になる必要がある」と韓国戦で徹底した守備重視のゲームプランを用いて戦った男子代表は大会7度目の参戦で史上初となる未勝利での最下位に終わりましたが、女子はフィールド登録の全選手を起用した上でのテストも進みました。
その東アジア杯で活躍した選手として名前が挙げられるのは、19歳ながら2試合に出場し、勝利した中国戦ではクリーンシート(完封)も記録したGK山下杏也加選手、トライ&エラーを繰り返しながらも日本人DFとしては稀有な「前で奪う守備」を見せたDF村松智子選手、スーパーサブとして中国戦の決勝点を挙げたFW横山久美選手でした。世代交代が延々と進まないなでしこジャパンにとって、彼女たちのような19歳~23歳の若手が台頭したのは大きな収穫でした。
そして、今回の高倉麻子新監督が就任してから初めての代表メンバーに、彼女たち3選手は全員招集されました。そして、彼女たち以上に東アジア杯で活躍したのが伊賀フットボールクラブくノ一に所属するMF杉田亜未選手(上記写真)です。東アジア杯では2得点を挙げていました。
(宮間あや+川澄奈穂美)/2の魅力を持つニュータイプ
by JFA
数字に残る結果を出した以上に、サイドMFとボランチの両方をこなした柔軟性や、FKやミドルシュートというキック精度の高さ、運動量豊富にボールに多く絡みながらドリブルで打開していくチャンスメイク。フリック(後方に反らすパス)を使ったワンタッチでのパスワークにも絡めるなどプレースタイルが幅広く、今後のなでしこジャパンにとって重要な選手になりそうな気配を感じさせてくれました。
言わば、正確なキック力やパサーとしての宮間あや選手、チャンスメイカーとしての川澄奈穂美選手という準優勝したカナダW杯で杉田選手と同じ2列目を定位置とした重鎮2人のプレースタイルをミックスしたような選手。なでしこジャパンにとっても、未知の「新型MF」に相当するのが杉田亜未選手の魅力です。
もともとラ・マンガ国際大会などU23代表の主将を務めていたり(上記写真前列中央)、宮間選手と川澄選手を足して2で割ったような愛嬌溢れるキャラクターでありながらのムードメイカーぶり。また、ルックス的にも人気が出そうな選手でもあります。
そんな杉田選手が東アジア杯の初戦・北朝鮮戦で豪快な右足ミドルシュートをダイレクトで決めたゴラッソに見るミドルレンジからのシュート力と精度は、なでしこJAPANが追い求めていたモノ。宮間選手以外のセットプレーのキッカーとしても期待が持てます。選手としての完成度は低いかもしれませんが、それは未熟なのでなく「伸びシロ」です。
また、この杉田選手の活躍を受けて、所属する伊賀フットボールクラブくノ一の試合に観客が増える可能性も大きく、今後の杉田選手はピッチ内外で大きな影響力を見せるのではないでしょうか?
リオ五輪アジア最終予選落選からの復活~強豪INAC神戸相手に代表復帰を祝う劇的な決勝点
by 伊賀フットボールクラブ
しかし、東アジア杯直後にリオディジャネイロ五輪について、「憧れから目標に変わった」と言い切った杉田選手でしたが、日本が五輪出場枠を逃したアジア最終予選には登録メンバー20人枠にも入れませんでした。
迎えた今季のプレナスなでしこリーグでも無得点が続き、チームも低迷。今月に入ってからは成績不振を理由に金鐘達監督の解任が発表されました。
そんな矢先に迎えた代表復帰。現在のパフォーマンスからすれば寝耳に水。本人やクラブのサポーター的にも疑問符がつく代表復帰でしたが、所属する伊賀FCの新監督には直前まで日本サッカー協会の女子委員長として女性初の委員となった野田朱美さんが就任しました。
そして代表復帰が発表されてから初めて迎えた試合。強豪・INAC神戸レオネッサとのなでしこリーグ第10節は野田新監督の初陣ともなりました。敵地でチームは先制を許しながらも強豪相手に粘り強い戦いを見せていました。そして、フル出場した杉田選手はアディショナルタイムとなる93分に1-2の逆転となる決勝ゴールをゲット。自身の代表復帰を祝いました。
確かに得点はゴール前へのグランダーの折り返しを流し込むだけの”ごっつあんゴール”でしたが、左サイドMFとして起用された杉田選手は対面した代表キャップ100試合を数える近賀ゆかり選手にも臆せず攻撃の起点になり続けました。近賀選手が得意の攻撃参加が少なくなった事はINAC神戸が追加点を奪い切れなかった事にも相当します。運動量豊富で攻守に大きく活躍できる杉田選手が93分にもゴール前まで走りこんだ上で、勝利に大きく貢献したのです。
コレで俄然、新生なでしこジャパンの初陣が楽しみになって来ました。
6月2日と5日にアメリカで行われるなでしこジャパンの新たなる船出となるアメリカ戦。宮間選手と川澄選手のプレースタイルや魅力を併せ持つ杉田選手に注目です!