過酷なJ1の闘いの中で日々成長を続ける湘南ベルマーレの選手達。その最前線には、今やチームの戦術として欠かせない存在がいる。背番号11山﨑凌吾選手だ。
徳島から完全移籍で加入した山﨑凌吾選手。
身長187cmの恵まれた体格を活かしたポストプレーに強みを持つ同選手は、昨季7月に徳島から完全移籍で湘南に加入するとすぐにレギュラーに定着。1トップのポジションで安定感抜群の働きをみせ、指揮官やチームメートからの信頼を勝ち取り、現在に至るまで不動の地位を築いている。
ハイボールの競り合いに挑む。湘南の最前線で必要不可欠な存在だ。
湘南ベルマーレの1トップはチームの生命線だ。1トップが機能するか否かで試合展開が大きく左右される。一般的に1トップに求められる役割を攻撃面と守備面で分けるとすれば、
【攻撃面】:
・ハイボールの競り合いに強い。
・懐の深さを活かしたボールキープで溜めを作り、味方が上がる時間を稼ぐ。
・前線で保持したボールを周りの味方へ繋ぎチャンスメイク。
・フォワードである以上自ら得点することも求められる。
【守備面】:
・前からのプレスやプレスバックでボールホルダーにプレッシャーを掛け、ボールを奪うorパスコースを限定させる。
・相手セットプレー時に自ゴール前に陣取り、ハイボールを跳ね返すストーンとしての役割を担う。
等が挙げられる。それらに加え、湘南の代名詞である走力も兼ね備えなければならない。
攻撃面・守備面で共通しているのは身を粉にしてプレーする「献身さ」だ。現代サッカーにおいては、たとえフォワードであっても攻撃だけしていれば良いわけではなく(これはチーム事情にも寄るが)、守備能力も求められる。湘南のフォワードに要求される役割もその例に漏れることはなく、相手陣内でボールを奪われれば1stディフェンスとしてプレッシャーを掛けに行かねばならない。
このように湘南の1トップは多くのタスクをこなさなければならず、そのポジションで順応する選手の獲得に苦慮していた。これまでに純粋な1トップとしてフィットした選手を挙げるとすれば、ここ10年ではウェリントン(2013-2014年在籍)やジネイ(2016-2017年在籍)、日本人選手に限定すれば田原豊(2009-2011年在籍)にまで遡るだろうか。
それだけに、2018年8月1日アウェイ柏戦において、筆者が山﨑選手のプレーを初めて観た時の驚きは今でも覚えている。湘南の1トップにここまでフィットする日本人選手がいたのか、と。
チャンスと見るや後方の選手が味方をどんどん追い越し攻撃に参加する。これは湘南のプレースタイルの特徴の一つだが、チームの推進力を前へと加速させるためには、山﨑選手の起点になるプレーが欠かせない。彼が50:50のボールに競り勝ってボールを確実に収めてくれる。周りの味方がそう信じているからこそ、リスクを賭けて前へ飛び出すことができる。彼の存在はピッチ上に安心感をもたらしてくれる。
また、サイズの割に足が速く、時には中央のポジションからサイドに流れてボールを引き出し、ドリブル突破からクロスを蹴り込みチャンスメイクするなど、足元の技術や機動力も備えている。加えて稀少な左利きという点から、まさに現代型の万能センターフォワードと言って良いだろう。そのプレースタイルは現日本代表フォワードの大迫勇也選手に重なる部分が多い。
前述の柏戦ではPKを含む二得点をマークして勝利の立役者となり、早くも湘南サポーターの心をガッチリと掴み取った。
今季はなかなか得点機会に恵まれず、開幕からカップ戦を含む公式戦出場10試合まで、ポスト直撃などの惜しいシュートは放ちながらもゴールは記録していなかった。
ボールホルダーに激しくプレッシャーをかける
それでも迎えた5月4日のホーム名古屋。ついにその瞬間が訪れる。前半アディショナルタイムに岡本拓也選手が相手ボックス内で倒されPKを獲得。キッカーを任された山﨑選手は、名古屋GKランゲラックの動きを冷静に読んで逆方向に蹴り込み、今季初ゴールを奪った。開幕から約二ヶ月半。ようやく成し遂げた一発目に手応えを掴み、祝福に駆け付けるチームメート。その輪の中心で心の底から喜ぶ山﨑選手の姿があった。
今季初ゴールをマークしチームメートの梅崎司選手(左)から祝福
試合後に初ゴールのコメントを求められると、率直に「凄くホッとした。」と安堵の言葉を残した。今季ここまで得点以外の部分で持ち味を示しているのは誰の目にも明らかだが、そこはやはりストライカーの血が流れている。「ゴール数をもっと伸ばしてチームももっと上を目指したい。」と意欲を示した。
指揮官も「チームの中でアイツが外してるから試合に勝てないなんて思っているのは、僕も含めて誰もいなかったですし、多分サポーターの方にもいなかったんじゃないかなと思う。それくらい、チームのスピード感を加速できる選手なので、彼にボールが入った時、彼がスペースに抜けたとき、その穴に全員が入って行って得点が奪うことができる。本当に性格もいいし、まだまだ伸びるなと思います。」(湘南公式HPより引用「http://www.bellmare.co.jp/2019_j1_10_nagoya」)と称えた。
願わくば次は流れからのゴールを。そして通年で自身が目標とする背番号以上のゴールを目指して、これからも湘南の背番号11は最前線で体を張り続けるだろう。山﨑選手の「本”凌”発揮」はここからである。