Jリーグのタイトルとは無縁ながら、Jリーグで最も長く監督を続けている外国人監督がミハエル・ペトロビッチ監督(以降ミシャ監督と記載)です。
ミシャ監督は1957年ユーゴスラビア生まれ。詳しい略歴は、筆者既著の「タイトルに無縁の強豪チーム監督、浦和レッズのミハイロ・ペトロヴィッチ監督とはどんな人?」をご覧下さい。
サンフィレッチェ広島で6年、浦和レッズで5年半監督を勤めたその人は、今シーズン北の大地を本拠地とするJ1クラブの監督に就任しました。
標榜するサッカーは超攻撃的。攻めて崩して点を取るサッカーは、観客を魅了します。
一方で、勝利よりも内容を優先しているのではないかと思える姿勢は、日本のスポーツ・メディアから厳しく指摘を受ける事もしばしばです。
悲願のJ1優勝を遂げる為、北海道コンサドーレ札幌で何を目指しているのでしょうか?
昨年夏まで監督だった浦和レッズのサッカーを下地に、考察してみましょう。
2017年7月29日札幌ドームにて
運命は時として想像だにしない悪戯を巻き起こすものです。2017年7月29日札幌ドームでの浦和レッズ対北海道コンサドーレ札幌戦は、0対2で浦和レッズが敗戦しました。
浦和レッズの負け方は衝撃的でした。1点ビハインドの浦和レッズは、後半早々一挙に三人の交代枠全てを使い切るという、珍しい選手交代を行ったのです。その選択をしたのは他ならぬミシャ監督その人です。
その直後に悲劇が起こりました。交代したばかりのDF那須大亮選手が負傷してしまい試合続行不能になり退場。既に前半、槙野智章選手がレッド・カードで退場しており、交代枠を使い切ってしまった浦和レッズは9人での闘いを強いられます。
2人少ないチームとは思えない位に浦和レッズはゲームをコントロールしますが、得点と人数のビハインドは重く、追加点を許して敗戦したのです。そして、翌日早々にミシャ監督の更迭が発表されたのです。
つまり結果として、昨年監督交代となる因縁のゲームを闘ったクラブに、監督として移籍する事になった訳です。敗戦の二日後だったそうです。
北海道コンサドーレ札幌の野々村芳和社長が、一機の三人交代という画期的采配を評価しての事だったと言われています。”捨てる神あれば拾う神有り”の諺通りの監督オファーでした。
2017明治安田生命J1リーグ第19節、北海道コンサドーレ札幌vs浦和レッズ戦、「レッドバトルマッチ〜全道一丸赤黒満員大作戦〜」、キックオフです!心を一つに!
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独特のフォーメーション・サッカー
サッカーというボール・ゲームは、個々の選手の力量と共に、監督の采配が大きく勝敗を左右します。その基本となるのはフォーメーションです。
4-4-2とか、3-5-2とか、足し算すると10になる数字を組み合わせた方法で、選手の配置を示します。この10という数字は、GKを除いたフィールド・プレイヤーの合計人数10を表しています。
左からDF-MF-FWの人数を表せしているので、4-4-2の場合はDF4人、MF4人、FW2人という人材配置をするシステムだという事を表しています。
ミシャ監督の採用するシステムには独自性があり、一般的なシステムとは少し趣に違いがあるのが最大の特徴点です。
浦和レッズでは、3-4-2-1というシステムが基本でした。DF3人、MF4人、FWはシャドー2人、トップ1人という布陣です。
これが基本システムなのですが、いざ攻撃タイミングになると、2-3-5というシステムに可変します。両サイドのDF二人が一列前に進み、MFの両サイド・ウイングがライン沿いに開いて攻撃参加するスタイルです。
Jリーグでは4バックを採用しているチームが殆どなので、1トップ2シャドーから、いきなり5トップで攻撃されると、マンマークが外れてしまい、失点可能性が増えてしまいます。
それこそがミシャ監督の狙いで、一気呵成に攻め上がり、これでもかという位に叩きのめすサッカーが基本コンセプトなのです。
これがミシャ監督独特のサッカー・スタイルで、観ていて楽しいサッカーをピッチ上で繰り広げてくれるのです。
一方、弱点もあります。DFが二人になっていますから、逆転攻勢をかけられた時には、一機にピンチが訪れてしまいます。
昨年失速した浦和レッズは、正にこの弱点に晒されてしまい、負の連鎖を止める事ができない状態に陥り、結果監督交代という結果になったのです。
素早いカウンターを食らわなければ、5-4-1という具合に、2シャドーが一列下がって守備的布陣に可変します。
つまり、一機のカウンターさえ避けられれば、攻撃にも守備にも厚みがある布陣で戦えるというのが、ミシャ監督システムの特徴なのです。
サッカーに限らず、物事には一長一短がつきものです。短の修正に重きを置くと、逆に長の利点が活きません。かと言って長ばかり伸ばそうとすると、自ずと短の足らざるが改善できません。
何事もバランスが大事ですが、ミシャ監督はそのバランス調整がお好みではないパーソナリティを有していると思います。決めた道をどんな事があっても貫徹する。一貫性がミシャ監督の長所です。筆者はそれを評価している一人ですが、批判者が多い事も確かです。
しかし、サンフィレッチェ広島でも、浦和レッズでも、Jリーグタイトルこそ獲得できなかったとは言え、成果は多くのサッカー・ファンの知る所です。
昨シーズンのコンサドーレ札幌のフォーメーションは、3-4-2-1が18ゲーム、3-3-2-2が16ゲームなので、ミシャ監督スタイルが身についているという奇遇性があります。
所属選手のタレント性に拠る所も大きい事から、北海道コンサドーレ札幌でも同じフォーメーションを採用するのか。先ずそれがミシャ・コンサドーレの最大のポイントになります。
by 北海道コンサドーレ札幌について考えるブログ
信念を貫く姿勢
サッカーは点を取るボールゲームです。たとえ好いゲームを行っても、ゴールを奪えない限り勝利は望めません。
一方、たとえ悪いゲーム内容でも、ワンチャンスを物にしてしまえば、勝利することも可能です。
勝つ事を優先するのであれば、後者を選択する事も必要ですが、ミシャ監督はそういう戦術を好しとしません。
首尾一貫、信じるコンセプトを愚直に貫徹するサッカーを標榜しています。ですから、たとえ負けたとしても、好いゲームであったのなら、率直に評価を口にします。
反対に、たとえ勝っても、内容の無いゲームには怒りを露にします。
この様な、ミシャ監督のポリシーを筆者はとても評価していますが、多くのスポーツ・メディアは、ゲームに負けてもサッカーの負けを認めないミシャ監督の姿勢を、負け犬の遠吠えと言う論調で批判する事が多々ありました。
相手に合わせるリアクションサッカーではなく、自分の信じるコンセプトを愚直に貫くサッカーが、ミシャ監督の信条です。恐らくは、北海道コンサドーレ札幌というチームにあっても、ミシャ監督の姿勢は、変わらない事でしょう。
むしろ、コンサドーレだからこそ、信じるサッカー感を植え付け様と考える気がするのです。
得点する為の攻撃サッカー
北海道コンサドーレ札幌の昨シーズンの順位は11位、得点ランクは12位で39得点。3得点以上ゴールしている選手は、ジェイ選手10得点、都倉賢選手9得点、ヘイス選手6得点、福森晃斗選手3得点の4名。二人の点取り屋にゴールが集中しているきらいがあります。
又、3-4-2-1という浦和レッズと同様の基本フォーメーションで多くのゲームを闘っていますが、可変性のあるシステムでは無い事から、相手陣内でピッチをワイドに展開できているとは言えず、攻撃の選択肢が多いとは言いがたい面が否定できません。
セットプレイと空中戦による得点が多く、ミシャ監督が好みとする、崩して美しくゴールを決めるサッカーとは距離がある内容と言わざるを得ません。
ここにミシャ監督のコンセプトと指導力が試される下地があるのです。つまり、硬直化したシステムに流動性を加味し、バリエーションのある崩すサッカーに変革できるかどうかです。
二人の点取り屋に更なるゴールを期待するには、相手陣内での崩しが更に必要です。ミシャ監督は早々に手を打ちました。堀孝史監督就任後に出場機会が大幅に減少してしまった駒井善成選手という稀代のドリブラーを、浦和レッズからレンタル移籍で獲得したのです。
京都サンガFCから駒井選手を発掘したのがミシャ監督でした。現在のJ1リーグの中でも数少ないドリブラーが、サイド攻撃を果敢に仕掛ける事で、攻撃バリエーションは飛躍的に広がります。
又、ミシャ監督はセット・プレイの練習をしない監督としても知られています。あくまでも理想とするサッカーは美しく崩すサッカーという持論にこだわり続けておられる為、練習にもその思想が顕著に現れています。
然しながら、北海道コンサドーレ札幌はセット・プレイからの得点機会が多いチームです。この特性を監督の目指すサッカー思想に変革させるのか?筆者はミシャ監督はミシャ監督しく、北海道コンサドーレ札幌でも美しく崩すサッカーに変革させて欲しいと願っています。
Jリーグの質を高め、面白いサッカーが展開されているリーグにする為にも、ミシャ監督の思考する美しく崩し楽しいサッカーのできるチームが1つでも増えるべきだと思うのです。
ゲームコントロールをする司令塔は誰が
ミシャ監督のサッカーは、5トップと呼ばれる超攻撃的なFW展開により、ピッチをワイドに活用して、美しく崩すサッカーです。観客が楽しめて、胸がすくサッカーを見せてくれます。
それを実現する為には、フォーメーションの妙と共に、ゲームをコントロールする司令塔が不可欠の存在です。ただポイント・ゲッターにボールを供給するという使命だけでなく、美しく崩して観客を魅了する為に、ミシャ監督のサッカーには司令塔が不可欠なのです。サンフィレッチェ広島でも浦和レッズにも、その役目を柏木陽介選手という、司令塔にうってつけのタレントが担っていました。
北海道コンサドーレ札幌には、元浦和レッズでその役目に近い仕事をしていた稀代のプレイヤーが存在しています。年齢は39歳になってしまったものの、ボールタッチとコントロール、ピッチを俯瞰する天才的な能力を有する元浦和レッズの小野伸二選手がその人です。
昨シーズンのスタメン出場はゼロ。出場16ゲームの全てが途中出場でした。然しながら、全てのゲームで90分間の出場は儘ならないまでも、もっと長時間出場する事は可能なのではないでしょうか?
ミシャ監督が、小野選手を司令塔の中心選手として復活させるのか?それとも、福森選手や兵頭慎剛選手、新戦力の三好康児選手らを司令塔役に育成するのか?この点も気になる所です。
午後の練習がスタート!練習場にはなんと、高原直泰さんの姿が!という事でゴールデンエイジ3人の記念写真をご覧下さい。#consadole #コンサドーレ #沖縄キャンプ pic.twitter.com/eTT6QKCR2s
— 北海道コンサドーレ札幌《公式》 (@consaofficial) 2018年1月16日
外国人監督として最も長くJリーグで仕事をし、誰よりもJリーグを知っているミシャ監督。
美しく崩すサッカーという持論にこだわり、独特の可変システムを採用し、司令塔を育成して、優勝を勝ち取るクラブにする事が想像できます。
筆者の想像通りに北海道コンサドーレ札幌で実行するのか。全く違う方法論を見つけて実行するのか。興味はつきません。
浦和レッズと似た紅いサポーター。雪国なのに観客動員力のあるクラブ。変革思考の強い野々村社長。そしてオリジナリティのあるミシャ監督。
今シーズンの北海道コンサドーレ札幌は、注目するに値するのではないでしょうか。