11勝18敗13分。FC岐阜、J2 2017シーズンの戦いは18位という結果に終わった。
近年、下位を彷徨いつづけるFC岐阜は、今季から元日本代表コーチの大木武氏を新監督に招へい、13名の新加入選手を迎えた。
活発な新陳代謝を促す背景には、今季、J2参入10周年を迎えたFC岐阜社長、宮田 博之氏の並々ならぬ決意があった。「是が非でも一桁の順位へ導きたい」そのために「満員のスタンドを作りチームを後押ししたい。」
果たしてメモリアルイヤーに賭けたFC岐阜の挑戦は失敗に終わったと言えるだろうか。
ひとつだけ明白なことがある。それは飛躍的に観客動員数が増加しているという事実である。今季、FC岐阜のホームゲームは1試合平均6977人。昨対123%を記録。増加率はJ2リーグ(全22チーム中)2位と驚愕の実績を残している。
では戦績に目を移してみよう。薄氷を履む思いで勝ち取った残留劇から1年、昨季の獲得ポイント43に対して、今季の獲得ポイントは46で終わっている。決して飛躍的な向上とは言い難い。
わずか3ポイントと揶揄する者もいるだろう。しかし、この3ポイントこそが変革の現れであり当事者たちの希望といえよう。今回インタビューに登場していただいたライトノベル作家 白鳥 士郎氏は当事者の一人である。
白鳥氏原作の人気アニメ『のうりん』とFC岐阜のコラボレーションは今季4年目を迎えた。
FC岐阜のホームゲーム開催時には、その都度、趣向を凝らしたイベントが催されている。こうした数々のイベントの盛況が集客の一助になっていると関係者は口を揃える。
さらに白鳥氏はアウェー戦にも駆け付けるほどのFC岐阜の熱心なサポーターとしても知られている。イベントに携わる傍ら、足繁くゴール裏に足を運ぶ白鳥氏は意義深い一年だったと今季を振り返る。
当インタビューでは、明白な事実の裏側にある”目に見えない変化”に焦点を絞ってお届けしたい。昨対比123%を達成した観客動員アップの裏側、そして、3ポイントの裏側にあるチームの大きな変化に迫りたい。
『アニ×サカ!!』誕生の裏側
——まずは、アニメ『のうりん』についてのお話を。
(白鳥)『のうりん』は私の3つ目のシリーズの作品で、地元の農業高校を1年取材した後に執筆を開始してアニメ化をした作品です。
——白鳥先生は、ライトノベル作家という肩書きをお持ちですので、『のうりん』の原作を書かれたということですね。
(白鳥)はい。ライトノベルは表紙にアニメっぽいイラストや挿絵が入るのですが、絵は別の方が担当なさって、私は文章を書いているということです。
——白鳥先生の作品は岐阜を舞台に描かれている作品が多いのでしょうか。
(白鳥)半分はそうですね。デビュー作は岐阜県多治見市がモデル、2作目はファンタジーでしたので架空の世界でしたが、3作目は岐阜県美濃加茂市が舞台です。現在の作品は大阪が舞台ですけどね。
——『のうりん』とFC岐阜のコラボ、その経緯をお聞かせください。
(白鳥)『のうりん』は岐阜県にある加茂農林高校がモデルになっています。その加茂農林高校のある美濃加茂市出身なのが、元FC岐阜の益山司選手です。地元の選手がいて、地元の作品がアニメになっているということで、FC岐阜さんからコラボしないかというお話を頂きました。
加茂農林高校で私が農作業の取材していた時に、当時のFC岐阜社長の恩田氏と益山選手が学校を訪れて、牛を見たり、生徒さんと一緒の記念作品を撮ったりしました。最初は単独で『のうりん』とFC岐阜のコラボをしました。スタートは2014年の8月31日ですね。今年で4年目になります。
生徒さんがブースを出して、牛の碁盤乗りという、囲碁の盤に牛を乗せる技があるのですが、全国で岡山県の高校と岐阜の加茂農林高校だけがやっている飛騨牛の技です。それをスタジアムで披露しました。地元の学校とサッカーとコラボが実現しました。
更に、『のうりん』を制作したアニメ会社がスタジアムのオーロラビジョンに『のうりん』のイラストを載せていただいたり、赤十字の献血の方から、そのイラストを使えないかということで、『のうりん』と献血をコラボして、スタジアムで献血をしたり、1年目は単独のコラボでした。
そこからバンダイビジュアルの廣岡 祐次さんが音頭をとられて、アニメとサッカーのコラボを3チームでやろうということになりました。水戸ホーリーホックの『ガールズ&パンツァー』とFC岐阜の『のうりん』と、東京ヴェルディさんの当時やっていた『甘城ブリリアントパーク』という稲城が舞台になっている作品と、全6試合をコラボマッチという形で実施しました。
最初の試合がヴェルディ対FC岐阜、味スタ(味の素スタジアム)で行われた試合でしたが、難波選手のハットトリックでFC岐阜が前半に3点取ったのですが、後半の残り10分くらいで4失点して負けてしまうという。この試合が、私が初めてのアウェーでのコラボ試合でしたね。(苦笑)
その後、ヴェルディさんが抜けられまして、そこからは水戸ホーリーホックとFC岐阜が『アニ×サカ』という形で交流を続けました。初めはコラボグッズも単独のグッズとして、FC岐阜と『のうりん』という形でやっていましたが、『アニ×サカ』が始まってからは、『ガルパン』さんと『のうりん』という形になってきました。グッズを作る際には、キャラクターがJリーグクラブのユニフォームを着たりするので、当然Jリーグ側の許可も必要ですが、クラブ側の協力のお蔭で実現することができました。
『のうりん』がきっかけでサポーターになった。
——白鳥先生ご自身も熱心なFC岐阜サポーターだと伺っていますが、いつ頃からゴール裏へ駆けつけるようになったのでしょうか。
(白鳥)コラボが始まった時に、サポーターの方々がアニメの登場人物がユニフォームを着ているゲーフラを作ってくれたのです。それをゴール裏で掲げてくださったので、「ありがとうございます。」と挨拶に行きましたら、一緒に応援しましょうということになり、それからゴール裏ですね。
——では『のうりん』がきっかけなのですね。アウェー戦にも出かけられているそうですが。
(白鳥)もちろん、コラボマッチがあるので私が行かせていただくという試合もありますが、それは招待されているわけではなく、交通費もチケット代も全部自分で支払っていますし、ホームで開催するコラボマッチも自分でチケットを買っています。今はシーチケ(シーズンチケット)を持っていますが。
——アニメがコアサポーターに受け入れられることに困難はありましたか。
(白鳥)基本的に岐阜のゴール裏は自由です。誰かが何かを強制するわけではないし、ただ一緒に声を揃えて手を叩いてくれたらいいよと、チームの志気を下げない形でやっていくのはいいよという形です。だから、ゲーフラを掲げてくれた人たちも、結構古くから応援している方々ですし、趣味を自分でしっかり持っていて、これが俺の好きなものだよという発信をするのが、やはりサポーターだと思うので、アニメが好きだということを隠している人ではありません。サッカーも好きだし、アニメも好きだという人が集まってきて、アウェーの時には車に乗せて連れていってくれたりしますから。なので一緒に応援していれば嫌なことはないですね。
——白鳥先生自らがゴール裏で応援しているという説得力もある。
(白鳥)それはあるかもしれないですね。ちゃんとやっているという言い方も変ですが、サッカーを第一に考えていること。そこがぶれていなければ、誰も何も言ったりはしないですよね。
——『のうりん』効果を実感していますか。
(白鳥)正直なところ、人がどれくらい増えたかと言われると難しいところはあります。私の作品を好きでいてくれて、イベントをきっかけにサッカーを観て、ゴール裏で一緒に応援するようになった人は数人いますけど、劇的に変わったっていう程ではありません。
ただ例えば、高木義成選手が『のうりん』見たよと言ってくれて、“のうりんおじさん”というニックネームがついて、それがJリーグのサポーターの間で面白がられていて、岐阜はこういう面白い企画をやっているということを知ってもらえたこと、それによって他のクラブに波及するかもしれないですしね。
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