【Jリーグ YBC ルヴァンカップ グループステージ第3節 横浜FM 4-1 新潟】
平日夜のニッパツ三ツ沢球技場。冷たい強風が吹き付けるスタンドに駆け付けた観客は5.538人。決して盛況とは言えない。メインスタンドには会社員とおぼしきダークスーツの集団がキックオフ直前に忙しなく腰を下ろし、試合終了のホイッスルを待たずに足早に去ってく。
閑散とするメインスタンドを他所に、ユニフォームに身をまとうサポーターをすし詰めにするゴール裏には普段と変わらない熱狂がある。彼らは試合に優先順位をつけることはない、愛するチームと共に歩むこと。それが彼らのライフワークだからだ。
お目当ての選手が出場しない、主力選手を温存するなど、ルヴァンカップが世間的に不人気である理由は明白だ。しかし、このルヴァンカップこそが、リーグ戦の出場を許されない若手選手の主戦場であり負傷などにより戦列を離れていた選手の復活の舞台でもある。試合の注目度とは相反しドラマの発生率が高い。これこそがルヴァンカップの醍醐味なのだ。
アルビレックス新潟をホームに迎え撃つ横浜F・マリノスは、先週行われたJリーグ柏戦から8名を入れ替えたメンバーをピッチに送り込む。この日最も輝きを放った2人の選手がいた。中島賢星選手と遠藤渓太選手だ。
この日のマリノスは積極果敢だった。「われわれは勝利に値する内容だった。」と試合を振り返るモンバエルツ監督の言葉通り、序盤から試合の主導権を握るマリノスだが、左サイドから鈴木武蔵選手の強行に屈し、フリーでパスを受けたジャン・パトリックに先制ゴールを許してしまう。しかし、勢いは衰えることはなかった。ポゼッションで上回るマリノスは優位に試合を展開する。31分、自ら獲得したPKを沈めたウーゴ・ヴィエイラの同点ゴールで前半を1ー1で折り返す。
後半に入ってからマリノスのゴールラッシュが始まった。ゴール前の混戦から溢れたボールをコンパクトに振り抜いた中島賢星選手のゴールで逆転。そしてこの日、本来のポジションではない右サイドバックで出場した遠藤渓太選手は、本職ではない守備に手を焼くものの、83分、一瞬の隙を逃さなかった。パス交換とドリブルで右サイドから中央へ鮮やかな突破を見せる。そのまま豪快に振り抜き3点目のゴールネットを揺らした。
2人にとって奇しくもこの日のゴールは、記念すべきプロ初ゴールだった。試合後のインタビューで初ゴールに至るまでの胸の内を明かした両選手だが、試合中、サポーターからのコールが最も多かったのがこの2人であったことからも分かるとおり、彼らの台頭を待ち望んでいたのは他でもないサポーターだったのではないだろうか。
ずっと、涙が止まらない。思いをちゃんとみんなわかってくれてて、だからこそ、喜んでくれて。君がみんなに愛されていることがこんなにも幸せな気持ちにさせてくれる。おめでとう,賢星!
もっともっと、もっともっと高いところへ向かって#中島賢星 #横浜Fマリノス #ルヴァンカップ— incensemoon (@insencemoon) 2017年4月26日
一人の若者の台頭を自分ごとのように分かち合うことができる。ルヴァンカップの醍醐味はこれだけではない。この日、途中出場により10ヶ月ぶりにピッチに立った下平匠選手。そしてキャプテンマークを巻いてチームを牽引した栗原勇蔵選手。復活の舞台に賭けるベテラン選手の気概をサポーターはしっかりと受け止めている。
匠さんのツラさは、私には想像できない。
あの男がこれほどまでに人目を憚らず涙するのだから。#下平匠#おかえりなさい#横浜Fマリノス pic.twitter.com/4nunbvw9BZ
— シャドーブリ杏 (@takumi_marinos) 2017年4月26日
おじさん、ただでさえ涙腺が弱いんだから、許してよ
ほんとうに感動しました。
でも、ここからもっと前に行きましょう!もちろんサポといっしょにね!#横浜fマリノス #中島賢星 https://t.co/1xM6DXPioh— shigeo (@tricolore10yfm) 2017年4月26日
若手の主戦場がある、ベテラン復活の舞台がある、ルヴァン杯には心震え上がるドラマがある。フィクションではない、今そこにあるサッカーからドラマを感じる。ルヴァンカップならではの醍醐味を味わい尽くそうではないか。
【中島賢星~3年目の結実~】
やっと結果を出せた。素直に嬉しかった。苦しい2年間だった。なかなか結果を出せず、うまくいかない時期も長かった。このゴールで何か全てが変わるわけではないけど、良い意味で次につなげていきたい。ルヴァンカップももちろんだけど、リーグ戦にも良い調子で臨める。自分が置かれている立場でアピールしていきたい。(中島賢星)
中島 賢星(なかしま けんせい)
1996年9月23日生まれ(20歳)
出身地:佐賀県
180cm/73kg
ポジション:MF
背番号26
利き足:右
記憶に残るゴール。
本当に感謝。
まだまだこらから! pic.twitter.com/5qCJafV4JL— 中島 賢星 (@cleverstar9231) 2017年4月27日
2015年、東福岡高校から横浜F・マリノスへ入団するも、Jリーグ・アンダー22選抜に登録しJ3で15試合出場。翌年2016シーズンはリーグ戦不出場、リーグ杯3試合、天皇杯1試合の出場にとどまる。怪我を乗り越え、3年目を迎えた今シーズン、リーグ杯出場5戦目にして待望のゴールを記録。攻守に圧倒的なインパクトを与える。
【遠藤渓太~U-20W杯メンバー入りに前進~】
小さい頃からマリノスでゴールを決めることが夢だった。ここまで長かった。でも、これで満足せずにやっていきたい。自分のところから失点してしまった。自分のことで手いっぱいだった。周りのことを考える余裕がなかった。今日のプレーに満足することなく、今度はリーグ戦でゴールを決めたい。(遠藤渓太)
遠藤 渓太(えんどう けいた)
1997年11月22日生まれ(19歳)
出身地:神奈川県横浜市
175cm/66kg
ポジション:MF
背番号18
利き足:右
マリノスでのゴール
サッカー人生の中でかけがえのないゴールでした。
また決めれるようにもっと頑張ります‼️ pic.twitter.com/bjdaXXihPd
— 遠藤渓太 (@keita_ed) 2017年4月27日
2016年、下部組織からの昇格という形で横浜F・マリノスに入団。途中出場が多いながらも初年度からリーグ戦23試合出場。リーグ杯5試合と天皇杯2試合にも断続的に出場を果たす。AFC U-19選手権で初優勝を果たした日本代表主力メンバーとして活躍、今年5月に開催のU-20W杯メンバー入りを期待されている。