日本を救ったFW浅野拓磨を待ち受けるシュツットガルトFW陣の熾烈な争い~2部得点王、ドイツ期待の点取り屋も

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W杯アジア最終予選第2戦・タイ戦で先発して貴重な追加点を挙げたFW浅野。by Stuttgarter Nachrichten

2018年に開催されるFIFAロシアW杯の出場権を争うアジア最終予選。ホームで迎えた初戦のUAE戦でまさかの敗戦を喫した日本代表は、アウェイでグループ内ではFIFAランク120位と最も低いタイと対戦。

実力に差があったとはいえ、灼熱の地で相手にシュートを1本も許さないまま先制にも成功した日本でしたが、例のごとく幾度もの決定機を迎えても追加点を奪えず。

そんな中、FW岡崎慎司選手(レスター・シティ/イングランド)に替わってW杯予選初先発に抜擢されたチーム最年少の21歳のFW浅野拓磨選手が期待に応えて追加点を挙げました。

中盤からのややアバウトなパスでしたが、相手の高いDFライン裏に落としたボールに対して自慢のスピードで反応。懸命に戻る相手DFの鼻先でボールを収め、GKとの1対1を制して得点を挙げる。まさに浅野選手らしさ全開のゴールでした。

そんな浅野選手は今夏、サンフレッチェ広島からイングランドの強豪アーセナルに約5億円の移籍金で完全移籍。ただ、英国内で働くための就労ビザの認可条件をクリアできず。8月26日にドイツ・ブンデスリーガ2部に所属するVFBシュツットガルトへの1年間のレンタル移籍が決まりました。

現在は2部とはいえ、これまでブンデスリーガ1部を5度制したシュツットガルトは2006-2007シーズンにも優勝を果たした名門。昨季1部・17位で終わった事で41年ぶりの2部降格を喫しましたが、これまで岡崎選手やDF酒井高徳選手(現・ハンブルガーSV)も在籍し、今季からはMF細貝萌選手も加入した日本人にも馴染みの深いクラブです。

3位スタートの古豪で迎える定位置争い、実質1人だった手薄なFW陣


41年ぶりの2部降格を喫した名門に加入した浅野。背番号【11】を用意されたのも期待の証。by VfB Stuttgart 1893 e.V.

ブンデスリーガ2部は1部と同じく18チームでホーム&アウェイ戦を戦う全34試合制。1部昇格への条件は、自動昇格となる2位以上か、3位に入って1部・16位チームとの昇降格プレーオフを制する事。

名門であるシュツットガルトとしては自動昇格となる2位以上、出来れば2部優勝を勝ち取りたいシーズン。そんな出だしは2勝1敗の3位に付けるまずまずのスタートで、シーズン最初の代表戦による中断を迎えました。

そして、浅野選手が加わるFW陣は開幕からの3試合を実質1人で凌いで来たのですが、8月いっぱいで締め切られた移籍市場終盤で浅野選手を獲得すると、チームは他にも実力者を補強。

そんな2部とは思えない魅力的な攻撃陣を揃える事になったシュツットガルトのFW陣を紹介した上で、浅野選手の今季を検証したいと思います。

遅咲きの昨季2部得点王FWテローデ


今季から加入した長身FWテローデ。昨季2部得点王の彼が開幕から1トップに定着している。by VfB Stuttgart 1893 e.V.

まず開幕から実質1人で最前線を引っ張っていたのは、今季から加入したFWシモン・テローデ選手。

192cm83kgという長身と強靭なフィジカルを活かし、クロスをゴールに叩き込む典型的なドイツ人FWです。

昨季所属したVFLボーフムでは25得点を挙げてドイツ2部の得点王となった28歳の彼のキャリアは完全に遅咲きの苦労人で、出場機会を得るようになったのは24歳になった頃から。

ただ、1部での実績が5試合無得点ながら、2部では158試合の出場で65得点を記録している程、『2部リーグマスター』な彼は、41年ぶりに降格した古豪にとっては2部リーグの案内人役にもなる貴重な存在として今季から加入しました。

しかし、チームは監督交代だけでなく昨季までの主力だったセルビア代表の若手MFフィリップ・コスティッチ選手(現・ハンブルガーSV)やベテランのオーストリア代表MFマルティン・ハルニク選手(現・ハノーファー)といった2列目のタレントが降格を機に移籍し、攻撃陣全体が再構築を余儀なくされているのが現状。

そんな中、テローデ選手は開幕から<4-2-3-1>システムの1トップとして4試合連続フル出場しているものの、ここまで僅かに1得点に止まっています。

Cロナウド等を輩出したポルトガルの名門の”最新作”=カルロス・マネ


by Daily Record

そして、浅野選手の加入後となる移籍市場最終日の8月31日、電撃的に加入が発表されたのがポルトガル人のカルロス・マネ選手。

ポルトガルの強豪スポルティング・リスボンから1年間のレンタル移籍での加入で、浅野選手と同じく今夏に開催されたリオディジャネイロ五輪にもポルトガル代表として3試合に出場した22歳の逸材です。

ポルトガル国内だけでなく世界的に高い評価を受けるスポルティングの育成機関からは特に、サイドを切り裂く個人技に長けたウインガーを輩出し続けています。

ルイス・フィーゴ元選手やナニ選手(バレンシア/スペイン)はもちろん、あのクリスティアーノ・ロナウド選手(レアル・マドリー/スペイン)をも輩出して来たポルトガルの名門が放つ”最新作”が、このマネ選手です。彼を完全移籍で獲得するために設定された違約金は70億円以上という数字が、そのポテンシャルの高さを物語っています。

テクニックよりも爆発的なスピードでサイドでの1対1を制し続けるドリブル突破が最大の武器で、フィニッシュに直接持ち込む事もできる得点力も兼備。そのため、ウイングだけでなく2トップ採用時にはFW起用もありえるので、浅野選手のライバルになる可能性がある選手です。

次ページ:最大のライバルはドイツ国民待望のFWか?

ドイツ国民待望の本格派FWギンチェク


ドイツ国民全体が期待するFWギンチェク。すでに1年近く欠場が続いているが、それでも期待を寄せられ続ける本格派の点取り屋だ。by 11 Freunde

そして、開幕後に緊急補強をせざるをえない理由になったのは、このドイツ人FWダニエル・ギンチェク選手の存在。一昨季にシュツットガルトに加入。怪我で出遅れたものの、後半戦に復帰すると一気に得点を量産。7得点を挙げて2部への降格まっしぐらだったチームを残留に導きました。

昨今のブンデスリーガ1部で得点王を争うのは、バイエルン・ミュンヘンのポーランド代表FWロベルト・レヴァンドフスキ選手や、ボルシア・ドルトムントのガボン代表FWピエール・エメリク・オーバメヤン選手を筆頭とする外国籍選手ばかり。

今夏のEURO2016フランス大会でも毎試合相手を凌駕する華麗な攻撃を披露しながらも得点力不足でベスト4止まりだったドイツ代表には、世界王者に輝いた2014年のブラジルW杯後に代表を引退したFWミロスラフ・クローゼ選手の穴が大きく、現地では救世主となる若手国産FWの待望論が根強く続いています。

そんなドイツ国内で「国民が期待する国産FW(代表未招集)」というアンケートを実地すると、このギンチェク選手は今季から1部へ昇格したRBライプツィヒに所属するリオ五輪代表FWダビー・ゼルケ選手と毎回のように1位と2位を争っているドイツ国民期待の本格派FWです。

190cm87kgという鋼のような体格やパワーを武器とするだけでなくスピードも兼ね備えており、クロスを始めとするラストパスを強引にゴールに押し込む本格派ストライカーです。やや技術的には粗い部分があるものの、それが逆にストライカーとしての強引さという部分で強みになるようなプレースタイルを持ちます。

しかし、キャリアを通して怪我に泣かされ続け、昨季は椎間板ヘルニアと靭帯断裂により僅か7試合の出場に止まり、現在も長期離脱を続けています。すでに離脱してから1年近くが過ぎますが、それでも昨季終盤に2020年までの契約延長を発表するなど、クラブからの期待の大きさは特大です。

チームは開幕前に必要以上に補強に動きませんでしたが、彼の回復が遅れているからこそ、移籍市場の最終盤に大きく動いたのでしょう。ただ、決して「若手」の括りではない25歳となったギンチェク選手が復帰してくれば、ファースト・チョイスは彼のモノになるでしょう。

期待は「本物」な浅野の現状はFWの2番手か?


第4節のハンデルハイム戦の81分に投入された浅野。「アーセナルから来た助っ人FW」として結果が問われる。by Twitter@VfB

その他にもウクライナ人のボリス・タスチ選手がFWとして登録されており、日本代表FW宇佐美貴史選手の加入により8年間で187試合に出場したアウクスブルクを去る決断をして加入したMFトビアス・ヴェルナー選手や、チームの10番を背負うルーマニア代表MFアレクサンドル・マキシム選手のような攻撃的MFやウイングを本職とする選手もまた、採用する布陣によっては浅野選手のライバルとなる存在になるでしょう。

特にマキシム選手はサイドMFよりもシャドーやセカンドトップのような役割の方が活きるため、浅野選手の出場機会を間接的に左右する選手になるかもしれません。

今季から指揮を執るヨス・ルフカイ監督は、開幕からの3試合はテローデ選手しかFWがいなかったからか?システムは<4-2-3-1>を続けています。ルフカイ監督はMF細貝選手が渡独した最初のクラブである当時のアウクスブルクで監督を務めていた人物で、彼がヘルタ・ベルリンの監督に就任すると、愛弟子の細貝選手も引き連れて加入させた監督です。今夏に2部落ちした名門の指揮官に就任すると、再び細貝選手を獲得し、元日本代表MFと3度目の師弟関係を結ぶ指揮官は浅野選手をどのように評価しているのか?

代表戦による中断明け初戦となった9月9日のリーグ第4節のFCハイデンハイム戦。指揮官は移籍市場の終盤で大型補強した「3人(浅野、マネ、DFベンジャミン・パヴァード選手)の中で最も重要な選手」と評した上で、浅野選手だけを唯一メンバー入りさせました。1点を追う81分、浅野選手は欧州での公式戦デビューとなるピッチに投入され、同点アシストか?と思わせるプレーもありましたが、得点は動かず。チームは敗れて今季すでに2敗目。この結果、チームは順位表中段の暫定8位に落ち込みました。

このデビュー戦では1点を追う中、セカンドトップとして出場した浅野選手。ルフカイ監督のこれまで指揮したクラブでのFWの人選を見ると、最前線に必ず長身FWを置いているため、セットプレーの守備でも貢献できるテローデ選手が今後も先発起用される状況が濃厚です。ただ、火曜日に行われた日本代表のタイ戦に先発し、水曜日からシュツットガルトの練習に初合流。中2日の金曜日の試合で起用された浅野選手に対する監督やクラブからの期待は本物です。

だからこそ、欧州屈指の名門アーセナルから来た選手として高い評価を受ける浅野選手には結果が求められます。まずは途中出場から得点を挙げ、その後はセカンドトップやシステム自体を2トップに移行させるぐらいの活躍を期待したいところ。実際、「途中出場からゴールを奪う」のは広島時代からの得意技で、英国での就労ビザ認可と日本代表定着、アーセナル復帰のためには、今季残りの30試合で最低10ゴールは決めるぐらいの活躍を誰もが求めていると思います。

日本代表を救った浅野選手を待つのは、2部リーグとは思えない豪華な攻撃陣の中でのポジション争い。それは彼をさらに成長させる舞台になるはず。まずは次節のカイザー・スラウテルン戦での初ゴールを期待して見守りましょう!

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