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日本を代表してレアル・マドリードとの闘いへ!10年振りにアジア王者となった浦和レッズのACL最終戦記

扇ガ谷 道房

2017/12/01 17:23

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NEWS

2017年11月25日夜、浦和の街は燃えていた!(火事ではありませんよ)
2万を超えると言われているアジアのサッカークラブの頂点に、我等が浦和レッズが昇りつめたのです。
Jリーグクラブとしては三度目、浦和レッズとしては2007年以来二度目のアジア王者制覇を成し遂げたこの夜、浦和駅前では新聞の号外が配布され、夜遅くまで浦和レッズ優勝の歓喜の声がこだましていました。
筆者既著の「10年振りのアジア王者へ! 明日ACL決勝にJリーグと浦和のプライドを賭けて挑む浦和レッズ」に引続いて、ACL決勝戦の模様と勝利分析をお届け致します。

ACL決勝ならではの風景

スタジアムを埋め尽くした観客による一文字のことをコレオグラフィーと言います。
予めスタジアム一面で表現するデザインを決めて、その図柄と色を表現する為、観客が入場する前に、表現用のビニールシートやボード等を各座席に配置し、サポーターリーダーが観客各位にそれを掲げる方法とタイミングを事前に伝えて、そのタイミングに一斉に掲げるのです。
事前に準備をする事はとても大変な作業な上に、万が一観客動員が少なかった場合は、苦労空しくコレオグラフィーは成立しません。
然しながら、Jリーグ随一の観客動員を誇る浦和レッズは、Jリーグクラブの中でもコレオグラフィーが成立する可能性が最も高いクラブなのです。しかもこの日はACL決勝。チケットは完売が想定されて、世界中に浦和レッズの底力を表現できる絶好の機会です。
その客観状況にふさわしいコレオグラフィーがこの日の埼玉スタジアム2002に出現しました。ほぼ満員の埼玉スタジアム2002で、アジアチャンピオンの座を狙う事ができる最後のクラブのホーム・サポーターが見せた、これでもかという力強さに満ちていました。
熱烈な浦和レッズ・サポーターが集結する北ゴール裏には、10年前のアジア・チャンピオンを示す白い星と2007という数字。最も観客数が集まるバック・スタンドには、浦和レッズとACLのエンブレム。そして南ゴール裏には、浦和レッズが手にする筈の今年のアジア王者を表す白い星と2017の数字。
Jリーグと浦和レッズのプライドを世界に見せ付ける見事なコレゴグラフィーは圧巻でした!
そして、キック・オフ・ボールのプレゼンターには、日本サッカー界の至宝・キングカズこと三浦知良選手が登場し、ゲーム開始前の臨場感は最高潮に達しました。

©️Shooty

スタメンを変えなかった采配

1st Legを敵地で1対1の引き分けで折り返した浦和レッズ。この日のミッションは、点を与えずに引き分け以上の結果に持ち込む事。
アウェイゴールを決めているとはいえ、対戦相手のアルヒラルが2nd Legで1ゴールを決めれば、立場は逆転しまうという、薄氷の優位性で望んだゲームだったのです。
多くのサッカー関係者が予想していたスタメンは、1st Legに欠場していたマウリシオ選手がCBに入り、1st Legで再三再四相手からクロスを供給されてピンチを招いていた左SBの宇賀神友弥選手が外れるだろうというものでした。
マウリシオ選手がCBに入って、相手のエース・ストライカーであるハルビン選手をマンマークし、槙野智章選手が左SBに布陣するだろうと筆者も想像していました。
発表されたスタメンを見て驚いた事に、マウリシオ選手はおらず、1st Legと全く同じメンバーだったのです。アジアチャンピオンに返り咲いたこのゲームにおける、第一の勝因がここにありました。堀孝史監督采配の妙と言えます。
試合後の監督インタビューでは、メディアからもこの点に関する質問が当然ありました。これに対して答えた堀監督の内容から、堀監督のスタンスと、思慮深さを感じるのです。

「前回の対戦で、我々の左サイドをやられたという話をよくされますけど、個人的な部分でやられたというより、チーム全体の戦い方の上で、ボールへの規制が緩かったことで、最終的にひずみが生じていた、と感じていました。それに対して、ボールの出所をしっかり抑えていこうという考えのもと、今日の戦い方をしました」
つまり宇賀神選手という個人が問題だったのではなく、供給先にプレスをかけられなかったという原因の本質が重要で、そこに手を入れる事が修正点だったという見解を述べられているのです。

筆者はその上で、敵地でアウェイ・ゴールを奪って優位な状況を作ったイレブンを、そのまま2nd Legで起用する事で、サウジアラビアで感じ取った勝つ意識と体感を、埼玉スタジアム2002で失うのは損失だと堀監督は考えたのではないかと想像しています。
通常、前ゲーム内容を分析した結果、多くの監督は人選でその修正を図る事が多いのですが、堀監督はそうしなかったのです。発表されたスタメンを見た時は、不安を感じたのですが、試合後のインタビューで堀監督が語った内容から、その選択が大きな勝因だったのだと改めて感じたのです。
堀監督の沈着冷静な判断力があってこその勝利だったと思います。
   

変えたシステム

1st Legからスタメンを変更しなかった一方で、システムを変えて来ました。
1st Legでは、このところの浦和レッズで標準になりつつあった4-1-4-1という布陣でしたが、2nd Legでは4-4-2というフォーメーションに変えてゲームに臨んだのです。
1st Legは、アウェイ・ゴールを奪えたものの、圧倒的にアルヒラルにボールをポゼッションされ続け、ラインは下がり、相手を追い回さざるを得ないという展開でした。
ホームでの2nd Legでは、その点を修正する為に、引き気味にならず、相手陣内でプレスをかけ続け、相手にポゼッションをさせずに、攻撃チャンスを上げる必要がありました。
4-1-2-3フォーメーションのアルヒラルは、2人のCBとアンカーのボランチが基点になり、ボールを供給することから、トップを2人にしてCB2人に対峙してプレスをかけ、ラインを上げて、中盤で支配されない布陣を採用し、それが功を奏する結果に繋がりました。
その上で、前半から前へという意識の下、引いたアウェイ戦とは違い、当然ながらホームでの決勝最終戦で勝ちに行くというモチベーションが、このシステムにした事でより一層明確になって、選手一人ひとりがミッションを達成できたのです。
変えない点と変える点が明確だったという監督采配。堀監督の采配の妙が、やはり勝機をもたらしたと言えます。

身についた沈着冷静さ

沈着冷静だったのは堀監督だけではありません。全選手がミッションを明確に理解して、アジア最高峰のゲームという大舞台で、沈着冷静さを保持していました。
浦和レッズというチームは、圧倒的な攻撃的戦術のサッカーを身上としているので、対戦相手には引き気味に構えられ、逆に一瞬の隙に乗じてカウンターで得点されるという、脇の甘さを常に指摘され続けて来ました。
ところが、今年のACLでは、勝ち進むにつれてその傾向が反転します。準決勝の上海上港戦、そして決勝のアルヒラル戦共に、攻撃力は相手が勝り、むしろ浦和レッズが引き気味に構えるという、Jリーグでの戦いとは間逆の立場にありました。
世界で闘うという事は、こうした状況の違いに直面する事になる典型例と言えます。
準決勝から決勝の4戦では、特にこの傾向が強まり、得点されずに得点するという、忍えながらカウンターを狙うというミッションが明確なゲームプランになったことで、全選手がそれを全うすべく、沈着冷静さが身についたと感じます。

この日のゲームでは、引く事で得点を阻止するのではなく、前でプレスをかけ、中盤で奪い、カウンターに繋げるミッションが、見事に体言されていました。ラファエル・シルバ選手が決めた決勝点はまさにその事例にあたります。
一方のアルヒラルは、冷静さを保てず、攻撃しているのにことごとく浦和レッズに防御されてしまうのでラフ・プレイが増え、イエロー・カードが増えていました。決勝の2戦で、アルヒラルが12、浦和レッズが4という数字がそれを物語っています。
この日2枚のイエロー・カードをもらったサレム・アルダウサリ選手がレッド・カードで退場になった事から、流れは必然的に浦和レッズ有利に進みました。
付け加えて、力説しなければならないのはラファエル・シルバ選手の決定力です。1st Leg、2nd Legの決勝2戦において、浦和レッズの2得点全てをたたき出したのがラファエル・シルバ選手です。

1st Legでは、長い距離をドリブルで走り抜けての見事なゴール。2nd Legでは武藤勇樹選手から中盤で受けたパスを、一瞬で反転して相手DFを振りきり、ゴール・バーを直撃する破壊力のあるミドル・シュートで決めたのです。
全員が沈着冷静に相手を防御しても、得点できなければ勝利は望めません。チーム一丸となった守備の徹底で生まれたワン・チャンスを、ラファエル・シルバ選手が確実にゴールした事で、浦和レッズはアジア王者に復帰できたのです。
この決定力は、瞬間的な判断力と、一方では沈着冷静さも必要なことです。つまり、監督、チーム全員、そしてゴールを決めたストライカーという全てにおいて、大舞台でも沈着冷静さを保てた事が、最も勝因だったと筆者は考えるのです。
  

イレブン+ワン

もちろん、大舞台を大舞台たらしめたのは、選手だけではありません。
クラブ一丸となって臨んだ事も間違いありませんが、クラブを支え、鼓舞し、時には叱咤しながらも、愛情を持って浦和レッズを応援し続けているサポーターの存在は忘れてはならないでしょう。
この日は、久々の6万人超えなるだろうと期待していた来場者数は57,727人だったものの、ほぼ満員の埼玉スタジアム2002を埋め尽くしたサポーターの存在は稀有と言って差し支えないでしょう。
常にJリーグ随一の観客動員を誇る浦和レッズだからこそ、この日の大舞台にも選手を心底鼓舞する環境が整えられたと言えます。
ゲーム直後、キャプテンの阿部勇樹選手は泣いていました。2007年のアジア王者を経験している唯一のイレブンです。Jリーグ優勝を逃し、久々にJリーグ中位に甘んじてしまった今年、この戦いを制する為に、キャプテンとして重責を担っていた筈です。
決勝2戦で2ゴールを決めたラファエル・シルバ選手も泣いていました。二人とも、埼玉スタジアム2002の満員のサポーターの力が後押ししてくれたと語っています。
選手、クラブ一丸となって頑張ってくれました。そして、もちろんのこと、12番目の存在であるサポータ-あってこそ、成し遂げたアジア王者でした。

©️Shooty

  
浦和レッズは、アジア・チャンピオンになった事で、12月6日から開催されるクラブ・ワールド・カップに、アジア代表として参戦することになりました。
アジア王者になった日本のクラブは、2007年の浦和レッズと、2008年のガンバ大阪の2クラブのみです。過去二回共、クラブ・ワールド・カップは日本で行われましたが、今回は中東のUAEでの開催ですから、日本のクラブとして初めてアウェイの地で参戦することになりました。
浦和レッズの初戦は2017年12月9日。開催国代表アルジャジーラとオセアニア代表のオークランドシティの勝者と戦うことになります。
キックオフは日本時間2017年12月10日(日)午前2時。BS日テレで生中継されます。日曜日ですから、お休みの方が多い休日です。是非テレビ観戦して想いをUAEに届けましょう。
初戦に勝利すると、2017年12月13日には、あのレアル・マドリードとの対戦です。クリスチアーノ・ロナウドを阻止して勝利する浦和レッズを期待したいじゃないですか!
We Are Reds !

©️Shooty

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