マンチェスター・シティとドルトムントを退け、今回の大会でダークホースとなっているモナコ。若く有望な選手が多く、チームが噛み合って欧州一の攻撃力を誇っている。今シーズン終了後には多くの選手がビッグクラブに引き抜かれるだろう。
一方のユヴェントスは完成度の高さを誇っており、バルセロナに対しても2戦合計で無失点に抑えた守備力がある。もちろん守備力が高いと言っても、ゴール前を固めるカテナチオを貫くという意味ではなく、積極的なプレッシングの質も非常に高い。世界的にプレッシングという積極的な守備戦術が広まる中、セリエAが再び勢いを取り戻しつつあるのは興味深い。
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スターティングメンバー
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モナコの指揮官レオナルド・ジャルディムは、バンジャマン・メンディが左サイドバックでプレーできなかったので、右サイドバックのジブリル・シディベを左サイドで起用し、右サイドハーフのナビル・ディラルをサイドバックに降ろした。
一方ユヴェントスを率いるアッレグリは、右サイドハーフのフアン・クアドラードをベンチに置き、センターバックのアンドレア・バルザーリを起用した。
ボール保持における3バックのアドバンテージ
ユヴェントスは3-4-3のような形で試合を開始した。3バックをBBC(バルザーリ、ボヌッチ、キエッリーニ)で揃えたことに対して、モナコの攻撃力を恐れたと捉えることができるし、実際に理由の1つであっただろう。しかしこの3バックはボール保持でも効果を発揮する。
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モナコの守備はコンパクトな4-4-2である。これに対してユヴェントスは、ウイングバックが横幅の役割を担い、センターハーフが相手の1列目と2列目のライン間にポジショニングしながらビルドアップを支え、ディバラは2列目と3列目のライン間を中心にボールを引き受け、イグアインとマンジュキッチが中央で待ち構えた。
モナコの状況は、多少の違いはあれどレアル・マドリーに対するアトレティコ・マドリーの状況と同じである。“インサイドハーフ落とし”は3バックに、イスコのフリーロールはディバラのライン間のポジショニングに相当し、そして横幅の役割を担う選手へのマッチアップと、モナコはユヴェントスに対応できなかった。
これらをもう少し詳しく見ていこう。3バックに対して2トップと、ユヴェントスはビルドアップにおいて数的優位の状況であった。2トップで追いかけ続けるという選択肢もあるが、自慢の攻撃力を低下させてしまう。また3トップに変換するという選択肢もあるが、ハイプレッシングをかけ続けるようなこともしなかった。よってユヴェントスの3バックは時間と空間を与えられる。特に屈指のロングフィードの精度を誇るボヌッチから、フリーの両ウイングバックに何度もパスが送られた。
ウイングバックからのサイド攻撃
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4-4-2の泣き所が2トップ脇とサイドチェンジであることは前回書いた。4枚で横幅を守り切ることは非常に難しいからである。この試合でもアレックス・サンドロとダニエウ・アウベスはフリーでボールを受け攻撃の起点となった。センターバック2枚はユヴェントスの2トップを見ているため、サイドバックはタッチライン際に位置するウイングバックを放置してしまう。またサイドハーフも、ディバラがライン間でボールを受けようとするためパスコースを切るために中央にポジショニングしなければならない。よってユヴェントスのウイングバックは浮くという形になっていた。
試合の序盤はユヴェントスが支配しており、何度もサイドからチャンスを作っていた。もちろん常々、得点状況は試合内容に変化をもたらす。
モナコのボール保持
モナコの攻撃の特徴は、若い選手が多くエネルギッシュでスピードのある前線である。サイドハーフはタッチライン際に位置するよりも中央に入り込んでプレーすることを好み、前線の4枚がスピードに乗って攻撃をしながらサイドバックが横幅を取ってサポートする。モナコは比較的シンプルな4-4-2で、戦術的に複雑さはないのだが、“トランジション”(攻守の移行の局面)でスピードに乗ったモナコの選手を止めるのは難しい。
ユヴェントスは基本的に3バックで2トップを抑え、サイドハーフとサイドバックの選手をセンターハーフとウイングバックで付いた。しかし、BBCの3バックを起用しながらモナコが惜しいチャンスを作っていたことは驚きだった。キリアン・ムバッペは序盤に2つのチャンスを迎えたが、最後の砦にブッフォンがいたためゴールには結び付けられなかった。
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モナコは右サイドバックのディラルからチャンスを作っていた。右サイドハーフのベルナルド・シウバが中へ入り込みスペースを作ったところへオーバーラップし、多くのクロスを上げてチャンスを創出していた。
ダニエウ・アウベス→イグアインで2得点
by zonalmarking
先制点は右サイドでの華麗なパス回しから、追加点は高い位置でボールを奪った“トランジション”から、ダニエウ・アウベスのアシストによりイグアインがゴールを決めている。どちらも質の高いプレーを見せているが、ディバラもキーとなるプレーを見せていることにも注目である。
控えめに言って美しすぎるユベントスの先制点
(動画:@skyperfectv )pic.twitter.com/891ptjj11E
— CalciAmici Giappone™ (@CalciAmici) 2017年5月3日
Higuain's 2nd goal— manipulating the Monaco defender's movement toward the ball so he can create space to attack toward the far post pic.twitter.com/4zTlarYgUl
— sam (@11v11Sam) 2017年5月4日
得点状況の変化による試合展開
試合の序盤はユヴェントスが支配していたが、得点を奪い徐々にモナコのボール保持が高まる。モナコはゴールを奪いたいし、ユヴェントスはアウェイで得点を奪い無理する必要がないので必然的である。ユヴェントスはボール非保持時にはアレックス・サンドロとマンジュキッチを1列下げた4-4-2の形をするようになり、時には6バックになりながら守備を行っていた。バルセロナ戦でも書いたが、“トランジション”で前線にボールが収まることがこのような守備を可能にしている。
モナコはその後もいくつかのチャンスを作ることができていたが、ようやくシュートまで辿り着けても最後にブッフォンがおり、得点を奪えず。
期待点とパスマップ
by @11tegen11
この試合の期待点は1.78-1.17であり、ホームのモナコも十分にチャンスを作れていた。しかしアウェイのユヴェントスは少ないチャンスをものにして、勝利を収めた。ただしユヴェントスとしても守備に課題を残した試合だったと言えるだろう。
by @11tegen11
時間の経過とともに、ユヴェントスがボールを保持する時間帯やモナコがポゼッションする時間帯があったため、点の大きさはどちらのチームも同じくらいだった。また、上述の通り、モナコはディラル、ユヴェントスはダニエウ・アウベスに金の星があり、各チームでチャンスに最も関与した(すなわち、期待関与(ExpGChain)が最も高い)選手だった。
#UCL Good-Lucky Matrix#フットボール統計学 pic.twitter.com/TL54M8Q3hq
— ぱこぱこ・へめす (@tenchan433) 2017年5月3日
まとめ:セカンドレグの展望
もう片方の準決勝とともに、ファーストレグでほとんど勝敗が決してしまった感のある対戦。モナコは4-2-3-1の準備しかしてなかったのかもしれない。セカンドレグでは、モナコがどれだけ積極的なプレーを見せられるのか、ゴールを奪えるのかがポイントとなってくる。ユヴェントスはバルセロナ戦と同様にしっかりと試合を殺すだけである。