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PSG戦での奇跡的な逆転劇からベスト8、準々決勝に駒を進めたバルセロナは、ファーストレグでユヴェントスのホームに乗り込んだ。しかし、その代償として中盤の底に位置するブスケツが累積で出場停止となり、アウェイで苦しい状況となっている。監督のルイス・エンリケは少し前から3バック気味のシステムを使用しており、右サイドバックのセルジ・ロベルトのポジショニングによって3バックと4バックのハイブリットのような形となっている。
ユヴェントスの右サイドバック、ダニエウ・アウベスは移籍してから初の古巣バルセロナとの対戦となる。特にマッチアップするネイマールは、ブラジル代表でもチームメイトの関係であり注目ポイントである。
このマッチアップと言えば、2年前を思い出す人も多いだろう。2014/15シーズンのチャンピオンズリーグ決勝で顔を合わせたのだが、共に1シーズン目だった指揮官のアッレグリとエンリケが集大成として再び戦うこととなった。すでに今シーズン限りでの退任を決めているエンリケと、去就はまだわからないもののアーセナルなどへの就任が噂されているアッレグリにとっては、どちらも有終の美を飾りたいものである。
2年前のチャンピオンズリーグ決勝、そして昨年のチャンピオンズリーグベスト16でのバイエルン戦での敗戦と、個人的には選手層の薄さに起因していたと思っているのだが、今シーズンはついにチャンピオンズリーグ優勝を目指せるだけの選手層の厚さを手にしたと感じている。筆者の中では実力ではバイエルンとユヴェントスが今シーズンの優勝候補である。
スターティングメンバー
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ブスケツが不在の中、エンリケはディフェンシブハーフにマスチェラーノを起用し、DFラインには左からマテュー、ウンティティ、ピケ、そして“偽サイドバック”のように振る舞うセルジ・ロベルトを並べた。
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— Serie A News (@TransfersCalcio) 2017年4月11日
“偽サイドバック”のセルジ・ロベルトとユヴェントスのワイドな攻撃
バルセロナはボール保持時には3バック、ボール非保持時には4バックというここ最近使っているシステムをこの試合でも使ってきた。右サイドバックのセルジ・ロベルトがポゼッション時になると中盤の位置でプレーする形は、ペップ・グアルディオラ体制のバイエルンでラームやアラバが行っていた役割を思い出させる。しかし、2つのポジションを同時にこなしながら、本来は中盤の選手であるのにも関わらずセンターフォワードタイプであるマンジュキッチと対峙する役割は、かなりの重労働であった。
“ネガティブトランジション”(ボール喪失、ボール保持からボール非保持への移行)の局面において、バルセロナは3バックとなる。センターバックの3人は横幅をカバーするのに苦労し、逆にユヴェントスはそこを突いて繰り返しワイドにボールを運んだ。バルセロナの右サイドが選手の移動によって不確実だったのにも関わらず、より危険だったのはいつも逆サイドであり、仕掛けることが得意な右ウイングのクアドラードと最も機動性に欠けるマテューとのマッチアップが狙われた。確かにユヴェントスの先制点は、クアドラードが右サイドでフリーとなり仕掛けたことがアシストとなり、ディバラが得意の左足でファーポストに流し込んだ。
マスチェラーノの両脇を狙ったディバラ
ディバラのバルセロナ戦タッチ集
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— CalciAmici Giappone™ (@CalciAmici) 2017年4月12日
ユヴェントスの追加点は基本的に先制点の鏡像だった。今回は左ウイングのマンジュキッチがワイドでボールを運び、マイナスのクロスに対して走り込んだディバラがDFラインと中盤の間にできた広大なスペースに走り込んで、再び左足でゴールへ流し込んだ。
実際、ユヴェントスは似たような形で何度かチャンスを生み出している。バルセロナは対策の準備不足だったと言えるだろう。
ディバラは2ゴールだけではなく、巧みな動き出しによってユヴェントスの攻撃を支えた。彼は10番の役割だったが、トップ下の中央の位置にいるよりも、マスチェラーノの両脇のスペースにずれてボールを引き出し、ウイングの選手とコンビネーションも見せた。
バルセロナのボール保持、ユヴェントスのボール非保持
ユヴェントスは立ち上がり、0-0の時はアタッキングサード(ゾーン3)からの積極的なハイプレッシングを見せていたが、5分くらいから徐々に撤退(リトリート)するようになり、ハーフウェイラインあたりをプレッシングの開始地点とする形へと切り替えた。特にリードしてからは、無理に前から行く必要がなくなった。特に左ウイングのマンジュキッチはかなり低い位置まで下がって守備に参加していた。ユヴェントスが撤退するにつれて、バルセロナはボールを保持できるようになったが、なかなかポゼッションからチャンスを生み出すことができなかった。
ビルドアップの局面において、ブスケツ不在の影響がありマスチェラーノが中盤の深い位置でパスのテンポを作ったりポジショニングでボール保持へなかなかうまく貢献できていなかった。また、普段は右インサイドハーフのラキティッチがワイドに開いて横幅の役割を担い、ウイングから解放されたメッシが中央へ移動してくるのだが、この試合の前半ではメッシがタッチライン際にポジショニングを取ることが多く、普段のように中央でチャンスを作り出せずアレックス・サンドロのマークにも苦しむ場面が多かった。左インサイドハーフのイニエスタはピャニッチによって消されてしまい、ネイマールもアウベスのマークに苦しんだが、アウベスはイエローカードをもらった後からはそれほど厳しい寄せは見せなかった。
センターフォワードのイグアインはピケとウンティティを見るポジショニングを取り、すなわちバルセロナにとって唯一フリーな選手はマテューだった。しかし、バルセロナの選手はボール保持時にあまりマテューを使おうとはしていなかった。
メッシの創造性
このパスの恐ろしさや。狙いは対峙してるケディラじゃなくて、横のパスの直線上にいるピアニッチの頭上じゃなくて股だからね。それでアウヴェスの裏取る訳だから。これで3人手玉に取ってるのと、シュートまでイメージと処理能力がもう理解不能。
— ジュニオール最下層 (@yohei4) 2017年4月12日
ピッチの中央でプレーするようになったメッシは、2つの決定機を作り出した。中央に切り込み、DFラインの裏に抜け出したイニエスタへ素晴らしいスルーパスを送った。それまで中盤からフォワードを追い越す動き出しはほとんど見られなかったのだが、ネイマールの動き出しの対応に苦慮していたアウベスにさらにもう1人現れて掴み切れなかった。この決定機を決めきれなかったことが、ユヴェントスの2点目によって大きな代償となった。メッシは後半にもスアレスにチャンスを演出している。
ハーフタイムでのバルセロナの変更
エンリケはマテューに代えてアンドレ・ゴメスを投入し、マスチェラーノをDFラインに降ろしてウンティティを左サイドへ移した。アンドレ・ゴメスをディフェンシブハーフに配置することで、中盤でのパスの質を向上させ、さらに左サイドバックの攻撃の質も改善した。またセルジ・ロベルトは右サイドから大きく離れることはなくなった。しかしどちらも試合を大きく改善するには至らず、影響はあまりなかった。
その後ユヴェントスはコーナーキックからキエッリーニがダメ押しの3点目のヘディングシュートを決めた。バルセロナは身長差で負けており問題を露呈していたのだが、ミスマッチから失点してしまった。
バルセロナはボールを支配しており何度かチャンスを作ったが、ユヴェントスは交代を効果的に使いながら試合を終わらせた。
期待点(ExpG)とパスマップ
by @11tegen11
期待点(ExpG)では0.92-1.28と若干バルセロナが上回っており、ユヴェントスは幸運であった。特にユヴェントスの2点目の直前のバルセロナのシュートは、前述のメッシからのスルーパスをイニエスタが抜け出して打ったものであり、タラレバを口にするのは憚れるがバルセロナにとっては不運だった。
by @11tegen11
次にパスマップであるが、ユヴェントスのドットは小さくバルセロナのドットは大きいので、バルセロナがボールを保持する時間が長かったことがわかる。またバルセロナは中盤でのパス交換があまり多くなく、ユヴェントスの守備ブロックの外側でのパスに終始していたと言える。
なお、何人かの選手についている星印は新たに生まれた“期待関与”(ExpGChain)と呼ばれる指標で、チームのトップ3の選手に割り当てられている。“期待関与”(ExpGChain)とは、“期待点”(ExpG)をアシストした選手やその前のパスを出した選手など一連の攻撃に関与した選手に割り当て、ビルドアップなど攻撃全体への各選手の関与を評価したものである。
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— ぱこぱこ・へめす (@tenchan433) 2017年4月12日
まとめ:セカンドレグの展望
アッレグリはしっかりとバルセロナ対策を練ってきており、プレッシングやサイド攻撃が見事にはまった。セカンドレグの注目ポイントは、バルセロナがPSG戦の再現をできるのかということである。ただ、PSGはカンプ・ノウでのバルセロナに対して必要以上に警戒してしまい、かなり深い位置にブロックを組んでしまった。しかしユヴェントスは同じ過ちを繰り返さないだろうし世界最高のDFラインを持っているので、バルセロナにとっては厳しい戦いとなるだろう。