J2参入10周年『挑戦 Challenge』FC岐阜の集客アップ大作戦の全容に迫る。
FC岐阜は本気だ。元日本代表コーチの大木武氏を新監督に招へいし、新たに13人の選手が加わった。様変わりした陣容に期するファン、サポーターも多いことだろう。2年連続で20位(22位中)薄氷を履む思いで凌ぎを削ってきた近年の残留争いに終止符を打つ。
今季、FC岐阜はJ2参入10周年を迎えた。「このメモリアルイヤーを是が非でも一桁の順位へ導きたい。」宮田博之社長をはじめクラブ関係者の士気は高い。「我々の仕事は満員のスタンドを作ること。」チームの躍進を後押しするようにホーム長良川競技場の観客動員は右肩上がりに増加の一途を辿っている。
リーグ折り返し時点でホームゲーム1試合平均6929人の動員を記録。昨季と比較すると1267人と大きく増加している。ラモス氏を監督に迎えた2014年に記録した年間観客動員159259人(1試合平均7584人)に迫る勢いを維持している。
今回のインタビューでは株式会社岐阜フットボールクラブ社長宮田博之氏と事業企画チームリーダーの花房信輔氏にも加わっていただき「挑戦 Challenge」をスローガンに、J2参入10周年を猛進するFC岐阜の集客アップ大作戦の全容に迫る。
FC岐阜 J2参入10周年にかける意気込み
(宮田)これまでの9年間、チームは常に下位を彷徨ってきました。降格がかかる瀬戸際の試合もいくつも経験してきました。「FC岐阜は好きだけど、いい加減もうちょっと浮上してよ」「良い時もあれば悪い時もある山谷はわかるけど、山がないよね」といったお客様からの厳しい声をよく耳にします。これでは応援してくださるみなさんに申し訳ない。
かつては個が際立つ人材を獲得してきましたが、中々成果に結びつかなかった。私はサッカーはチームプレーだと思っています。先ずは勝てるチームしっかり構築して、この10周年を一桁の順位へ導きたい。そのための人選を行いました。今季から迎え入れた大木武監督も私の考えに同調してくれました。90分間しっかりと戦えるチーム作りをする、お客さんをワクワクさせて、また来たいと思ってもらえるような試合展開をしていきたいと仰って頂きました。経験豊富で世界の舞台も経験している、青少年の育成にも携わってきた手腕に大いに期待しています。
チームのことは大木監督に任せて、我々の取り組むべき仕事は観客をいかに動員するかということ。昨季、瀬戸際の残留争いの中、ホームで3連戦を迎えました。それまでホームでは18試合中3勝しかしていなかったので、これまでの勝率を考えれば、残り3試合の中で1勝もできないかもしれない。その状況下においても我々の役割は観客を動員することに他ならない。残り3試合10000人ずつの動員を目指そうと私は言いました。
ところが初戦は3920人に留まってしまった。その時私が言ったのは、「10000人動員という約束は果たせなかったけど、来てくれたお客様に感謝して欲しい、喜んでもらえるように頑張って欲しい」と。なんとか無事に初戦に勝つことができました。その後、2戦目は9060人、3戦目は12158人を動員することができ選手を後押しすることができた。その結果チームは3連勝を果たし自力で残留ができました。その時私は確信しました。選手の活躍を後押しするためには、やはり観客のパワーが必要であると。
エンターテイメント性の飽くなき追求
——観客動員を増やすために具体的にどのような取り組みを実施されているのでしょうか。
(宮田)我々の強みは、岐阜県42市町村全てが株主でありスポンサーであるということ。これだけの条件が揃っているのはJクラブの中でおそらく我々だけではないでしょうか。リーグ戦はホーム開催が21試合ですので、各試合平均2市町村でホームゲームのイベントを受け持って頂き、あらかじめ予定を組んでインターネットを中心に早めの告知をします。各市町村のお祭りを絡めたイベントを企画し、屋台村17店舗のメニューを安く美味しく楽しんでもらえるように随時工夫しています。
Jリーグ全体の観客は家族連れが半分を占めているというデータがありますが、それと比べるとFC岐阜は6割に上ることが判りました。この数字はJリーグ全体の6番目に位置しております。それだけ家族の方々に喜んで頂いているということです。
その理由は幾つか挙げられますが、まずサッカー観戦はスケジュールが立ちやすいということ。試合前の2時間を楽しめて、その後、約2時間試合に集中して、往き来を合わせると半日楽しめます。もう一つは安いということです。岐阜には家族連れで訪れる場所は少ない、行楽地へ出掛ける人もいますが、多くの人たちは大型ショッピングモールで過ごしますが結構お金も掛かります。
ショッピングモールにはありとあらゆる人たちが混在していますが、スタジアムに訪れるか人は同じ価値観を持っている人が多い。そういった面でも触れ合いが多いとも言えます。我々がイベントに力を入れている所以はここにあります。そして最近ではグッズにも力を注いでいますし、7月に発表した新マスコット『ギッフイー』が10月にはホームゲームや各種イベントに登場します。それまでにグッズを通して期待を高めていただき、試合を盛り上げていきたいと考えています。
観客動員数はおかげさまで増えていますが、Jリーグの統計を見ていますと平均5000人、6000人台の次は10000人と、なぜかそこには大きな開きがあります。我々が目指すところは10000人台です。できるだけ早くそこに到達させたいですね。
——今シーズンは既に10000人越えの観客動員が2試合ありますが、シーズン半ばにおいて10000人に到達したのは、やはりイベント企画やプロモーションと関係があるのでしょうか。
(宮田)もちろんそこは大きく影響していると思いますが、まずはチームが変わったこと、それに伴う期待の表れだと感じています。もうひとつは新人が活躍していることが影響しています。今季新人は4名いますがうち2人がレギュラーとして活躍しています。大木監督を中心にした若い選手が育つ環境があること、これはサポーターにとっても応援しがいがあるチームに感じてもらえるのではないでしょうか。
楽しい!を伝播させる方法
——先ほど市町村は株主でもあると仰っていましたが、それぞれが当事者意識を持って取り組んでいる、それはもはや株主だからと理由ではないような気がします。どのようにして市町村の方々を巻き込んでいったのでしょうか。
(花房事業企画チームリーダー)先ずは楽しむことですね、市町村の方々自らが楽しんで頂くことが大切だと思います。新しい取り組みですので、はじめこそ抵抗感が窺えましたが、少しずつ積み重ねていくうちに、もうちょっと上行きたいよねという具合に盛り上がってくれる。市町村に限らず各企業様や学校、自衛隊の方々の協力も得られるようになってきました。
他にも対戦相手との共同企画も考えています。ツエーゲン金沢さんとの対戦を「白山ダービー」名古屋グランパスさんとは「名岐ダービー」ザスパクサツ群馬とは「三名泉ダービー」など話題づくり企画することでお互いのスタジアムにお客さんを送りこめるような工夫を考えています。
——これはJ2ならでは企画ですね。
(宮田)サッカーの伝統なのかどうかは分かりませんが、ホームチームの選手紹介は大々的に行って、相手チームは文字だけ映し出してあっさりと終わってしまう。一般的にはこれが当たり前のようですが、私はサッカー出身者ではないので、そこに違和感を覚えています。せっかく来ていただいているのですから、大型ビジョンを解放していいのではないかと考えています。
(花房)白山ダービーでは、大型ビジョンを使って試合を盛り上げようという企画を実施しました。ツエーゲン金沢のスタジアムDJを招いて選手コールを行い、FC岐阜には、#白山ダービー緑に染めろ ツエーゲン金沢には#白山ダービー赤に染めろ といった具合にツイート数で競い合う企画など様々な観点から楽しめる工夫をしています。
——SNSの活用は意識されているのでしょうか。
(花房)ツイッターは現在20000フォロワーを超えました。これまでのメディアは印刷物やテレビやラジオなど発信ツールは色々ありましたが、年々、SNSを中心にインターネットを閲覧している時間が劇的に増えています。それに伴い当然、重要性は高まります。
——今年からサッカー中継はこれまでのテレビ放送ではなくDAZN(動画配信)で配信されていますが、確実にSNS活用の追い風になっていますよね?
(花房)はい。確実ですね。今はやはりウェブの時代だと思います。ユーチューブでもDAZNのハイライトを流していますが、平均10000ビューほどありますし、5年くらい前でしたら1000もいってなかった記憶があります。それだけ世の中も変わってきていますので、最優先事項だと自覚していますね。
——サポーターのみなさんと関係性を築くためにSNSの活用にどのような工夫をしていますか。
(花房)僕は担当ではありませんが、僕が見ている限り、フレンドリーな姿勢で積極的に交流していますね。〇〇選手ではなくニックネームで呼んでいますし、選手がご飯を食べに行っていたら、それを美味しそうだなぁという具合にリプライする。堅苦しくなくどなたでも気軽に絡んでもらえるような雰囲気作りをしている印象があります。
(宮田)サポーターさんとは年に2回会合の場を設けています。たくさん意見を頂戴できますし、こちらからもお伝えすることができます。できるだけ多くのコミュニケーションを取るように心掛けています。
——最後に宮田社長からサポーターのみなさんにメッセージをお願いします。
サポーターのみなさんには本当に頭が下がります。こんなに素晴らしい人はいない。全国津々浦々何処にでも来ていただけるし、人数は少なくとも声で頑張ってくれています。今はまだ我々とサポーターには距離感がありますが、もっと近い関係になっていきたい。お互いにもっと楽しめる雰囲気を作っていきたいと思います。サポーターのみなさんには感謝しかないですね。
——本日はお忙しい中ありがとうございました。
今回のインタビュアー勝村大輔氏のサイトでインタビュー後記を掲載しておりますので、そちらもご閲覧くださいませ。