リヴァプールvsマンチェスター・シティ 期待点、プレミアリーグの戦術トレンド、グアルディオラの将来

2016年の大晦日、土曜日の夜にクロップ監督率いるリヴァプールはグアルディオラ監督率いるマンチェスター・シティをホームに迎えました。ドイツでしのぎを削ってきた両指揮官のイングランドでの再戦を多くの人たちが待ち望んでいました。首位を走るチェルシーを追う両チームの直接対決を見ていきましょう。

スターティングメンバー


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リヴァプール


by サッカー フォーメーション 2016-2017

マンチェスター・シティ


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期待点とパスマップ

日本ではまだ広まっていない試合分析の方法として期待点というものがあります。例えばこのリヴァプール対マンチェスター・シティの試合では、シュート本数は5対9でした。しかしその全てのシュートが同じ価値を持っているわけではありません。どの位置からどんな状況でシュートを打ったのか、それらの質的データを考慮すればより良い分析をすることができます。この試合では0.31対0.47と両チームともに比較的少ない期待点となりました。0対0が妥当と言え、わずかながらシティが高い期待点を出したことがわかります。ただシティはペナルティーエリア内からのシュートが2本のみであり、どちらも少し外側からのシュートとなったのが低い期待点に繋がっています。一方のリヴァプールは後半の長い間シュートを打てない時間帯が続いています。

次にパスマップを見ると、リヴァプールは左サイドでのパス交換が多く見られ、両サイドバックからのパスが多いことがわかります。そして後方からのビルドアップはあまり行われませんでした。一方のシティは、後方でのポゼッションやサイドからのボール前進は見られたものの、中央のシルバやデ・ブライネ、前線のアグエロへはなかなかボールを配給できなかったことがわかります。

マンチェスター・シティの立ち上がりの失点

7分、ワイナルドゥムの得点によりリヴァプールが早々に先制します。シティは前半立ち上がり早々やハーフタイム直後に失点してしまう試合があり、試合の展開を難しくしてしまいます。リヴァプールの前指揮官であるロジャース率いるスコットランドのセルティックと対戦した時や、昨シーズン王者のレスターとの試合、また逆転勝利できたもののアーセナル戦も立ち上がりに失点してしまいました。鹿島アントラーズの伝統的な“勝負強さ”が最近話題になりましたが、シティは近年巨額の投資により力をつけたチームであり、2013/14シーズンにプレミアリーグ優勝を果たすもヨーロッパでは結果を残せず、勝負弱さを見せてしまっています。そういった意味でこれまでバルセロナやバイエルンと歴史があり結果を出し続けてきたビッグクラブを率いてきたグアルディオラ監督の就任でどうなるのかが注目です。

グアルディオラがターゲットとしたのはハーフスペース

マンチェスター・シティはポゼッション時にサバレタのポジショニングによる可変式システムを採用してきました。時には3バックの右センターバックとして、時には右サイドバックとしてプレーしました。左サイドでは左サイドバックのコラロフが高い位置を取って横幅の役割を担い、左ウイングのシルバが中へ入って左ハーフスペーススクエア(ハーフスペースかつライン間のエリア、以下参照)でプレー。右サイドでは右ウイングのスターリングが横幅の役割を担い、低い位置にはサバレタ、右ハーフスペーススクエアにはトップ下のデ・ブライネがプレーしました。シルバとデ・ブライネがハーフスペースを自由に動き回ることができ、これがグアルディオラ監督のプランの重要なカギとなりました。クロップ監督の守備戦略としては、ヘンダーソンが唯一の守備的ミッドフィールダーとしてプレーしており、ヘンダーソンの両脇のスペースを使って中盤のラインを越えて前進するオプションを作り出すことを目指していました。

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代わりに、リヴァプールがハーフスペースを守備するためにより低い位置でプレーしていたならば、フェルナンジーニョとトゥーレはより多くのスペースを得ることができたでしょう。3バックという選択は、数的同数による不安定なビルドアップに繋がるため、リヴァプールの3トップに対して反直感的に感じるかもしれません。しかしながら、これはインサイドハーフのジャンとワイナルドゥムに連動してのハイプレッシングを促すこととなり、ヘンダーソンが孤立して周囲のスペースが空きシルバとデ・ブライネが圧倒できると考えました。

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リヴァプールの守備ブロックとコントロール

リヴァプールはいつもの通り、非ポゼッション時に強度の高いコンパクトな4‐3‐3の陣形を敷きました。フィルミーノがまずプレッシングを仕掛けてボールをサイドへ促し、シティのボール循環の選択肢を減らすためにDFラインを通じて逆サイドに展開されないようにします。両ウイングであるララーナとマネは、ハーフスペースをさらにブロックするために、通常よりも内側にポジショニングしていました。インサイドハーフのジャンとワイナルドゥムは中盤のフェルナンジーニョとトゥーレに対してかなりマンマーク気味に守備をし、シティに外へのボール循環を促し中央へボールを配給できないようにしました。ヘンダーソンは中盤をコントロールするためにインサイドハーフのペアの後方にとどまり、中盤のラインを突破された時にすぐにカバーリングできるようにボールサイドの10番の選手、すなわちシルバとデ・ブライネのどちらかに近づいて対応していました。この時の問題点は、リヴァプールの逆サイドのインサイドハーフがあまりにもマークしている相手に付いていってしまうと、ヘンダーソンが孤立してしまい、逆サイドのハーフスペースが空いてしまうということです。試合の立ち上がりの段階では、ジャンとワイナルドゥムによるマンマークでの守備によってシティはリヴァプールのプレッシングを対角線に回避することができました。


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上図はシティが狙い通りにプレッシングを回避できた場面です。しかしながら、これはとてもレアで、前半のほとんどの間、リヴァプールはボールが守備ブロックの中に通されないようにするために、強固なブロックを形成してシティのボール循環をうまくコントロールしました。ストーンズが中央でボールを持った時、ララーナとマネはそれぞれハーフスペーススクエアに位置するシルバとデ・ブライネへのパスをブロックするために少し内側に絞ってパスコースを消しました。


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ララーナとマネは常にパスコースを直接塞いでいるわけではありませんでしたが、彼らはいくつかの方法でこれらのパスを防ぐのに効果的でした。まず、より低い位置に下がって内側に絞ることによってパスコースをできるだけ狭めることができ、パスをインターセプトできる可能性が高まります。さらに、彼らの絞り込む動きは、相手が縦パスにチャレンジした場合同じ方向に移動し続けるだけで済むため、パスをインターセプトするのがより簡単になります。この動きは、一時的にサバレタやオタメンディへのプレッシングがかからないことを意味しますが、シティの両脇のセンターバックがボールを受け取ると、彼らはプレスに前進します。この動きと相手への接近により、彼らはより大きな“背後のカバーリング”を与えられ、つまり、彼らが空けたばかりのスペースへのパスを同時に防げることを意味します。

この優れた守備コントロールは、時には明らかに不正確で、あるいはタイミングの悪いより直接的なロングボールを促されオフサイドの餌食となりました。

マンチェスター・シティのハーフスペースへのボールの配給

前半終了が近づくにつれて、マンチェスター・シティは、特に左サイドで徐々にハーフスペースを突破できるようになっていき、これにはいくつかの要因がありました。1、2回はリヴァプールがまだ守備の陣形に移行している途中で一時的にパスコースをブロックするコンパクトさに欠けており、トランジションを利用することができました。いくつかの機会に、特にマネの守備の対応の悪さを利用することができました。ボールを基準とした以降中には、ミッドフィールダーはこの移動を視線を配りながら調整することがしばしば要求され、パスコースを遮るポジショニングをし、ボール保持者の視野を確認して次のプレーを把握しなければなりません。これはもちろん、達成するのはかなり複雑な作業です。従って、移動の後にマネのミスが発生したことは驚くことではありません。このような状況では、マネは彼の背後の状況を確認することができなかったため、以前のようにシルバへのパスコースをブロックしたり限定したりするためにポジショニングを調整できませんでした。ワイドな位置にダイナミックに移動するのに加えて、マネは中央へ絞り込んで、反応しパスをインターセプトするのにより時間がかかってしまうことを意味します。

シティーのプレッシング回避を助長したもう一つの要因は、シルバとデ・ブライネへの対角線のパスコースをブロックされないように、中盤のペアからのポジショニングを改善したことでした。シティはリヴァプールの中盤のラインラインを越えてますますボールを前進することができましたが、シティはリヴァプールのゴールに向かって直接前進していくための深さに欠けていました。しかしながら、それによってシティはリバプールをより低い位置に押し下げてより高い位置から攻撃することができるようになりました。これらのチャンスの多くは、テクニックのミスによって浪費され、シティは攻撃に時間をかけてしまいました。

クオリティーが低かった後半

後半のほとんどの間、リヴァプールはシティのハイプレッシングを誘導し、シティの中盤の後ろのスペースを利用してセカンドボールを回収することで、ディフェンスの圧力を軽減することができました。この方法で、リヴァプールは試合をコントロールし、シティにリードを脅かされないように、シティの陣内でボール保持を維持できるような基礎を作りました。しかしながら、何度かシティの中盤のハイプレッシングによってボールを失い、トランジションでシティにゴールを脅かされるチャンスを与えてしまいました。後半はコンスタントにトランジションが発生したため、リヴァプールはカウンターアタックでリードを2倍にするチャンスが何度もありました。意思決定とプレーの実行の質の低さは、得点だけでなく、良いポジションから実際にシュートへ繋げられなかったことが裏にありました。これは潜在的に、イングランド特有の年末年始の過密スケジュールによりリカバリーのための時間がほとんどない疲労の蓄積の結果であり、リーグトップ3に位置する2チームが低クオリティーな後半を演じたという点が明らかにしています。

まとめ

リヴァプールの素晴らしい守備でのコントロールにより試合の大半を支配することができ、ボール保持時の一貫性によりリヴァプールが勝利を収めることができました。さらに、この結果によりリヴァプールはトップ6との対戦で3勝2敗で無敗のままであり、優勝候補の一角であることを強く示しています。リヴァプールとのアウェイでの負けは恥ずべきことではなく、彼らのインテンシティを上回ることは非常に難しいです。狙っていたスペースにボールを前進できず、危険なエリアでの攻撃を維持できなかったことは、リヴァプールのゴールを脅かすことができなかったシティの敗北の原因でしょう。グアルディオラ監督がシティをレベルアップさせてくれることが期待できますが、シティのファンはリーグタイトルを手にするために手遅れにならないことを期待しています。

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プレミアリーグの戦術トレンド

さて、マイケル・コックス(Micheal Cox)氏によると、ペップ・グアルディオラ(マンチェスター・シティ)、ジョゼ・モウリーニョ(マンチェスター・ユナイテッド)、ユルゲン・クロップ(リヴァプール)、アントニオ・コンテ(チェルシー)など世界でも有数の戦術的特徴を持った指揮官が終結した2016/17シーズンのプレミアリーグの戦術的なトレンドとして以下の5点を指摘しています。

1. プレッシング(Pressing)
2. 偽9番(False Nines)
3. 3バック(Three-Man Defences)
4. セットプレーからのゴール(Set-piece Goals)
5. フリーロールの減少(Fewer Free Roles)

グアルディオラがバルセロナの監督に就任して見せた美しいサッカーにより、世界中でボール保持時のポゼッションに注目が集まりました。そんな中ドルトムントを指揮していたクロップは、ペップバルサのネガティブトランジション、すなわちボールロスト時にすぐにプレッシングをかけてボールを奪い返すという部分の戦術に着目し、カウンタープレッシング(Counter-Pressing、またはゲーゲンプレッシング)という戦術を編み出しました。香川真司選手がドルトムントに加入したことでゲーゲンプレスという言葉は日本でもかなり広まっていると言えるでしょう。またサウサンプトンや現在はトッテナムを率いるポチェッティーノ監督もハイプレッシング戦術で有名であり、現セビージャ指揮官のサンパオリ監督と並び次期バルセロナ監督の候補に挙がっていると言われています。

またペップバルサによって再び有名になった偽9番戦術ですが、今シーズンのプレミアリーグではリヴァプールのフィルミーノやアーセナルのサンチェスを始め、グアルディオラもシティで時々デ・ブライネやノリートを偽9番として起用しています。

今シーズンからチェルシーを率いるコンテ監督は、もともとユヴェントスやイタリア代表で使っていた3-5-2とは異なるものの、シーズン途中から3-4-3システムに変更して以降素晴らしい成績を維持しリーグ首位を走っています。チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグがなくトレーニングの時間を十分にとれているのも要因でしょう。その他トッテナムやエヴァ—トンも3バックにチャレンジしています。またマンチェスター・シティは3バックによるビルドアップを見せ相手ボール時には4バックという形が多いのですが、相手ボールの時にも3バックのままという形も何度か見せています。

グアルディオラの将来

ここ10年ほど監督として世界のサッカーを牽引してきたペップ・グアルディオラ監督ですが、最近のインタビューでキャリアの終わりを示唆してします。もともとバルセロナのスポーツディレクターになる予定がありながら結局バルセロナBの監督に就任した経緯があり、育成年代での指導にも興味を持っているグアルディオラの将来はどうなるのでしょうか。

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