クラブW杯で来日のレアル・マドリーGKケイラー・ナバス~逆境に強いコスタリカの英雄の成功物語

 12月8日の木曜日から開幕したFIFAクラブW杯。昨年に引き続き、今年も日本でクラブ世界一を決める国際大会が行われています。開幕戦では、開催国王者である今季のJ1王者=鹿島アントラーズが、6年連続8回目の出場でこの大会でお馴染みとなっているセミプロ集団のオセアニア王者=オークランド・シティに先制され、大失態の予感が漂いましたが、終盤に逆転に成功して事なきを得ました。

 そして、15日の準決勝・クラブ・アメリカ戦からいよいよ、欧州王者のレアル・マドリーが登場します。

 レアル・マドリーと言えばウェールズ代表FWギャレス・ベイル選手が怪我で今大会を欠場しますが、フランス代表FWカリム・ベンゼマ選手、ポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウド選手の頭文字を合わせた「BBC」。今季はそのBBCが3選手共に負傷や不調に苦しむ期間が多いため、彼等に替わって出番を得て活躍しているスペイン人トリオの「AML」(マルコ・アセンシオ、アルバロ・モラタ、ルーカス・バスケス選手の頭文字)など、前線のトリデンテ(3人)に注目が集まります。

 しかし、『世界最高クラブ』である事を自負するレアル・マドリーにとっては今大会で対戦するどの大陸王者が相手でも、彼等からは圧倒的に「格下」にカテゴライズされる対戦ばかり。そんな相手に失態を演じないために重要なのは失点をしないこと。どんなに格差のある試合でも、相手に自陣深くまで引かれ、「引いた相手を崩せず」に得点ができない時間が続くのは、サッカーの世界では想定内。それでも何とか失点だけは回避していれば取りこぼしは防げるはず。

 決して守備組織が徹底されてはいないレアル・マドリーですが、相手のカウンター時にDF陣が後手を踏むような逆境にあっても強く、PKにも強いGKがいるのは心強いはず。

 当コラムでは地味ながら、そんなピッチ内外での逆境に強い守護神のサクセスストーリーをお届けします。

レアル加入前に3年間所属したレバンテ時代も、最初の約2シーズンは控えだった遅咲きのGKナバス。by Bleacher Report

遅咲きの守護神ケイラー・ナバス~与えられた機会を掴んだ下積み時代

 現在はレアル・マドリーで不動の守護神となったコスタリカ代表GKケイラー・ナバス選手。実は現行フォーマットでの初のクラブW杯となった2005年大会にも、北中米カリブ代表のデポルティーボ・サプリサ(コスタリカ)の一員として来日経験があります。

 当時は控えGKとして北中米カリブ王者となったナバス選手は、徐々にサプリサでも出番を増やし、23歳となった2010年の夏にスペイン2部のアルバセーテへと移籍して欧州デビュー。初年度から定位置を掴んだものの、チームは3部リーグへ降格。それでもGKとしての実力は高く評価されていた彼は、スペイン1部リーグのレバンテへと引き抜かれました。

 しかし、さすがにトップリーグの壁は高く、完全な控え扱い。加入初年度の最終節に1部デビューを完封で飾り、クラブ史上初の欧州カップ戦出場権となるリーグ6位に少しだけ貢献しましたが、堅守速攻のお手本のようなチームのゴールを守るウルグアイ代表のベテランGKグスタボ・ムヌア選手(2015年に引退)のバックアップの域を出ませんでした。

 ただ、それでもこの実力派コスタリカ人GKの能力は高く認められており、加入2年目はカップ戦で出番を獲得。特にクラブ史上初の参戦となったUEFAヨーロッパカップで予選から本戦まで全12試合のゴールマウスを守って7失点。チームをベスト16進出に導く大活躍を披露しました。

 与えられたチャンスを掴んで離さなかったケイラー・ナバス選手は、そのシーズン終盤からリーグ戦でも主力に定着。当時26歳とGKとしても完全に遅咲きですが、いよいよ表舞台でも抜きん出た活躍を披露し始めました。

レバンテで「リーガベストGK」&コスタリカのブラジルW杯ベスト8躍進も・・・

このギリシャ戦のPK戦での完璧なセーブなど、ブラジルW杯で最大のサプライズを起こしたコスタリカのベスト8躍進に大きく貢献。by Keylor Navas

 リーガ1部で華々しい活躍を始めたのは、FIFAブラジルW杯が迫った2013-2014シーズンから。先輩GKムヌア選手が退団し、前のシーズン終盤から急激に存在価値を証明し始めた彼は完全にレギュラーを勝ち取っただけでなく、「リーガ最多の160セーブ」と「リーガ最高セーブ率80.1%」を記録。異論なく、リーガ選出の『ベストGK』を受賞する驚異的な活躍を披露しました。

 ただ、この頃はレアル・マドリーでスペイン代表の正GKであり、クラブでも代表でも主将を務めるイケル・カシージャス選手(現・ポルト/ポルトガル)とディエゴ・ロペス選手(現・エスパニョール)のポジション争いが勃発。実力だけでなく、ピッチ外の言動も含めたこの特大トピックが前後2シーズンほど続いていました。また、同時期にはUEFAチャンピオンズリーグ決勝へ進出したアトレティコ・マドリーのGKテュボ・クルトワ選手(現・チェルシー)がさらなる成長を見せる中でレンタル元のチェルシー復帰を含めた去就が騒がれており、バルセロナではそれまで約10年も正GKを務めたスペイン代表GKヴィクトル・バルデス選手(現・ミドルスブラ/イングランド)が契約延長を拒否したまま、シーズン終盤に大怪我で長期離脱。GKに関する話題がこの上なく多かったため、実はその喧騒の中で最も高いパフォーマンスを披露していたケイラー・ナバス選手にスポットライトが充たる事は少なかったのです。

 それでも彼はシーズン終了後に開催されたブラジルW杯で再び大きな輝きを放ちます。ケイラー・ナバス選手擁するコスタリカは、ウルグアイ・イタリア・イングランドと史上初めて「W杯優勝経験国」が3カ国も同じ組に入るという「死の組」に入り、戦力と実績で圧倒的に劣るコスタリカは惨敗が予想されていました。

 しかし、初戦でウルグアイを3-1と逆転で下すと、イタリアにも1-0で勝利し、なんと1試合を残して「死の組」の突破を決定。イングランド相手にも0-0を演じて首位通過を決めると、ラウンド16ではギリシャ相手に退場者を出しながら1-1で耐え凌ぎ、PK戦で彼の完璧なセーブによりコスタリカ史上初のベスト8進出に大きく貢献。

 準々決勝でも強豪オランダを相手にスコアレスを演じ、ここではPK戦で1本も防げずに敗退。実はこのオランダ戦の途中で膝を負傷した影響が出たのかもしれません。それでも大会通算5試合で2失点(1つはPK)に抑えた上で、この敗れたオランダ戦を含めて大会3試合でマン・オブ・ザ・マッチに選出。そして、OPTA社集計のセーブ率でも91%(被枠内シュート23本中21本セーブ)という驚異的な数字を叩き出しました(下記、大会ベスト5参照)。

 しかし、ここでもぺナルティエリア外でもフィールド選手並みの驚異的なプレーを披露した優勝国ドイツの守護神GKマヌエル・ノイアー選手が「ベストGK」に選出され、「新時代のGK像」と称されるノイアー選手の影で、彼は成し遂げた功績に見合う称賛を浴びてはいませんでした。

2014年ブラジルW杯 GKセーブ率トップ5

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レアル加入後も実力に関わらず「2番手」「トレード要員」

レアル加入時は背番号も13で実力以外の部分で2番手に甘んじたナバス(右)。by Real Madrid

 それでもブラジルW杯直後、ケイラー・ナバス選手はレバンテの格では収まらないGKとなり、国内外の強豪クラブからのオファーが殺到。

 結局、「W杯で活躍した選手を必ず欲しがる」と有名なレアル・マドリーのフロレンティーノ・ぺレス会長が獲得を決め、この『世界最高クラブ』に加入しました。

 しかし、ここでも「政治力」を持たない彼はおそらく実力とは関係なく、衰えが顕著なカシージャス選手の「2番手」となりました。

 極め付けは加入初年度のオフに、フロントはその主力だったはずのカシージャス選手を戦力外のような形で退団させた上で、マンチェスター・ユナイテッドのスペイン代表GKダビド・デ・ヘア選手の獲得に動き、さらにその獲得条件に、「ケイター・ナバスをトレード要員にする」となっていた事が公となった事。

 さらに悪い事に、そのデ・ヘア獲得オペレーションは移籍市場最終日の「ファックスの不備」により失敗に終わると、「永遠の2番手」扱いで、「トレード要員」と、フロントからは全く期待されていなかったはずのケイラー・ナバス選手は一転してチームに残留することに。
 

ピッチ内外の逆境に強いコスタリカ人GKが『世界一』へ導く成功物語

「トレード要員」からチームに残留し、CL優勝の原動力となったナバスがビッグイヤーを掲げる。そして、日本では『世界一』の称号を掴む!by ZIMBIO

 しかし、このピッチ内外での逆境に耐えた彼は、背番号「1」を身に着け、幾度もの想定外の末にレアル・マドリーのゴールマウスを守る事に。ここでも与えれたチャンスを絶対に逃さなかった実力派のコスタリカ人GKは、シーズン途中に監督交代も起きた苦難の中、最終的にはチャンピオンズリーグでも優勝を勝ち取りました。

 昨季リーグ戦で34試合に出場してPKを3本セーブするなど相変わらずのPKストッパーぶりも健在。チャンピオンズリーグでは11試合に出場して僅かに3失点に抑えました。決勝でもPKでの勝利と、決して順風満帆なまま決勝に辿りついたわけではないチームが優勝できたのは、出場11試合中9試合を完封してきた「完封率8割超」のコスタリカ人GKの大活躍があったからこそです。

 この大活躍により、シーズン前には「永遠の2番手」で「トレード要員」となっていたはずの彼は、欧州王者に至る原動力となり、『世界最高クラブ』レアル・マドリーで絶対的な地位を確立しました。それでもフロントは未だにデ・ヘア選手の獲得を狙っているのかもしれませんが、現在のチームにはこのクラブ史上初のコスタリカ人選手が必要不可欠です。

 レバンテやコスタリカ代表で常に相手チームから攻撃を受ける側だった彼は、圧倒的に攻撃する側のレアル・マドリーでも、その逆境の強さや謙虚な姿勢を失ってはいません。

 185cm78kgと欧州では大柄ではない体格ながら、中距離でも近距離でも凄まじい反射神経で神憑り的セーブを見せ、1対1やPKにも強い。それだけでなく、彼はブラジルW杯でのコスタリカが5試合で相手に41回の驚異的な数字のオフサイドを記録させたように、DF陣とも連携できる構成力も持つ現代型のGKです。

 クラブW杯では格下チームとの戦いが待つレアル・マドリー。PKにも強く、まさかの番狂わせが起きる確率を減らしているこのコスタリカ人GKが、世界一の座へ導くサクセス・ストーリーを見届けましょう!

 最後に下積み時代となるレバンテ所属時の彼の特訓メニューも有名なため、こちらをご覧ください。偉大なGKに成長する理由がここにあるはずです!!


下積みとなるレバンテ時代の特訓メニュー

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