低迷する名門、ジェフ千葉のエスナイデル新監督~現役時代はリーガ屈指のエレガントなFWだった指揮官への期待

 今季の明治安田生命J2リーグで11位に終わり、7年連続のJ1昇格は叶わず。来季でJ1からの降格後、J2では8年目を迎える事になったジェフユナイテッド市原・千葉。J2・11位という成績はJリーグ創設後最低順位。さらにJ2降格後初めて二桁順位となり、得失点差も初めてマイナスに終わりました。

 そんな千葉が来季からの新監督として、ファン・エスナイデル氏の招聘を発表。すでに就任会見も開かれました。2011年のドワイト・ローデヴェーへス監督以来、クラブにとっては6年ぶりの外国籍監督の招聘です。

by ジェフユナイテッド市原・千葉

過度のチーム刷新、J発足後最低の成績だった2016年

 2016年シーズンに挑むに辺り、クラブは2011年にヴィッセル神戸で29歳にしてチーム統括本部長に就任した高橋悠太氏をゼネラル・マネージャーとして招き、すっかりJ2が定位置となってしまった名門クラブの再建に着手。

 ただ、現役を引退した元日本代表FW鈴木隆行氏や、元日本代表FW森本貴幸選手(現・川崎フロンターレ)、FWネイツ・ペチュニク選手(現・大宮アルディージャ)などチームの看板だった主力選手を含む24選手が一気に退団。反対に柏レイソルから日本代表経験のあるDF近藤直也選手、川崎からは松本山雅FCでエースとしてJ1昇格の経験のあるFW船山貴之選手、外国籍助っ人としては今年の目玉補強となる現役パラグアイ代表MFアランダ選手など、全19選手を獲得。

 川崎やロンドン五輪代表監督として大きな実績を挙げた関塚隆監督は就任3年目となるシーズンで留任していたものの、新設されたような急造チームとしてシーズンをスタートさせました。

 しかし、全くチームとしての体をなしておらず、第25節終了後に成績不振で関塚監督を解任。コーチの長谷部茂利氏が新監督に就任したものの、全く昇格争いにも絡めずにシーズンを終えていました。

 高橋GMは今季の大幅な選手の入れ替えは「人件費を抑えるために断行した」と説明していたため、来季は「熟成期間」になると考えられるものの、このタイミングで久しぶりの外国籍の新監督を招聘したのは意外でした。

リーガ屈指のエレガントな実力派FWだったエスナイデル氏

スペインで年間2桁得点を5度記録したリーガ屈指のFWだったエスナイデル氏。特に国際タイトルも獲得したサラゴサではレジェンド的存在。by VAVEL.com

 では、現在43歳でアルゼンチン出身の新監督、エスナイデル氏とはいったい何者なのか?

 すでに各方面で報道されているように、現役時代のエスナイデル氏はレアル・マドリーやユヴェントスといった欧州屈指のビッグクラブでプレーして来たアルゼンチン代表歴もある実力派FWです。

 しかし、レアル・マドリーやユヴェントスで「活躍」していたのではなく、あくまで「プレーしていた」に過ぎない選手で、アルゼンチン代表キャップも3試合。

 とはいえ、レアル・マドリーから出場機会を求めて移籍したレアル・サラゴサでは、エースFWとして欧州各国カップ戦の覇者が集うカップ・ウィーナーズ・カップ(現在はUEFAヨーロッパリーグに吸収)で優勝して国際タイトル獲得に貢献。他にもアトレティコ・マドリーやエスパニョールなどスペインの中堅以上の名門クラブでエース格として実績を残して来た実力者です。

 それでも2度に渡って在籍したレアル・マドリーや、1999年1月に移籍したユヴェントスでは全く活躍できず。特にユヴェントス加入時は通称「デル・ピッポ」と言われたイタリア代表の2トップであるアレッサンドロ・デル・ピエロ選手とフィリッポ・インザーギ選手(現・ヴェネツィア監督/イタリア3部)が共に怪我で長期離脱したためにユヴェントスが救世主的に獲得したFWで、エスナイデル氏は主に「インザーギの代役」と見なされたものの、在籍約2年間で無得点に終わりました。ちなみに「デル・ピエロの代役」として獲得されたのが、あのティエリー・アンリ氏。名将マルチェロ・リッピ(現・中国代表監督)がシーズン中に退任する事態にまで発展したチームで、エスナイデル氏もアンリ氏も全く活躍できずに終わりました。

 実績としては実力者の経歴ながら、ビッグクラブでは全く活躍できていないために、スペイン以外ではほぼ無名のFWだったかもしれません。

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オナイウがエスナイデル氏の指導で覚醒の時を迎えるか?

元世界的FWの指導により、このFWオナイウが覚醒の時を迎えれば、それだけでチーム力は飛躍的に上がるはず。by ジェフユナイテッド市原・千葉

 とはいえ、現役選手としてはJリーグのクラブがエスナイデル氏を獲得できる次元にはないほどの高嶺の花で、指揮官としては実績に乏しくとも、Jリーグにやって来るエスナイデル氏には、世界のトップを知る現役時代からの経験に期待がかかります。

 また、今回の就任に際して、高橋GMは4人の候補者を立てた中で、「面談の時点で今季の千葉の試合を20試合ほど観て、そのプレー分析や課題、強化・解決策を具体的に示して来た」という熱心な姿勢も好材料。

 その上で個人的に期待したいのが、今年のリオディジャネイロ五輪のバックアップメンバーに止まったFWオナイウ阿道選手の覚醒。

 今季のオナイウ選手はJ2リーグ23試合の出場で6得点という五輪メンバー入りを狙うFWとしては凡庸な数字に終わったものの、途中出場が多いために出場時間に直すと543分間で6ゴールを記録。実に90分に1ゴールの割合で得点を奪える数字を残したFWです。

 また、現役時代のエスナイデル氏のように、オナイウ選手はフィジカル的な能力が高いだけでなく、それをキープ力に使って攻撃の起点となれる付加価値もストロングポイントとして持つFWです。まだまだ粗削りな部分が多く、決定力に欠けるのも課題ですが、それをスペインリーグ屈指の知的でエレガントなFWだったエスナイデル氏との出会いや、その指導法で覚醒の時を迎える可能性に期待がかかります。

 クラブのレジェンドでもあるサラゴサではBチーム、トップチームの監督としてはコルドバとヘタフェのみという指導歴の浅さや、成績不振による早期解任ばかりの経験で不安な面もあるのですが、会見を聞いていると「個人」が占める割合が広い欧州のサッカーの中で「組織」を重視していた事が向こうでは上手くいかなかったようにも感じられました。意外とこういったタイプの指揮官が日本で成功するのかもしれません。

 少なくともエスナイデル氏には自身のような確固たる点取り屋となるFWを育成してもらいたいです。

昨季途中からヘタフェの監督として初めてスペイン1部クラブを指揮したエスナイデル氏。残留を勝ち取れず、2部降格後も成績不振で解任されるなど、監督としての実績は乏しい。by Liga de Fútbol Profesional

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