【JリーグCS】チャンピオンシップはドリブラーに注目!後編
いよいよ始まる明治安田生命Jリーグチャンピオンシップ(以下CS)。
集中力が研ぎ澄まされた緊迫感溢れる試合展開が予想される中、拮抗したチーム同士の戦いを左右するのは個人で局面を打開できるドリブラーとなるでしょう。
前回の記事「【JリーグCS】チャンピオンシップはドリブラーに注目!前編」では、現代サッカーにおけるドリブラーの役割、または現在のJリーグにいるドリブラーの傾向などを説いてきました。
この後編では実際に今回のCSに出場する浦和レッズ、川崎フロンターレ、鹿島アントラーズに在籍するドリブラー達と彼等を活かすチームのメカニズムについて徹底解析します!
【鹿島】4バックの2列目はゲームメイク兼任のドリブラー
まず今回のCSに登場するチームは、浦和が3バック、川崎が3バックと4バックの併用、鹿島が4バックを採用していて、3チーム共にあまり似ておらず、それぞれに特徴があります。
その中で4バックを貫く鹿島のMF土居聖真選手や遠藤康選手、中村充孝選手のようなドリブラーは、<4-2-2-2>や<4-2-3-1>の2列目に配置されます。彼等は確かにドリブルで仕掛けられる選手ではあるのですが、サイドで起用されたとしてもボール保持時は中央によってサイドのスペースはサイドバックに使わせるような動きをとります。
また、サイド攻撃時にはそのサイドバックとの連携で仕掛けたり、中央突破時は中央に密集した距離感をとり、ドリブルやワンツーでフィニッシュに絡む仕事を担います。ドリブラーでもありますが、個人で打開するチャンスメイカーというよりは複数での攻撃の構築によるゲームメイクに絡むプレーメイカーとして起用されるのが、鹿島のドリブラーの特徴と言えるでしょう。
そんな鹿島で注目のドリブラーはFWに入る(元?)日本代表の金崎夢生選手。
大分トリニータ時代は若手が多く攻守にハードワークするチームでトップ下を任され、自由を与えられる中で想像力溢れるプレーを披露。組織よりも個で勝負するチームである名古屋グランパスへ移籍後はウイングで起用され、縦への推進力でドリブル突破力を活かし、リーグ優勝にも貢献。ドリブルで相手を抜くプレーにはフェイントのような足技を駆使するか、緩急とコースの変化がありますが、彼のドリブルは後者で、その鋭角ドリブルに魅力があります。
そんな金崎選手は2012年シーズン限りで名古屋を退団後、約2年間に渡ってドイツとポルトガルでプレー。出場機会に恵まれなかったドイツ時代を経て、ポルトガル移籍後はボールのないところでの動きや1対1の球際の競り合いでの強さに磨きをかけました。そして、持ち味の積極的なドリブル突破は、より得点に直結するように使い、いつしかポジションも1トップも務められるFWになりました。
球際に強くてハードワークができるドリブラーの選手がブラジルサッカーの影響が濃い鹿島で軸としてプレーする姿は、チームを象徴する選手となっています。
【川崎】三好を筆頭に台頭する新たなドリブラー&3列目からの刺客
続いて3バックと4バックを併用する川崎には、やはり右のウイングバックにドリブル突破に魅力があるブラジル人DFエウシーニョ選手が入ります。
左サイドに入るDF車屋紳太郎選手はドリブラーというわけではないですが、3バックのウイングバック起用時には必然的にドリブルの割合は増します。こちらは風間八宏監督が筑波大学の監督時から指導していた事もありますが、「ビルドアップ能力に長けるDF」はドリブルにも非凡なモノを持っている事を証明しており、新時代のサッカーのエッセンスを持っている事を感じさせてくれます。
新時代と言えば若手のMF三好康児選手やMF中野嘉大選手が、風間監督の就任5年目で完成度の高いパスサッカーが浸透したチームの中で、良いスパイスとなるドリブルを披露しています。特に三好選手は先日のU19日本代表でアジア制覇にも貢献したユース出身の2年目。今季限りで風間監督が退任する事になっても、現在のスタイルを継続したいクラブにとっての期待のホープです。
そんな川崎で注目のドリブラーは日本代表MF大島僚太選手。ドリブラーよりもパサーのイメージの方が強いかもしれませんが、決してワンタッチでシンプルにプレーするばかりではなく、ボールを持ち出してマーカーを搔い潜るドリブルにも魅力があります。
ドリブルには「運ぶ」「抜く」「引き付ける」と大まかに分けると3つの種類があります。大島選手は決して「抜く」ドリブルはあまり見せませんが、「運ぶ」や「引き付ける」のようなキープするドリブルで相手を抜いてしまえる今までにいなかったドリブルを見せる選手です。
また、3列目となるボランチを定位置としながら、ドリブルも多様するプレースタイルという意味でも、日本サッカーの新時代の到来を予感させる選手でもあります。
【浦和】WBに揃った実力派&成熟したドリブラーの成功例FW興梠
そして、サンフレッチェ広島から浦和に”移籍”したミハイロ・ペトロヴィッチ監督の影響で、ウイングバックにドリブラーが揃う浦和。
今季から加入したMF駒井善成選手はスピードとドリブル突破力では右に出る者はいない選手でしたが、京都サンガでは適性ポジションを見つけられずに器用貧乏のような状態が続きました。しかし今季後半から浦和の右ウイングバックに定着。また、浦和のユース出身のMF関根貴大選手は決してウイングバックが適性かどうかは分かりませんが、そのドリブル突破力とFW顔負けの得点力も備える実力派の若手です。
ただ、関根選手が下部年代の代表でも定着できないように、浦和を出ればその存在価値が下がってしまう選手が多い部分があるのかもしれません。同様の事はウイングバックというポジションに関してはリーグ最高の選手とも言える広島のMF柏好文選手にも言える事だと思います。
そんな浦和で注目のドリブラーは元日本代表FW興梠慎三選手。厳密には元ドリブラーかもしれませんが、鵬翔高校時代は「ボールを持ったら相手全員を抜きにかかっているのか?」と思わせるほどの『ドリブル小僧』でしたが、高校卒業後に組織を重視する鹿島に入団。
それまではトップ下かウイングかも分からない自由奔放なポジションとプレーが売り物でしたが、鹿島で純粋なFWにコンバートされ、そのドリブルを得点という数字やチームの勝利のために使う武器に仕立てあげ、Jリーグ史上唯一のリーグ3連覇にも2トップの1角として貢献。
2013年から加入した現在の浦和では1トップとして起用され、多彩なMF陣を活かす巧みなポストプレーで緻密な攻撃を最前線で支える完成度の高い選手へと進化と深化を遂げました。鹿島で成長し、浦和で進化した興梠選手は今季J1通算100得点目を挙げました。メモリアルなシーズンを過ごす彼は、今季のCSで最も注目すべき選手でしょう。
ドリブラーのプレーを楽しむために願いたい事
最後に言わせていただきたい事があります。
こうした魅力的なドリブラー達は、現在のJリーグではまだまだ「組織」が「個人」を活かす事は出来ていません。現在のJリーグでは守備を言い訳のようにする結果しか見ていない監督の戦術的なタスクに黙殺されてしまうか、個人に依存するような使い方しか出来ていません。
バルセロナでアルゼンチン代表FWリオネル・メッシ選手が周囲に活かし活かされるようなチームの環境はないのです。
確かに興梠選手のように経験や年齢を経る事によって、ドリブラーはパサーやワンタッチプレーヤーに変身する事はありますが、ワンタッチパサーからドリブラーに変身する事は絶対にありません。
つまり、ドリブラーは「努力家か天才か?」などという2極論ではなく、先天的な才能からしか生まれ得ない要素が多分にある選手。そうした才能をもっと大事に育ててもらいたいと思います。
そんな思いを持って、本日から開幕する今季のチャンピオンシップを楽しみましょう!