ステージ優勝も狙える絶好調のヴィッセル神戸を支えるDF高橋祥平の「前で奪う守備」は攻撃力だ!

 代表ウィーク、YBCルヴァン杯決勝を経て3週間ぶりに再開される明治安田生命J1リーグ第2ステージ。

 再開と言っても今季も残り3試合の大詰めで、先週のルヴァン杯決勝でガンバ大阪を下して9年ぶりの主要タイトル獲得した浦和レッズが、このJ1第2ステージでも2位に勝点5差をつけて快走しています。3位の川崎フロンターレとは勝点6差ですが、得失点で12の大差があるため、「実質は7差」と考えると3試合分の勝点差をひっくり返す事は現実的に厳しいでしょう。

 そんな中で唯一、その浦和に対抗しているのが現在2位につけているヴィッセル神戸です。それも直近のリーグ7試合を6勝1分の無敗街道を進む絶好調ぶりで、第10節では首位・浦和との直接対決でも勝利しています。

ここ7戦を6勝1分と無敗街道を進む神戸で、際立つ存在感を放っているDF高橋祥平。by VISSEL KOBE

攻撃3本柱への依存傾向、対策が進む中で躍進する神戸

J1得点ランクトップの19得点を挙げているFWレアンドロ。12得点の渡邉、10得点のペドロ・ジュニオール。3人合わせて41得点は、チーム総得点約8割を占める。by Jleague.jp

 今季の神戸は第1ステージを5勝5分7敗の勝点20でリーグ12位に終わっています。その間、23得点25失点。それが第2ステージでは3試合を残した状態で9勝2分3敗の勝点29で、29得点15失点。すでに第1ステージの勝点と得点を上回っています。

 そんな好調を維持する第2ステージ中でも変化はありました。第8節以降に無敗街道が始まりましたが、実は第7節までの7試合で8失点に抑えており、第1ステージから大幅な守備の改善が見られていました。特にDFラインの押し上げが出来て、最前線から最後尾までをよりコンパクトにしたサッカーが展開出来るようになって来ました。

 8節以降は7試合で7失点とそれまでの守備力を維持しながら、7節まで10得点に終始した得点が7試合で19得点と倍増した事が快進撃の要因です。すでにレアンドロ選手が得点ランクトップの19得点、ペドロ・ジュニオール選手が10得点と、強力なドリブル突破という個の能力を擁する両ブラジル人FWが2桁得点。加えて今季から主将を務めるFW渡邉千真選手も主にサイドMFとして起用されながら12得点。すでにチーム内に3人の2桁得点者がいます。

 しかし、ここまでリーグ年間31試合を消化した中でチーム総得点52の約8割(78.8%)に相当する41得点を記録している攻撃の3本柱は、強烈ながらも依存体質が見えるのも確か。相手チームからはその攻撃パターンはバレバレなはず。それもシーズンが進むにつれて研究・対策が深まっていくはずが、この終盤に来て大幅に得点数を伸ばして来ているのは何故なのか?

 その原動力となるのは無敗街道が始まる時期から先発に定着し始めた、高橋祥平選手にあると考えられます。

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自身も含めて実力派CBが揃う神戸で”脱皮”

岩波(写真)や伊野波、北本と実力者が揃うCB陣には、「勝負師」ネルシーニョ監督の下で熾烈なポジション争いがある。by VISSEL KOBE

 高橋祥平選手はもうすぐ25歳になるDFで、主にセンターバックを務めていますが、サイドバックやボランチもこなし、3バックでも4バックにでも対応できるオールラウンドな能力を兼ね備える選手です。

 神戸のCB陣には今夏のリオディジャネイロ五輪メンバーに選出された岩波拓也選手、2014年のFIFAブラジルW杯メンバーにも選出されるなど日本代表経験が豊富な伊野波雅彦選手が在籍。神戸一筋で35歳のDF北本久仁衛選手も含めて実力派CBが揃っています。

 そして高橋祥平選手自身も小学生の頃から在籍する生え抜きだった東京ヴェルディでは、17歳にしてトップチームのレギュラーの地位を確立した実力派。ただし、10代の頃からも負けん気の強さや積極性、ボール際の強さが、そのまま警告や退場処分の多さとなって姿を現す事が多々あるのを問題視されていました。

 2013年にJ1の大宮アルディージャへと完全移籍してからもレギュラーとしてピッチに立ち続けるものの、その課題は変わらず。チームも2014年にJ2降格。在籍2年で神戸への移籍を決断しました。それでも彼は昨季も神戸でレギュラーとしてプレーしていましたが、今季から4年ぶりにジュビロ磐田から復帰加入した伊野波選手にポジションを明け渡していました。

 特に第2ステージに入ってからは第8節に途中出場するまで1度も出番がなく、ベンチからも外れる試合があったほど。それでも伊野波選手の出場停止で先発出場の機会を得た第9節のG大阪戦でアウェイながらも完封勝利に大きく貢献。続く首位・浦和との試合ではこれまでの4バックから3バックに変更して挑む中、左CBとして「前でボールを奪う」積極的な守備で金星に貢献しました。

 ルヴァン杯決勝でも激突した現在のJリーグを代表する2チームに連勝。プロ入り後8年目にして初めて経験する長いベンチ生活の中、あり余るほどの闘争心は熾烈なポジション争いに向け、自らを見つけ直して冷静さを体得。自信と迫力に満ちた高橋祥平選手はレギュラーの地位を奪回しました。今季警告は僅かに1枚に止めてもいる「新・高橋祥平」となって絶好調のチームを支えています。

攻撃に直結させる「前でボールを奪う守備」は海外でこそ活きる!

首位・浦和に勝利した第10節。相手の司令塔MF柏木からボールを奪いに行く高橋祥平。彼の積極的な守備がそのまま攻撃に直結する事で神戸は大幅に得点力を上げている。by VISSEL KOBE

 もちろん、Jリーグ創世記のヴェルディやブラジルの強豪クラブ、2011年には柏レイソルをJリーグ史上初のJ1昇格初年度のリーグ優勝に導くなど、「勝負師」として就任したチームを多くのタイトルに導いてきたネルシーニョ監督の存在も大きかったはず。そして、高橋祥平選手はそんな外国籍監督に好まれるようなプレースタイルを持っているのも事実です。

 Jリーグの試合では、特に日本人監督のチームでは、どうしても守備ブロックを構築した上で、そのポジションを捨てて「前に出て奪う」守備を選択するリスクを嫌う傾向が強く、逆に日本人のDFも対人能力を含めて「前で奪う」強さに欠けるのも日本人監督がそうした守備戦術を選択する事にも繋がっていると考えられます。

 そんな中、常に前に出てインターセプトを狙う攻撃的な守備を持ち味とする高橋祥平選手は、Jリーグ全体を見渡しても稀なプレースタイルを持つDFです。セットプレーからの得点も多く、流れの中からでも攻撃参加してフィニッシュに持ち込むことが多い選手でもあります。

 ネルシーニョ監督の下、DFラインを押し上げては後方を突かれ、DFラインを下げては単発な攻撃に終始する試行錯誤が続いた神戸でしたが、ここへ来て攻守の歯車が最高のバランスで噛み合って来ました。

 それは高橋祥平選手がスプリント(全速力)してボール奪取する事が多く、その守備から攻撃への切り替えの瞬間に高橋祥平選手自身がドリブルでボールを持ち上がったり、展開力に長けている事で、その「前で奪える」守備力はそのまま攻撃力の強化に直結しているのです。

 彼は現在まで日本代表に選出された事はなく、下部年代の代表でも十分な足跡を残すような活躍はしていません。しかし、より国際的な舞台でこそ彼の「前で奪える守備」は活きるはずで、彼は海外でこそ活きるプレースタイルを持つDFだと考えられます。

 日本代表やJリーグを欧州と比較しがちなヴァヒッド・ハリルホジッチ日本代表監督ですが、それならば、この高橋祥平という身体能力も高い日本人離れした個人守備戦術を持つ稀有なDFを招集するのもアリではないでしょうか?

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