プレミアリーグを席巻する「韓国の至宝」ソン・フンミン~ドイツが生んだ韓国の絶対エース

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リーグ全勝の首位・マンC戦。1トップとして先発したソンは得点こそなかったが、マンCのDF陣を相手にドリブル突破からの鋭いシュート、チャンスメイクで2-0の勝利に大きく貢献。by Daily Mail Online

 今夏、イタリアのユヴェントスからイングランドのマンチェスター・ユナイテッドへの移籍(復帰)が決まり、史上最高額の移籍金記録を更新したフランス代表MFポール・ポグバ選手。その額はなんと125億円規模となる天文学的数字になりました。
 
 今季からのテレビ放映権料が倍増し、さらに跳ね上がるイングランド・プレミアリーグへの移籍案件については、その投資した額の高さについて議論が巻き起こっています。

 そして昨年夏、同じプレミアリーグのトッテナム・ホットスパーがドイツのバイヤー・レヴァークーゼンから獲得した韓国代表FW孫興慜(以下、ソン・フンミン)選手の移籍金にも注目が集まっていました。トッテナムが彼の獲得に費やした移籍金(違約金)は3000万ユーロ(約41億円)。

 この額は、元日本代表MF中田英寿氏が2001年の夏にイタリアのASローマから同じくイタリアのACパルマへ移籍した際の2600万ユーロ(約35億円)を抜き、アジア人サッカー選手の移籍金としては史上最高額を更新する事になりました。(以下、ベスト10の表を参照。)


『アジア人移籍金ランキング』トップ10にソン、中田、香川が複数ランクインしているのも興味深い点だ。

 上記の表をご覧になっても分かる通り、これまでの1位と2位が中田氏だった事が彼の功績の大きさを物語っています。彼の時代もサッカー界はバブル真っ只中でしたが、この時代はまだ日本人を含めてアジア系の選手がそこまで欧州で評価されている時代ではなく、彼はパイオニア以上の活躍を示していたと言えるでしょう。

 ただ移籍1年目となった昨季、ソン・フンミン選手はリーグ戦では28試合の出場で4得点に終わり、その移籍金の高さから大きな批判を浴びました。

 しかし、今季は開幕から絶好調。チームでもイングランド代表でもエースFWを担うハリー・ケイン選手が負傷離脱しているトッテナムですが、その穴を全く感じさせないのは出場4試合で4ゴールを奪っているソン・フンミン選手の活躍ぶりです。前線の全てのポジションをこなせる彼が、チームへ完全にフィットした部分が大きいと考えられます。

 好調のトッテナムは先週末、ホームに開幕6戦全勝のマンチェスター・シティを迎えた第7節で相手に初黒星をつけるなど、ここまで開幕7戦を5勝2分の2位。リーグ唯一の無敗チームを韓国代表FWが牽引しています。

香川より3歳年下のソン・フンミンの挑戦


ドイツで3年連続二桁得点を記録したソン。「アジア最高額」も納得の実績だ。by Falso9Sports

 近年、日本人選手が欧州で、特にドイツ・ブンデスリーガから評価されるのは2010年にボルシア・ドルトムントへ加入したMF香川真司選手がシーズンMVP級の働きを見せてチームをリーグ2連覇に導く大活躍を披露した影響が、最も大きなインパクトとなっていると言えます。

 その他にも「移籍金が安くて勤勉」、「大柄な選手が多いリーグにあって俊敏性とテクニックの高さが稀少」、「ブンデスリーガの外国人枠がない事」などもありますが、ドイツへ移籍する選手の中に、清武弘嗣選手(現セヴィージャ/スペイン)や乾貴士選手(現エイバル/スペイン)といった日本代表経験者はもちろん、田坂祐介選手(現・川崎フロンターレ)や長澤和輝(現・ジェフユナイテッド千葉)といったJリーグでも完全なレギュラーではない選手や大学からも選手を獲得していたり、直近では前橋育英高校からの卒業間もないMF渡辺凌磨選手をインゴルシュタットが獲得しています。彼等は全て香川選手と同じく2列目を主戦場とする選手です。

 そんな香川選手がブンデスリーガで最初のシーズンの「前半戦MVP」に選出された同時期、「前半戦最優秀若手選手」に選出されたのが、香川選手よりも3歳若く、当時は18歳でハンブルガーSVに所属していたソン・フンミン選手。そして、香川選手がマンチェスター・ユナイテッドに移籍してから3年後の昨年、ソン・フンミン選手もイングランドの強豪に高額な移籍金で挑戦する事になりました。

 サイドをメインにするとはいえ彼も2列目を主戦場とするアタッカーで、ハンブルガーとレヴァークーゼンでブンデスリーガ通算135試合出場41得点を記録。さらにトッテナム移籍時点で23歳の若さ。3000万ユーロという額は高過ぎるかもしれませんが、移籍元のレヴァークーゼンと移籍先であるトッテナムのプレースタイルが共に豊富な運動量を活かしたプレッシングサッカーである事を考えれば、「納得の額」とも言えます。

 スピード抜群でキレ味の鋭いドリブル突破が何よりの魅力ですが、ドイツで成功し続けている自信から来る迫力はアジアでは段違い。2015年初頭に豪州で開催されたアジアカップでも疲労を感じさせながらも3得点。全参加国の選手中、1人だけ異次元のプレーを披露しました。

次ページ:ソン・フンミン選手のユース時代、そしてアジアサッカーの進むべき道

多くのJリーガーを生んだ育成プログラム、アジアの火を灯し続ける存在


ハンブルガーでのユース時代のソン。韓国協会が主導する留学制度の大成功例となった。by Defensive Midfielder

 そんなソン・フンミン選手は16歳にして韓国サッカー協会が主導している「優秀選手海外留学プログラム」の第6期生としてハンブルガーのユースに派遣されています。

 韓国協会は2003年から毎年3人ずつ1年間をかけて海外クラブのユース組織へ優秀な選手を留学させており、渡航費や現地での滞在費を負担しています。日本でもプレーしたチョ・ヨンチョル選手(3期生)、ナム・テヒ選手(5期生)、現在Jリーグでプレーするジェフユナイテッド千葉FWイ・ヨンジェ選手(5期生)、サガン鳥栖のキム・ミンヒョク選手(6期生)、現在はタイ・チョンブリFCでプレーする湘南ベルマーレのMFキム・ジョンピル選手(6期生)もこのプログラムの出身者です。

 同制度はソン・フンミン選手たちの6期生を最後にいったんは終了し、現在は「優秀選手奨学金制度」と形態を変えましたが、この制度の効果をソン・フンミン選手が示しているので、韓国が見直しの検討に入るだけでなく、日本を含むアジア諸国にも拡がっていく制度になるかもしれません。

 ソン・フンミン選手はこの育成プログラムからハンブルガーでトップチーム契約を勝ち取り、香川選手がドイツを去った2012-2013シーズンに12得点を挙げて大ブレイク。翌シーズンから強豪のレヴァークーゼンに引き抜かれても10得点、翌季も11得点。日本代表FW岡崎慎司選手の2年連続を越え、ブンデスリーガ3年連続2桁得点を記録しました。現在は欧州サッカー界で香川選手や本田圭佑選手(現・ACミラン/イタリア)を筆頭する日本勢が不調に陥る中、”アジアの火”を灯し続ける貴重な存在です。

アジアサッカーの道標となったドイツ アジアとドイツが生んだ孫興慜の成功を祈る


エースFWケイン(左)が離脱している事を感じさせないほど、現在のソン・フンミンの活躍は際立っている。by The Independent

 日本にとっての”永遠のライヴァル”である韓国。日本が毎回苦しめられるそのスタイルは、ロングボールを放り込んでくるモノ。時代によって多少の誤差はあってもパスサッカー路線を継続する日本サッカーとは相反するように感じるものです。

 しかし、実際は密接な関係があり、「日本サッカーの父」と言われる実質上の『初代外国人日本代表監督』であるドイツ人指導者=故デットマール・クラマー(※)氏も、1991~1992年に韓国の五輪代表を総監督として指揮しています。

※クラマー氏の日本での肩書はあくまで「コーチ」。日本での実際の指導としては1964年の東京五輪でアルゼンチンなどを破ってのベスト8。その後の1968年のメキシコ五輪の銅メダルへ繋げました。日本を離れてからもバイエルン・ミュンヘンの監督として1975.1976年の欧州チャンピオンズカップ(現チャンピオンズリーグ)を連覇達成。

 ドイツは世界的に観れば圧倒的に弱者であるアジアサッカーの発展に寄与した国で、日本や韓国だけでなく、イランなどもそれに該当する国です。日本が初めてW杯出場を決めたフランス大会の最終予選・第3代表決定戦で、「ジョホールバルの奇跡」の対戦相手であったイランには、アリ・ダエイ選手とホダダ・アジジ選手の「アジア最強2トップ」がおり、その2人並みの得点力を持つMFカリム・バゲリ選手も含めて彼等3選手がドイツで活躍していました。彼等の名前を見ただけでも「負けるんじゃないか?」と思った日本のサッカーファンは多かったのでは?だからこそ”奇跡”なわけです。

 イランはジョホールバルで日本に敗れたものの、大陸間プレーオフで豪州を倒して日本同様にフランスW杯出場を果たすと、その躍進ぶりからさらにメフディ・マハダビキア選手やバヒド・ハシュミアン選手、アリ・カリミ選手がドイツに引き抜かれて長期に渡ってプレーし、その後はジャパド・ネコウナム選手が日本人だけでなく、”アジア人にとっての鬼門”であるスペインでも主力として長年プレーする事にもなりました。

 ソン・フンミン選手の欧州での活躍ぶりや「アジア人最高額」は言わば、日本を含めたアジアサッカーに進むべき道を照らし続けてくれたドイツとの共同作業が生んだ努力と工夫の結晶です。それを「韓国人だから」「高額過ぎる」などと揶揄するのは止めて、素直に彼を応援しましょう。

 プレミアリーグでは香川選手が失敗に終わってアジア人選手の評価が落ちつつあった中、昨季はレスター・シティで岡崎慎司選手が奇跡のリーグ優勝に貢献し、今季はトッテナムでソン・フンミン選手が絶好調。後続のアジア人アタッカーや、ブンデスリーガの評価も高まるでしょう。

 果たして、ソン・フンミン選手は日本の大人気アニメ『ドラゴンボールZ』の主人公”孫悟空”を越える”ソン”になれるのでしょうか?彼と同じ24歳でポジションも同じである宇佐美貴史選手(現アウクスブルク)や武藤嘉紀選手(現マインツ/ドイツ)も負けてはいられませんね!

お詫びと訂正

※当初、記事内に「高校年代を日本の東北高校で過ごしています。」と記載しておりましたが、正しくは「韓国の東北高校」でございました。
読者の皆様ならびに関係者の皆様にご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。

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