15歳のFW久保建英のトップ昇格を機に振り返る~「中高生Jリーガー」の歴史

01_久保建英
バルセロナ下部組織時代の久保。バルセロナは18歳での「再獲得」を狙っている。by ESPN FC

9月16日からインドで始まったAFC-U16アジア選手権。今大会は来年にも同地で開催されるFIFA-U17W杯の出場権が懸かっています。U17W杯へのアジアからの出場権は4カ国ずつ4組に分かれたグループリーグを2位以内で突破し、準々決勝で勝利したベスト4進出国へ与えられます。尚、今大会には開催国のインドも出場しているため、インドがベスト4に進んだ場合は準々決勝で敗退した4カ国でプレーオフを戦って残り1枠を争う、というレギュレーションになっています。

そんな今大会の初戦、U16日本代表はベトナムと対戦。自身の2ゴール2アシストを含む5得点に絡んだFW久保建英選手の活躍もあり、7-0の圧勝で幸先の良いスタートを切りました。久保選手は試合終了間際に負傷退場しましたが、軽傷との報道で一安心。U16日本代表の躍進にも注目です。

その久保選手は先日、所属するFC東京U18からトップチームへの昇格が正式に発表された15歳の選手。10歳の時に世界最高クラブとも言えるスペインのFCバルセロナの下部組織に加入し、各カテゴリーで得点源となる大活躍をして来た超逸材です。

しかし、バルセロナが18歳未満の選手に対する国際移籍ルールに違反した事が発覚。そのため、下部組織でプレーしていた久保選手も公式戦への出場登録ができない状況となったため、昨年5月に帰国していました。

それでも、加入したFC東京U15むさしでも日進月歩の成長を見せる久保選手は、中学生ながらも今季から1つカテゴリーを飛び級してFC東京U18へ昇格。それも未だ中学3年生ながら、今夏に開催されていた18歳以下の選手達による第40回日本クラブユースサッカー選手権大会で、チームの優勝に貢献しただけでなく大会得点王にも輝きました。

そして、このダイヤの原石の放つ強烈な光に、先日にはトップチームさえも2種登録(所属はあくまでU18チームでプロ契約ではないが、トップチームでも出場が可能となる。)する運びになりました。

初の「中学生Jリーガー」森本


2004年3月、「中学生Jリーガー」となった森本。そのシーズンに4得点を挙げ、数字以上に「和製ロナウド」は、ゴールに向かう凄まじい突破力を見せて新人賞に選出。by SOCCER KING

FC東京は、現在行われている明治安田生命J1リーグでは年間10位。残り5試合でチャンピオンシップへの出場も、J1残留を争う事もない中位に位置しています。

若手選手を抜擢するための余裕があるため、インドでのAFC-U16選手権から帰国後には、久保選手が「中学生Jリーガー」としてピッチに立つ可能性は高いと考えられます。

そんな「中学生Jリーガー」は、今季で24年目を迎えているJリーグの歴史でも僅かに1人だけ。2004年3月に当時東京ヴェルディ1969でデビューしたFW森本貴幸選手(現・川崎フロンターレ)です。

3月いっぱいで中学校を卒業するタイミングだった当時の森本選手は、15歳10カ月6日でデビューし、出場7試合目となった15歳11カ月28日で初得点を記録。

ゴールへ直線的に仕掛けるドリブル突破と得点感覚を武器とし、中学生でも「和製ロナウド」の異名をとった森本選手は、Jリーグにおける「最年少出場記録」と「最年少得点記録」を未だに保持しています。そして、そのシーズンに4得点を挙げてJリーグの新人賞にも選出されました。

その後、森本選手は2年半プレーしたのみでイタリアのカターニャへと移籍し、2008-2009シーズンにはシーズン7得点を決めるなど海外でも活躍。日本代表にも選出されました。

パイオニアはジェフのDF山口とMF阿部、ガンバMF稲本等~「お荷物」クラブが充実した下部組織を誇る


史上初の「高校生Jリーガー」となった山口氏。阿部や稲本も含めて、高い技術を備える「現代型」の守備者だ。by サマナラと、もおのき

中学生は例外だとしても、各クラブが下部組織を運営しているJリーグの舞台で高校生がプレーするのは、現在では頻繁に見られる”自然現象”の1つとなりました。

その先駆けとなったのは、1996年に17歳354日でJリーグデビューしたDF山口智(現・ガンバ大阪強化部スタッフ)氏。当時はジェフユナイテッド市原(現・千葉)のユースに所属しており、3月にデビューを飾った段階では高校2年生。そして、史上初の「高校生Jリーガー」となりました。

2年後、ユース時代からのチームメートだったMF阿部勇樹選手(現・浦和レッズ)が16歳333日という記録を作りました。山口氏も阿部選手もトップチームデビューから2年目にはレギュラーに定着し、その後は移籍も含めてタイトルの獲得や日本代表にも選出される選手となっています。

また、同時期にはガンバ大阪でMF稲本潤一選手(現・北海道コンサドーレ札幌)も高校生でデビュー。稲本選手の場合は高校3年生だった1年目からレギュラーに定着。それまでJリーグ創設から最下位を争っていたガンバ大阪を第2ステージで2位へと躍進させる原動力となりました。同時期のガンバ大阪では稲本選手と同級生の新井場徹(現・代理人業など)氏も高校生Jリーガーとしてデビューしていました。

Jリーグの創世記に下位に低迷していたジェフとガンバは「お荷物」と揶揄されていましたが、上記の選手達が2000年前後から披露した活躍を考えれば、充実した下部組織を備えていた事は明白。ある意味では創世記の低迷もまた強化の1部だったかもしれません。

また、上記の選手達はDFや守備的MFのポジションを本職としており、安易にクリアせずに後方からでもパスを繋ぐ高い技術力を備えていました。その意味でも現在へと続く日本サッカーの遺伝子を運んで来た選手達だと言えます。

ガンバVSセレッソ~育成のライバル対決!


ACLのFCソウル戦でプロデビューと初得点を記録した宇佐美。下部組織出身ではない香川も含めて、大阪の2クラブには高校生でレギュラーを担う逸材が多く台頭。by SOCCER DIGEST Web

その後、特にガンバ大阪ではMF家長昭博選手(現・大宮アルディージャ)やFW宇佐美貴史選手(現・アウクスブルク/ドイツ)が高校生でもトップチームでレギュラーを担いながら、Jリーグのタイトルを争う舞台でも活躍。

彼等以外にもDF宮本恒靖氏(現・ガンバ大阪ユース監督)、FW大黒将志選手(現・モンテディオ山形)、DF安田理大選手(現・名古屋グランパス)等が日本代表選出と海外移籍も果たしました。

それに対抗するように20″00″年代後半辺りからは”お隣りさん”のセレッソ大阪が育成型クラブとしてJリーグで最も成功を収め、「下部組織出身以外の高校生Jリーガー」という型破りな手法でMF香川真司選手(現・ボルシア・ドルトムント/ドイツ)もデビュー。現在もチームに所属する”純・セレッソ産”のFW柿谷曜一朗選手や、FW南野拓実選手(現・レッドブル・ザルツブルク/オーストリア)も「高校生Jリーガー」としてデビューしています。

宇佐美、香川、武藤を育てたクラブが持つセカンドチームのJ3参戦


今夏開催された18歳以下のクラブユース選手権で優勝と得点王に輝いた久保。J1でなくともJ3・FC東京U23でのデビューは間違いないはず。by SOCCER DIGEST Web

そして、このガンバ大阪とセレッソ大阪、そして久保選手をトップ登録したFC東京は、今季から新設されたU23チームが明治安田生命J3リーグに参戦しています。

久保選手はJ1で出場機会がなかったとしても、このFC東京U23チームの方では公式戦に出場する事が濃厚です。

奇しくもそれぞれ宇佐美選手、香川選手、武藤嘉紀選手(現・マインツ/ドイツ)といった現在の日本を代表する選手を育てたクラブが持つセカンドチーム。

久保選手はもちろん、多くの将来有望な選手が試合出場の機会を得る事ができる。そんなJ3リーグでの戦いにも注目です!

モバイルバージョンを終了