絶対王者PSGを倒したモナコの可変型DFラインとは?
昨季は開幕から27戦無敗、3月に優勝を決めたリーグ・アンの絶対王者PSGに3節目に黒星を付けたモナコ。その徹底したPSG対策に迫ります。
SBとCBをこなすラッジの起用がカギに
モナコのスターティングメンバーは以下の11人。
GKダニエル・スバシッチ(クロアチア代表)
DFジブリル・シディベ(フランス代表)
DFアンドレア・ラッジ(元イタリアU-21代表)
DFカミル・グリク(ポーランド代表)
DFジェメルソン(ブラジル)
DFバンジャマン・メンディ(フランスU-21代表)
DFファビーニョ(ブラジル代表)
MFティエムエ・バカヨコ(フランスU-21代表)
MFジョアン・モウチーニョ(ポルトガル代表)
FWベルナルド・シウバ(ポルトガル代表)
FWヴァレール・ジェルマン(元フランスU-21代表)
DF登録の選手は6人。このうちファビーニョはボランチをこなす選手で、この試合ではそのボランチとして出場していますから実質DFは5人。しかしそれでも珍しい5バック(もしくは3バック)。強力な攻撃陣を擁するPSG相手だけにベタ引きするのか?でもそれでは引き分けしか狙えませんし精神的にも辛い。この問いに対する答えは「DFラインを攻撃時と守備時によって変化させる」ことでした。
モナコ守備時
守備時はジェメルソン、グリク、ラッジがCB、メンディとシディベが両SBとなっていました。メンディとシディベの守備時の位置は完全にSBですので、WBではありません。よって5バックです。
中盤は右からファビーニョ、バカヨコのダブルボランチでモウチーニョが左サイド下がり気味、結果的に3センター気味で守っていました。これにより中央が固まり、中央でプレーしたがるPSGのウイングを無効化するばかりか両SBによる強力なサイド攻撃をも跳ね返せるシステムになりました。そして、実際にこれは効果を発揮するのです。
エメリ新監督を迎えてからのPSGはSBをサイドの高い位置に張らせ、2列目に中央で仕事してもらう、といった戦術を採用。しかしここまで中央での渋滞を巻き起こしただけで、何のプラスアルファにもなっていません。このモナコ戦でも中央を固めた相手に対して中央で攻撃陣をプレーさせ、サイドでの仕事をSBにやらせているのですからSBへの負担は尋常ではありません。数年前に主流になったやり方ではありますが、少しばかり時代遅れになりつつあるのではないでしょうか。
もちろん、PSGに誰か1人強力なヘッダーが居れば話は違ってきたでしょう。しかし、CFのエディンソン・カバーニは飛び込んでのヘディングは上手いものの、残念ながら競り合いに強いヘッダーではありません。その点で跳ね返すことを重視し、CBにフィジカルを武器とするジェメルソンとグリクを起用したジャルディム監督の采配はお見事でした。
守から攻への転換に貢献した2人のDF
モナコ攻撃時
守っているだけでは勝てないモナコは、攻撃時には慣れ親しんだ4バックに移行するというワザを使います。左SBメンディはそのままにCBをジェメルソンとグリクとし、右SBにラッジをスライド。シディベは右のサイドハーフに移ります。右SBと右サイドハーフをこなす選手はナビル・ディラール(モロッコ代表)もベンチに控えていましたが、彼は攻撃に打って出るタイミングでの交代をプランニングされていたはず。しかし、そのプランは良い意味で崩れてしまうのです。
13分、攻撃時右SBのラッジが持ち上がり、シディベにパス。シディベがすぐに上げたクロスは精度こそ高くありませんでしたが、うまい具合に走りこんできたモウチーニョがボレーで合わせて先制。前半終了間際には混戦からPKを奪取し、ファビーニョが冷静に決めて追加点。ほぼ前半で勝負を決めてしまったのです(結果は3−1でモナコが勝利)。
プランニングの時点で圧倒したと言えるジャルディム監督は、数日前にUEFAチャンピオンズリーグ予選を戦っていたという日程的ハンデをものともしなかったという点に於いても最大級の評価がなされるべきでしょう。一方、PSGのエメリ新監督は長期離脱明けでコンディションの整っていないマルコ・ヴェッラッティを起用するなどといった不可解な人選に加え試合中に有効な手を打てませんでした。戦力で下回る相手に自分の采配が原因で敗戦を喫した格好で、基本戦術の変更含め、今後の改善が求められます。