監督交代で激変!柏レイソルで起こった「構造改革」を科学する!【チーム編】
by web Sportiva
柏レイソルが監督交代を機に完全にチームが生まれ変わっています。公式戦7戦未勝利で始まった苦しいスタートのシーズンでしたが、明治安田生命J1リーグ第1ステージでは第6節から第10節まで5試合連続で完封勝利と公式戦8戦無敗を記録。下平隆宏新監督の就任後の成績は、J1リーグが5勝3分1敗、Jリーグヤマザキナビスコカップは2勝1分1敗。合わせると、公式戦13戦7勝4分2敗。まさにV字回復しています。
昨季の柏レイソルは10年以上に渡ってクラブの下部組織のコーチや監督、育成・強化の責任管理職を歴任して来た吉田達磨(現・アルビレックス新潟監督)氏がトップチームの監督に就任してシーズンを迎えました。どう考えても「満を持しての監督就任」と思える人事でした。
吉田監督の下、昨季のJ1リーグでは10位でこそ終えたものの、AFCチャンピオンズリーグではベスト8に進出。アジア王者に輝く広州恒大(中国)相手に敗れたものの、自ら育てた下部組織出身の選手たちが高額な移籍金と年棒で国内外の有力選手を寄せ集めた「アジア最強のビッグクラブ」を相手に戦う姿は痛快でした。また、天皇杯でもベスト4に進出しました。
しかし、クラブは功労者の吉田監督と契約を解除しました。青天の霹靂でした。
そもそも柏は2009年のシーズン途中から2014年終了までの6シーズンに渡って長期政権を築いたネルシーニョ監督が勇退して迎えた2015年のシーズンだったので、その歪みは覚悟の上だと想像できました。その上で生え抜きの若手選手が躍動してアジアでも十分な経験を積んだシーズンは、「決して低く評価されるべきではない」と識者やサッカーファンの間でも共通認識としてあったはずです。
当然ながら、吉田監督の退任を合図にFW工藤壮人選手(現・バンクーバー・ホワイトキャップス/アメリカ&カナダ)、DF鈴木大輔選手(現・ヒムナスティック・タラゴナ/スペイン2部)、GK菅野孝憲選手(現・京都サンガ)など日本代表経験者の主力選手が軒並み退団。昨季チームトップの14ゴールを挙げたFWクリスティアーノ選手もレンタル元のヴァンフォーレ甲府へ復帰。大幅な入れ替えがあって今季を迎えていました。
ネルシーニョ→吉田→メンデスと続いた監督人事の経緯
by 東葛まいにち
そして、迎えたブラジル人指揮官=ミルトン・メンデス新監督。彼がクラブの下部組織からトップチームまでの一貫した柏レイソルのサッカースタイルとは真逆の考えを持っていただけに、今季は苦しい船出となりました。
メンデス監督のサッカーとは「縦に速く」とはよく口にしていましたが、具体的に言うと個人技を活かす攻撃だったように思います。個人技を活かすために意図的に選手間の距離を遠くするのは確かにその通りですが、上記のように今季の柏からは有力選手が多く抜けています。クラブ間の差が小さいと言われるJリーグにあっても、決して1対1などの個人の局面を有利に運べるとは思えないチーム編成でした。
さらにメンデス監督は球際の激しさについても執拗に説いていましたが、選手間の距離が開いた上でそこを問われても、選手たちには矛盾に聞こえていたと思います。結局、メンデス監督はJ1リーグの開幕3戦を1分2敗の未勝利で終えて事実上の解任となって退任しました。
開幕僅か3試合で監督交代が起きれば、通常はクラブは混乱に陥るはず。しかし、新監督に昨年までの5年間をクラブの高校生年代に当たるU18の監督を務めていた下平ヘッドコーチを昇格させた事で事態は沈静化。それどころか原点回帰して完全復調しました。
「それなら最初から下平監督だったら良かったのでは?」との声もあると思いますが、確かにそれも1つ。ただ、そこで考えたいのは2010年から4年連続でタイトルを獲得したネルシーニョ監督時代のこと。クラブとしては下部組織でパスワークを主体としたスタイルを一貫して育んではいましたが、トップチームのネルシーニョ監督は常に結果を重視した勝負強いチームを作ってきました。2人合わせて年棒2億円をもらっていた2011年シーズンのJリーグMVP受賞のMFレアンドロ・ドミンゲス選手やMFジョルジ・ワグネル選手という大黒柱的なブラジル人選手など、補強に積極的だったのもそれを示していたと言えるでしょう。
そのネルシーニョ監督のサイクルが終わりを告げたタイミングだったからこそ、「下部組織で積み上げてきたスタイルや自前で育成して来た選手でトップチームも戦う」、という壮大なトライをしたのが2015年だったのです。それをクラブは「勝負弱い」と判断したからこそ、ブラジルで手堅いチーム作りに定評があったメンデス監督を招聘したのでしょう。
そういう経緯で見れば、吉田前々監督を解任して下平監督にするのはナンセンスだと言えます。それなら吉田前々監督を続投させれば済む話だと言えるからです。
昨年までユース監督を5年間務めた下平新監督
by 柏フットボールジャーナル
急遽監督に就任した下平監督の下でV字回復したチームですが、さほどメンデス体制下のチームから主力選手が変化したわけでもありません。どちらかと言えばマイナーチェンジに止めています。
就任早々にJ1リーグを1試合消化してからナビスコカップの2試合を挟んだことも効果的でした。ここで多くの選手を使う事でチームに一体感を作り、新体制としての準備になったと言えます。クラブとしてはメンデス監督の招聘は完全に失敗でしたが、監督交代のタイミングには成功したと言えるでしょう。
それで結果を即座に引き出せたのは、下平監督がU18の監督としてクラブの哲学を深く理解している事と、実際に自分が育成年代で直接指導して来た選手が多いチーム編成になっているからです。先発11選手の平均年齢が22歳代になることもあり、そのうちの7,8人が下部組織出身選手で固まっているのも偶然ではありません。
【注目選手編】に続く。後編では実際のチームの戦術的な変化や注目選手をご紹介いたします。