クラブの哲学を子供たちに。チェルシーFCサッカースクール東京・中島彰宏さんインタビュー 前編

Shootyのインタビュー企画・第二弾は、イングランドの名門クラブ・チェルシーが展開するチェルシーFCサッカースクール東京でテクニカルディレクターを務める中島彰宏さん。
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あのチェルシーが運営するサッカースクールとは、子どもたちに伝えるチェルシーのクラブ哲学とは、一体どういったものなのだろうか?そして選手から指導者の道へ転身した中島さんのサッカー人生とは?前後編に分けて迫ってまいります。

前編はチェルシーFCサッカースクール東京について聞いてみました。

チェルシーで定められたコーチングライセンスを取得

まずは、中島さんの現在のご活動について教えて下さい。

チェルシーFCサッカースクール東京という子供向けサッカースクールを東京の八王子市多摩地区を中心に運営しておりまして、僕自身は東京校のテクニカルディレクターという役職でコーチングスタッフの統括などを主に担当しています。

そもそもどういう経緯で、あのプレミアリーグのチェルシーの仕事に携わることになったのでしょうか?

まず、クラブと僕の間に共通の知り合いの日本人のスポーツトレーナーがおりました。その方のところに、チェルシーがアジアにサッカースクールを展開していて、日本に興味はあるもののまだ展開出来ておらず、誰か良い人材はいないか、という話が来たようです。そのトレーナーは、僕もお世話になっていた方で、当時たまたま僕がサッカーコーチの仕事をしていたこともあり、「興味あるか?」という話をして頂いたのがきっかけです。

一本釣りで中島さんに声がかかったのか、同じように何人か声がかかっていてその中で任されたのか、どちらなんですか?

候補者自体は何人かいたようです。コーチになるためにはチェルシーで定められたコーチングライセンスを取得しなければいけないので、みんな確約はなかったんですが。

そのコーチの資格はどのように取得するものなんですか?

普段はロンドンのクラブ内部で開催をしたり、アジアだと例えば香港で開催する時に、東京から新しいコーチを雇いたい場合は香港でコース開催するから候補者と一緒に行って取ったりするんですが、今回は東京校が新設されるので東京で行われました。

複数人のコーチが必要ということもあり、ロンドンからスタッフが2名東京に来て、全部で9名受講しました。内容は午前中講義をやって午後トレーニングセッション、つまり実技をやって、最後の日には子供たちに実際に実技を見せてコーチングするといった、筆記と実技を共にチェックしてパス出来るかどうかというプロセスが1週間ぐらいありました。

2012年に開校

なるほど。実際、運営スタートしたのがいつのお話ですか?

2012年です。

本国のチェルシーと日常的にどういったやりとりが生じたりするのでしょうか?

運営面であれば、活動内容や今後のプランを共有します。例えば、CSR活動をチェルシーでは重視していますが、今の日本であれば、被災地や幼稚園、児童養護施設を訪れたりします。すると、クラブの方で例えばユニフォーム配布の支援をしてくれたりします。


ロンドンのチェルシー本部とは綿密にやりとりを行っている

あとはコーチングに関しても、週1回または2週に1回程度は電話会議をして、今スクールに何人の子供が在籍していて、コーチは何人で各クラスに対応していて、どういう内容をやっているのかを共有しています。僕たちもクラブにレポートを上げますし、本国からも「今ロンドンではこういうトレーニングメニューをやっているよ」という共有が随時メールでやり取りされたりもしますね。

コーチングのノウハウのグローバルな共有が結構されているんですね。

はい、これを全くなしにしてしまうと、ロンドンのチェルシーFCが日本でやっている意味がないので、現地の良い内容のメニューは日本でも積極的に展開して行きたいと考えています。

チェルシーサッカースクールの特徴について教えて下さい。

チェルシーサッカースクールの運営には、チェルシーウェイというクラブの哲学が反映されています。加えて、先ほどお話したとおり、クラブと密着して活動しているので例えば夏に実際にロンドンのクラブに行って、トレーニングをやって、向こうのスクールやローカルクラブと試合をやったり、そういう場にファーストチームの選手が来て一緒にトレーニングする機会を得られたりします。

それは子供はうれしいでしょうね。

あとは、香港、シンガポールをはじめアジア内に10校展開しているので、例えば今は東京と香港でフレンドリーマッチをおこなうプランを考えたりしています。僕たちが香港に行って練習をして、香港のスクールとトレーニングマッチをやって、観光もしてという企画だったり、逆に日本に来てもらったり、ロンドン−日本間だけではなくて、色々な国の人たちと交流出来るチャンスというのはかなり多いと思うので、そこはチェルシーの特徴と言えると思います。

一生懸命頑張ること、自己表現をすること…そしてサッカーを楽しむこと

先程おっしゃっていたチェルシーウェイについて、もう少し詳しく教えて頂けますか?

チェルシーは日本の中でも有名で強いクラブと認知して頂いていると日々感じますが、サッカースクールに関しても強化色やチェルシーでプロ選手なるための近道なんじゃないかという先入観を持たれた方からの問い合わせが来たり、体験に来られる方が大勢います。ただ、実態は異なります。チェルシーウェイの中の1つはどれだけサッカーを好きになり、どれだけ仲間と色々な想いを共有出来るかであり、僕自身も3つのことをよくお話します。

まずは、どんなことでも一生懸命頑張ること、プレイもそうですし、仲間が何か困っているのであればそれを助けてあげる。次に自己表現をすること、プレイの中であれば、コーチの指示以外でも、自分が考えたことをプレイに出す。そういう自己表現を「コーチ、僕こんなこと出来るんだよ!」ってプレイで見せてくれてもいいし、サッカーに慣れていない子であればトレーニングセッションに来た時に、必ず僕はみんなと握手するので、その時に「この前の週末、家族で旅行に行ったんだよ」など僕に話してくれるだけでも、自己表現の一つだと思っています。セッションが終わった後に、家族でご飯を食べながら「今日チェルシーでこんなことをやったんだ」と親に話すとか、学校で自分から友達にそういう話をする、それがもう一つの自己表現だと思っているので、決してサッカーが上手くなければいけないとか、サッカーで表現しなければいけないということではありません。自分で何かを考えて人に伝える、考えて行動に移す、ということを重視しています。


チェルシーウェイと中島さんの子供たちへの想いは共通する部分が多い

一生懸命頑張ること、自己表現をすることが出来ていれば、3つ目になりますが、自然にサッカーを楽しむこと、これも出来るはずです。コーチや他の子供たちみんなで一喜一憂して楽しむこと、この3つというのが基本的にチェルシーFCサッカースクール東京で子供たちに求めるもので伝えていきたいことです。これがチェルシーウェイの中にも含まれている考えです。

なるほど。中島さんご自身の方針と、チェルシーウェイのリンクする部分なんですね。

日本で色々な子供たちに接していると、海外の子供と比べた時に自己表現が少し苦手なのかなと思うことがあります。プロでも、よくメディアでシュートを撃たないとか言われたりしますよね。なので、僕はそこを少し濃く伝えようとしています。

僕は教育のプロフェッショナルではないので分からないんですが、何となく感じるのは、日本人の良さは謙虚さなんだと思うんですが、これは恥の文化とも言えるのかなと。何か間違えたら、ミスをしたら、後ろ指を差されるから間違えるのが嫌だ、自分がミスするくらいなら確実にパスを出しちゃおうとか。色々な少年チームの練習も見学させて頂くんですが、やっぱり積極的な子というのはプレイして上手くいこうが、ミスをしようがおかまいなしにガンガンプレイ出来る。そういう子は、学校の授業でも先生にこれ分かる人?って聞かれたら、積極的に手を挙げて答えることも出来ると思うんです。

たしかに。でも、圧倒的にモジモジして、「先生、私のこと指さないで!」と思っている子の方が積極的な子より多いですよね。

逆に手を挙げられない子というのは、2種類いると思っています。1つは、もう本当にこの問題が分からないという子供。もちろん、分からないのなら手を挙げられないのでこの場合は仕方ないと思います。もう1つは、答えは頭の中にあるものの、間違えたら嫌なので手を挙げない子供。もし間違えたら恥ずかしい、もし間違えたら周りの友達から「あいつ間違えて、だせぇ」と言われるのが嫌なので、だったら手を挙げないでおこう、そうすれば言われることはないので。でも、それってある種自己表現が出来ていないということなので、僕はそれをサッカーの現場にいるので、その子に対して「いやいや、気にしないでいいよ」「いっぱいトライして答えたりプレイすればいいよ」って言います。

ただ、多分子供なりに、「いやコーチ、頭では分かってるんだよ」って思っているのかもしれない。であれば、僕はその子に対してだけ言うのではなく、サッカーの環境、例えば11人であれば11人のみんな、その子以外の10人、もしくはその子含めて11人に対して「もし間違ったとしても、恥ずかしいことなんて何もないでしょう」というそういう環境をまず作りたい。当たっていればすごいね、間違っていればみんなで教えてあげる、別にそれは恥ずかしいことじゃないという環境が作れたら、分かっているけど手を挙げないという子が少しずつ積極的になれるんじゃないかなと。それがサッカーのグラウンド内であれば、他の子がパスを要求してきても、自分が思い描いたプレイがシュートならばシュートを選択出来るんだと思います。


自己表現することの重要さを伝えたい

僕はチェルシーに入る前から思っていたことがあって、上手い子は積極的にやるし、上手くない子はどうにかして上手い子の邪魔しないかみたいな行動を見ていて、この子たちってサッカーやってて楽しいのかな?上手い子は、上手くない子がミスすると「おい、ミスするなよ」とか言い続けていて、お互い楽しいのかな?って。サッカーは全員でやるスポーツなのに、全員が楽しくプレイ出来てるのかな?と。そんな時にチェルシーのサッカースクールの話が来て、チェルシーウェイについて学んだり、向こうのコーチと話した時にコーチングの質とかのテクニカルな部分よりも、子供たちへの接し方とか子供たちに友達と一緒に楽しむことの重要性に気づかせることが大切なんだという考えを聞くことが出来、僕が今までずっとモヤモヤしていた部分と合致したので惹かれたんです。

じゃあ、スクールが下部組織的な位置づけみたいな面は特にないということなんですかね?

チェルシーFCのファーストチームの下部組織ではないです。もちろん、下部組織自体は存在するんですが、UEFAの規定でまず日本から18歳未満の子が入ること出来ません。そういう質問とか問い合わせもあるんですけど、そういう制度自体が今ないんですとお答えするようにしています。

チェルシーの本場ロンドンのトレーニングを取れ入れられたりするにあたって、イギリスと日本の違いを踏まえ、内容をローカライズすることもあるのでしょうか?

トレーニングに関してはチェルシーウェイを組み込んだメニューが現地で作られています。それをそのまま、もちろん取り入れても良いですし、もしくは、日本人の個性や競技レベルに応じてアレンジしたりします。ただ、チェルシーウェイを外れるようなアレンジはありません。例えば、ポイント制で得点を競うようなメニューを日本で行なっても、日本の子供たちは点を決めても別に嬉しいのか嬉しくないのか分からないようなことがあります。得点を取った人だけが偉いみたいになって、それを取り巻くみんなというのは何か関与していなかったかのように、点を取っても下を向いて戻ってくるみたいな。そういうことが往々にしてあるので、仮に5対5のミニゲームをやった時に、一人がもしドリブルで全員抜いて点を決めたとしてもチーム全員で、例えば輪になって喜ぶパフォーマンスをしたりとか、そういうみんなで喜ぶパフォーマンスをやらないとノーゴールにするとかそういうルールをプラスしたりします。

それでみんなで点を取ったということを共有して、まぁもちろん恥ずかしがって最初は小さくやったりするんですけど、それでもちょっとずつやると、その内、点を取ることよりも休み時間に今度のパフォーマンスあれやろうよとか、そんな話をしているので、それで僕は全然良いと思っています。みんなで考えたこの喜ぶパフォーマンスをするために点を取らなきゃ、守らなきゃ、勝たなきゃいけない、どんどんステップアップしていって、休み時間に次どういう風にオフェンス、ディフェンスするとか自分たちで考えて共有することが大切だと思います。

チェルシーFCサッカースクール東京公式サイト

後編では中島さんのサッカー人生に迫っていきます。

インタビュー後編

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