2018シーズンよりJ1リーグを戦うV・ファーレン長崎。前ジャパネットたかた社長の髙田明氏が経営に参入し、クラブは右肩上がりの成績を残した。
髙田明氏が債務超過や給与未払いといった問題を解決し、クラブを上昇気流に導いたのは間違いないが、他にも長崎の躍進を影から支えた人物がいる。
辻秀一。2017年8月にV・ファーレン長崎のメンタルアドバイザーに就任したスポーツドクターだ。辻メソッドと呼ばれるメンタルマネジメント法はスポーツ界だけでなく、ビジネス界や芸能界にも支持されている。
フットボールは技術なしに勝つことは不可能であるが、メンタルという軸を無視することはできないだろう。長崎という小さな街のクラブが掴み取った栄光は、少なからずメンタルトレーニングによるものがあるのかもしれない。
今回は辻秀一先生にV・ファーレン長崎のJ1昇格の舞台裏からスポーツにおけるメンタルの重要性まで話を伺ってきた。
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辻秀一先生 インタビュー
——宜しくお願いします。辻先生がV・ファーレン長崎にどういう携わり方をされているのか詳しく教えて下さい。
(辻)最初のきっかけはジャパネットが経営参入することになった時なんですよね。僕はこの仕事を始めて20年近くなるのですが、もともと慶應病院で内科医をしていました。ある時から患者さんを診るよりも元気な人を育てていきたい思いが出てきて、スポーツ医学研究センターに携わるようになったんです。その時は大学の体育会などのサポートをしたり、メンタルについての勉強を始めたりしました。その時はじめてサポートしたのが慶應大学体育会バスケットボール部なのですが、僕は整形外科医ではないから怪我人を診る訳ではないし、強くなるための総合的なスポーツ医科学をチームに還元していました。
——当時はまだ辻先生自身がメンタルのプロとして活動されていた訳ではなかったんですね。
(辻)そうなんです。当時は30代で若かったので、一緒に練習したり、掃除したりもしているくらいでした。そういう中で思ったのが、いくら栄養学したって、良いトレーニングしたって、最後はメンタルなんじゃないかということだったのです。最後に行動や結果を決めていくのはメンタルだと。そこで行き着いたのが応用スポーツ心理学でした。それが36歳か37歳の時です。
——そこから辻先生のスポーツ医学、スポーツ心理学が誕生したんですね。
(辻)はい。そこからはどうやってアクションをしようかという時に、皆さんご存知のスラムダンクという漫画がヒットしまして、この漫画と自分のスポーツ心理学を絡めながら一つ形にしようとなりました。もちろん著作権に引っかかりまくりなので、スラムダンクの井上雄彦先生にご挨拶に行ったところ、面白い話だとご賛成を頂けて出した本が、スラムダンク勝利学です。おかげさまで40万冊近く売れたのですが、それを読んだ週刊ダイヤモンドの方から「スポーツ心理学をビジネスに活かす」という連載を依頼されました。それを始めてすぐにジャパネットたかた様の方からご連絡を頂いて、人材育成のために定期的にメンタルトレーニングをしてほしいと声をかけて頂きました。
——そんなご縁があったんですね。スポーツ心理学やメンタルトレーニングに対して否定的な見方をされることはありませんでしたか?
(辻)僕がメンタルトレーニングを始めた頃はまだまだ普及していないので、本当に効果あるの?みたいな見方をされることが多かったですね。ただジャパネットたかた様には僕の考えを大切にして頂いて、新卒社員からベテラン社員まで幅広くビジネスマン向けのトレーニングをさせてもらっています。僕自身もジャパネットたかた様に成長させて頂いて感謝しているんです。
——辻先生のトレーニングが形になられた、会社側も業績向上など目に見える成果があったのですよね。
(辻)嬉しいことですよね。サッカー界では北海道コンサドーレ札幌の都倉賢選手のトレーニングをしていましたが、彼のメンタルも変わってきたなと実感しています。他にも阪神タイガースの秋山拓巳投手やプロテニスの杉田祐一選手、プロゴルファーの有村智恵選手、LDH所属のアーティストさんにもご縁を頂いているところです。
そして、髙田明さんの息子である髙田旭人さんがV・ファーレン長崎に携わるようになられてから、私と髙田旭人さん、そしてフィジカルアドバイザーとして為末大さんの3人で上手く連携してJ1昇格を目指そうという話になりました。それからシーズン途中でしたが、メントレをするようになったんですよね。とにかく選手たちに伝えていたことは、「するべきことを質高くやる、機嫌良くやる」という状態に関係なくやるメンタルを植え付けました。
僕風にいうFLOW DO IT!!です。この考えが現場の責任者である高木琢也監督からオーナーの髙田明さんまで同じ理解を得られたことがチームとして大きかったのかもしれません。選手たちもとにかく素直な連中たちばかりでした。監督、選手、オーナー、強化担当、会社が私のトレーニングや考えに賛同してくれる最高の環境だったので、昇格という一つ分かりやすい形でV・ファーレン長崎に効果が表れたのかもしれないですね。
メンタルで優勝や昇格、勝利は得られないですけど、最後のワンピースとして役に立てたかなとは思います。メンタルで勝利は得られないけど、メンタルがないと勝利は得られない、矛盾しているように聞こえるけど、そんな気がしています。
——確かに勝利にメンタルは不可欠な気がしますよね。辻先生が慶應大学バスケットボール部でスポーツ心理学やメンタルトレーニングを始められてから、現在のようにV・ファーレン長崎に携わるようになるまで、変わってきた考えや変わらない考えってありますか?
(辻)いい質問ですねえ(笑)変わらないことは、全ての行動やパフォーマンスには質が存在していて、その質を決めるのがメンタルだという考え、断固たる想いですね。僕のやっていることはメンタルトレーニングが中心なんですけど、結局言いたいのは質の存在と価値に気づいてほしいということです。そして、その質を決めるのがメンタル、心だと。ただDO IT!!じゃなくてFLOW DO IT!!することの大切さはブレてないですよね。逆に変わってきたことは、慶應大学バスケットボール部を指導していた頃に持っていたセルフイメージやコンセプトという考えよりは、FLOW DO IT!!に変化してきましたね。つまり、どうせやるなら機嫌良く物事をやることが大事だということです。
——フローの状態を作り出すことはとても難しそうですね。辻先生のフローの概念がV・ファーレン長崎の選手たちに浸透していくのを感じることはできましたか?
(辻)選手たちの脳にライフスキルの考えが活かされているのは感じますね。脳のトレーニングなので、選手たちの使う言語で変化を感じることが多いです。ゴールキーパーの増田卓也選手は興味も高く、メンタル面でかなり成長したと思います。ただアスリートや企業はそれぞれ違う特性を持っているので、人によっては吸収しやすい、しづらいというものがあるんですよね。僕はその中でも何か彼ら彼女らのメンタルを成長させるためのきっかけを掴んでほしいし、それができれば人生がとても好転していきますよね。
——選手たちのメンタル面の成長を肌で感じることができるのはすごく喜ばしいですね。最後に辻先生からスポーツやメンタルという視点でメッセージを頂けますか。
(辻)2つあると思っています。1つはスポーツは文化だということ。スポーツをしていれば負けないことなんて不可能ですから、スポーツを楽しむことが大切です。心をマネジメントするライフスキルはスポーツだからこそ得られると思っています。スポーツでしか得られない経験はたくさんありますけど、心やメンタルの育成は大きな要素ですね。もう1つは繰り返しになりますが、全ての行動には質があるということ。普段何気なくやっている行動やパフォーマンスに質を高めることを意識してほしいです。質を意識した生活ができれば、その行動から得られる効果が一石五鳥になるのも夢じゃないと思いますよ(笑)
-プロフィール-
氏名:辻秀一
1961年東京都生まれ。北海道大学医学部卒業、慶應義塾大学で内科研修を積む。
その後、人の病気を治すことよりも、「本当に生きるとは」を考え、人が自分らしく心豊かに生きること、すなわちクオリティーオブライフ(QOL)のサポートを志す。
スポーツにそのヒントがあると閃き、慶大スポーツ医学研究センターでスポーツ医学を学ぶ。
99年、QOL向上のための活動実践の場として、株式会社エミネクロスを設立。
スポーツ心理学を日常生活に応用した応用スポーツ心理学をベースに、個人や組織のパフォーマンスを、最適・最大化する心の状態「Flow」を生みだすための独自理論「辻メソッド」でメンタルトレーニングを展開。エネルギー溢れる講演と実践しやすいメソッドで、一流スポーツ選手やトップビジネスパーソンに熱い支持を受けている。スポーツドクター辻秀一 オフィシャルサイト
スポーツドクター辻秀一 オフィシャルFacebook
NPO法人エミネクロス・スポーツワールド オフィシャルサイト