選手の宝庫だからこそできる浦和レッズのターンオーバー制

ターンオーバー(Turn Over)という単語を御存じですか?
何となく聞いた事がある程度で、意味はご存じ無い方が多いのではないでしょうか。
実は様々な意味を有する英単語です。「転倒」、「転覆」、「回転率」、「総売上高」、「折り返し」、「始動」等の意味を持ち、状況に応じて使い分けられます。

サッカーの世界では「スターティングメンバーを大幅に入れ替える事」という意味で用いられています。
ターンオーバー制を採用するチームは、試合数が多い上に、豊富な戦力を持っているクラブだと言う事ができます。
その実例を、浦和レッズを例に考察してみましょう。


by 浦和レッズHP

前年上位クラブは出場試合が増える

2年間限定の2シーズン制最後の年だった昨年のJ1。浦和レッズは見事に年間勝ち点1位になったものの、変則システムのチャンピオンシップで鹿島アントラーズに敗れて年間チャンピオンという称号を手にする事ができませんでした。
   
Jリーグ所属クラブにとっては、最大の年間目標はJリーグ制覇にあります。然しながら、年間のシーズンには、リーグ戦以外にもいくつかのタイトルが懸った闘いの場が用意されています。
   
特に前年のJリーグ成績上位クラブには、より多くの場が用意されています。上位クラブの選手は、出場する試合が増えるので心身共に大変になりますが、クラブとしては観客動員収入や賞金が増えるので、経営面では優位になる事ができます。
   
さて、Jリーグ全てのチームが参戦できる大会と、今シーズンの浦和レッズが参戦する更なる大会を列挙してみます。

   ≪全てのJリーグチーム≫
    ①Jリーグ
    ②ルヴァンスカップ
    ③天皇杯
   ≪浦和レッズ≫
    ④さいたまシティカップ  
    ⑤FUJI XEROXスーパーカップ(参照:https://shooty.jp/9982
    ⑥AFCアジアチャンピオンズリーググループステージ
    ⑦スルガ銀行チャンピオンシップ(参照:https://shooty.jp/9616
    ⑧AFCアジアチャンピオンズリーググループステージ(⑥のステージを通過した場合)
   
更に、日本代表に選出される選手は、代表戦が付け加えられることになります。
   
この様に、今シーズンの浦和レッズの場合、Jリーグクラブとして参戦できる基本的な大会にプラスして、地元の大会、アジアの大会、日本の代表としての大会が予定されています。
   
つまり、年間を通じてたくさんのゲームをこなさなければならないのです。 
当然、怪我する選手も出て来ますし、疲労を蓄積する選手も出て来ます。
   
その為に、常に同じスタメンで闘うのではなく、ターンオーバー制によって出場選手の入れ替えを行いながら、長いシーズンを乗り切っていく必要があるのです。
    

by 浦和レッズHP

栄誉と疲労が交錯するアジアの闘い

年間を通じて最も過酷なのがAFCアジアチャンピオンズリーグのアウェイ戦です。アジアナンバー1クラブを決するこの大会に、Jリーグ上位4クラブが参戦しており、浦和レッズのグループFで闘っています。
  
Jリーグのゲームの合間を縫って、海外の敵地に赴きゲームをこなし、即日本に帰国してすぐに又Jリーグを闘うのです。
観光で海外に行くのでさえ疲れるものですが、90分以上のサッカーの真剣勝負をしに行って、一息休息をする間も無く帰国するのですから、これは大変です。
  
浦和レッズのグループFの相手は、ウェスタン・シドニー・ワンダラーズFC(オーストラリア)が最も遠く南半球。季節も全く逆です。
  
上海上港(中国)、FCソウル(韓国)は海外とは言え隣国なので比較的至近距離ですが、もしも中東のチームが同じグループだったら、心身の疲労は更に広がったことでしょう。
  
Jリーグのクラブは2007年の浦和レッズ、翌年のガンバ大阪の2チームしか、Jリーグクラブはアジア王者に輝いてはいません。
ですから、10年振りのアジア王座を目指して、今シーズンの浦和レッズはJリーグの名誉とクラブの栄誉を懸けて闘っています。
  
その名誉と栄誉を勝ち取る為に、選手の疲労を分散する目的で、ターンオーバー制が欠かせないのです。 
    

by jleague.jp

選手層の厚さがあってのターンオーバー制

スタメンの選手を入れ替えて大会に臨むとは言え、チーム力を下げて闘いに臨む訳にはいきません。
Jリーグクラブにとって、Jリーグ制覇が最大の目標とはいえ、アジアチャンピオンズリーグに参戦できるクラブには、アジア王者の称号が待ち構えており、年末のクラブW杯への出場権利も与えられるのです。
  
二兎を追う物一兎も制せずとなっては元も子もありませんが、できるだけ戦力を分散しながら、両リーグ制覇を目指さなければなりません。
選手の疲労分散を目的にしているとは言え、分散できるだけの選手がいない事にはターンオーバー制もままなりません。
  
レッズには2007年に悔しい想い出があります。当時のオジェック監督は、ターンオーバー制を採らず、Jリーグもアジアチャンピオンズリーグもほぼ同じメンバーを固定して闘いました。
  
甲斐あって、Jリーグクラブとして初のアジア王者になる事ができましたが、Jリーグは2連覇寸前まで行きながら、最終節で力及ばずに連覇を逃してしまったのです。
  
明らかに両リーグに真っ向から闘いを挑んだ事による疲労が大きな原因で、最期は力尽きた感がありました。あの時でさえ豊富な選手層を抱えていましたが、現在の浦和レッズには、それ以上の選手層の厚さが備わっています。
  
ですから、ペトロビッチ監督(以降、ミシャ監督と記載)は、迷う事なくターンオーバー制を口にします。全員を変える事はありませんが、程良く選手を入れ替えながら、両リーグの制覇を狙っています。 
        

by 浦和レッズHP

誰が出場しても遜色無い豊富な選手層

浦和レッズの選手層の厚さを具体的にご紹介しましょう。今シーズンのスタメンと、それ以外の選手でもう1チーム作ったらどうなるかで示してみたいと思います。

今シーズン開幕戦の浦和レッズのスタメンは、
  
GK西川周作選手、CB遠藤航選手、右SB森脇良太選手、左SB槙野智章選手、ボランチ阿部勇樹選手、ボランチ青木拓矢選手、右ウイング駒井善成選手、左ウイング宇賀神友弥選手、シャドー柏木陽介選手、シャドー興梠慎三選手、ワントップ・ラファエル・シルバ選手という布陣でした。
  
同じ布陣で第2浦和レッズを編成してみましょう。
  
GK榎本 哲也選手、CB那須大亮選手、右SB平川忠亮選手、左SB田村友選手、ボランチ菊池大介選手、ボランチ矢島慎也選手、右ウイング関根貴大選手、左ウイング長澤和輝選手、シャドー武藤雄樹選手、シャドー李忠成選手、ワントップ・ズラタン選手という布陣が筆者の選択です。
  
特に前の5人は、常にスタメンとして入れ替わり出場している選手なので、第2布陣と言うのは憚れる存在です。
更に言えば、故障離脱している、梅崎司選手、高木俊幸選手も、怪我が治癒するとこのメンバーに加わります。
  
こんな豪華な編成ができるのも、浦和レッズならでは。これだけの戦力を抱えているので、Jリーグとアジアチャンピオンズリーグ、そしてカップ戦において、ターンオーバー制を容易に行う事ができるのです。
  
その上で、どの選手が出場しても、ミシャ監督の標榜する攻撃サッカーの質が下がる事が無いのは、浦和レッズを率いて6年の成果であり、浦和レッズの最大の強みと言えます。


by 浦和レッズHP

ターンオーバー制は、試合数が多いクラブが選手の疲労分散を目的に行う起用方法の事で、選手層が厚いクラブでない限り容易に実現できない仕組みです。
Jリーグ随一の選手層を誇る浦和レッズだからこそ、ターンオーバー制を上手く利用して、日本とアジアの両タイトルを狙って欲しいと願っています。

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