UAE戦、タイ戦と連勝してW杯アジア最終予選グループB首位に立ったサッカー日本代表。連戦前には不動のキャプテン長谷部誠選手が怪我に見舞われて出場ができなくなった事から、チーム編成とリーダーシップが不安視されましたが、見事な連勝でした。
特に、アウェイでのUAE戦は、鬼門に位置付けられていたので、このゲームを勝利した事はとても重要でした。不在の長谷部選手に代わって出場したのはガンバ大阪の今野泰幸選手(以降、今野選手と記載。)。単にポジションを埋めただけではない見事な活躍でした。
目立たない選手なのですが、とのチームにいても存在感を発揮し続けています。
Yasuyuki Konno celebrated a dream return for Japan with a goal in their 2-0 World Cup qualifying win over UAE https://t.co/FTWMtc3lFa pic.twitter.com/QFjUewJVUm
— J.LEAGUE Official EN (@J_League_En) 2017年3月24日
捨てる神あれば拾う神あり
今野選手は1983年仙台生まれの34歳。既にベテランの域と言える選手です。地元の東北高校在学中に全国高校選手権に出場しますが、とりたてて注目を浴びた選手ではありませんでした。
Jリーグ各クラブからの誘いも無いまま、地元企業のソニー仙台への就職も内定していた高校卒業直前に、急転直下事態は動いたのです。人生は本当にわからないものです。
コンサドーレ札幌の練習に参加した今野選手は、当時監督だった元日本代表監督の岡田武史さんの目にとまります。各クラブからノーマークだった今野選手は、既に就職先が内定したいましたが、プロサッカー選手の道を選択したのです。
コンサドーレ札幌の選手になった今野選手は、2001年シーズンからJリーガーとしての人生をスタートさせました。
今朝の毎日に”今野選手にエール”の記事。ノノ社長「印象薄かった。才能ないから武器を磨いて代表に選ばれたのは若い選手に勇気を与える」ファン「ファンにはいつまでも”コンサの今野くん”」当時の写真も懐かしくていい。#consadole pic.twitter.com/bxSSdyMGet
— 北海道コンサドーレの裏情報局 (@ura_consa) 2014年5月13日
圧倒的な対人能力の高さ
今野選手はコンサドーレ札幌に入団して以来、二度クラブの移籍を経験しています。2004年にFC東京へ、2012年にガンバ大阪に移籍しています。その間、各クラブでコンスタントに出場を重ねています。
入団後2年間は得点がありませんでしたが、3年目から昨シーズンまで、全てのシーズンで得点を上げています。ドリブル突破能力や、高いシュート精度を持ち合わせている選手ではありませんし、主としてボランチで起用されているので、コンスタントな得点結果には驚かされます。ここぞというチャンスをものにする嗅覚がある気がします。
プレイスタイルの特徴は、ずば抜けた対人能力と相手ボール奪取能力にあります。決してサッカー選手としては体格に恵まれている訳ではありませんが、球際に強く競り負けません。失礼を承知で書かせて頂きますが、重心が低いので、どっしりと構えていて、倒れないですし、踏ん張りが利いている様に筆者には見えます。
大きな相手が来てもひるむ事ない精神力もありますし、何よりも相手の懐に入る身体の使い方が上手い選手です。その上で、相手のパスカットをする頻度が高いのは、それだけボールをピッチ全体で見渡せている証拠です。
サッカーはボール回りだけでゲームをしているのではなく、オフザボールの動きが重要で、ボールの無い場所で如何に次の一手を考えて行動てきるかで結果に違いが現れます。
その意味で、今野選手は、ゲーム全体の動きを、自分自身で俯瞰できている稀な選手だと筆者は評価しています。
by japantimes
今野選手ならではのプレイスタイル
今野選手を観ていると、東北魂と言った言葉が去来します。大地に根を張り、どっしりとしていて、辛抱強く、諦めない。仙台出身ですから、東北の中で最も大都市に生れ育っているのですが、都市特有の洗練としたスタイルではない、泥臭さと明るい男らしさを感じるのは、筆者だけではないと思います。
難を言えば、パスかもしれません。自分自身で動いて、活路を開く事は得意ですが、自分からのパスで前線を打開するという、ゲームコントローラーとしての力量は不足しているかもしれません。
守備的なボランチというポジションで、粘り強く相手を追いまわしてスペースを消し、相手のパスをインターセプトして反転する事、もしくは自らが飛び込んで行く事は得意としていますが、周囲を活かす選手ではない気がします。
ですから、相方となるボランチや、フォーメーションによっては前線のトップ下の選手にその能力がある選手がいると、とても活きて来る選手です。
それにしても、所属クラブでも代表チームでも、プレイ内容はとても安定しており、プロになって17年間コンスタントにサッカーができているのは、今野選手の代役がいない位にオリジナリティに溢れているからだと筆者は思っています。
by jleague.jp
昇格降格を三度経験
現在まで所属した3クラブで、今野選手は珍しい記録を経験しています。それは3クラブ全てでJ2降格J1昇格を経験しているという事です。
J1のクラブが下位カテゴリーのJ2に降格するのは残念な事です。どのJ1クラブも、J1の選手達も、みな同様に降格する事だけは経験したくないという想いでシーズンを戦っている筈です。
今野選手も同様に、各クラブで頑張って来ましたが、残念な事に在籍した全てのクラブでJ2降格を経験しています。
コンサドーレ札幌ではJ2降格翌年J1復帰を決めてFC東京に移籍。FC東京でもJ2降格決定翌年にJ1復帰を決めてガンバ大阪に移籍しています。
3つ目のクラブとなったガンバ大阪でも移籍初年度の2012年シーズンでJ2降格が決定しますが、翌年見事1年でJ1復帰を果たす立役者として活躍しました。
そもそもガンバ大阪というアジアチャンピオン経験クラブがJ2に降格する事自体が、衝撃的な出来事でしたが、自身三度目の降格も過去の例と同じく、1年でJ1に復帰させる原動力となりました。
三度の降格経験も珍しい上に、三度とも翌年昇格というのも見事な経験と言えます。
by goal
貴重なアウェイでのゴールで代表復活
早熟なサッカー選手ではありませんでしたが、U19時代から日本代表に選出されて、アテネオリンピック、W杯南アフリカ大会、W杯ブラジル大会に出場経験があります。
代表選出回数88回は、本田圭佑選手と並んでランキング10位。あと1試合出場すると、キングカズこと三浦知良選手の記録に並びます。
代表での得点は3得点ですが、この3得点目が、今年3月23日のW杯アジア最終予選UAE戦での得点でした。
2005年から選出され続けていた日本代表に、2016年には選出される事が無くなっていました。久々に召集されたこのゲームで、貴重なアウェイでの追加点を決めてくれました。
右サイドの久保裕也選手からのクロスの精度が高かったとはいえ、原口元気選手が斜めに切り込む裏のスペースに回りこんで、ほぼフリーの状態でゴールを決められたのも、今野選手のオフザボールの動きが見事だったからに他なりません。
キャプテン長谷部選手の不在が懸念されたゲームで、見事にボランチの役割以上の活躍を見せてくれた今野選手でした。このゴールをご覧になった皆さんは多い事でしょう。
by japantimes
見事な活躍をしてくれたアウェイのUAE戦で怪我をしてしまった今野選手は、埼玉スタジアム2002で行われた2017年3月28日のタイ戦には出場が叶いませんでした。怪我の状態は酷い事ではない様なので、Jリーグにも早晩戻って来てくれる筈です。
今シーズンは開幕から絶好調の状態でしたので、代表戦で怪我をしてしまったのは残念でした。しかし、持ち前の頑張りで、あの愛らしい笑顔と共に吹田のピッチに戻って来てくれるでしょう。