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因縁めいた入替戦に挑む日本代表主将MF長谷部誠~代表でもドイツでも重宝される「ミスターコンステンシー」

hirobrown

2016/05/23 20:00

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NEWS

長谷部誠1
by YouTube

すでに国内リーグを終了し、あとは国内外のカップ戦決勝を残すのみとなった欧州サッカーのシーズン。優勝の行方はもちろん、来季は2部リーグからの昇格を決めたチームもあれば、1部から2部への降格に至ったクラブもあります。
ドイツ・ブンデスリーガ1部リーグでは、9年前にリーグ優勝を果たすなど過去5回のリーグ優勝を誇る名門・シュツットガルトが2部降格。かつて日本代表FW岡崎慎司選手(現・レスター・シティ/イングランド)とDF酒井高徳選手(現・ハンブルク/ドイツ)が同時に在籍していたこともあって日本では著名なクラブになりましたが、今季は17位でシーズンを終え、来季は2部へ自動降格します。
そして、ドイツでは1部リーグ全18チーム中の16位でフィニッシュしたチームと、2部で3位に入ったチームが来季の1部リーグに参戦できる18チーム目の座を賭け、ホーム&アウェイの2試合で直接対決する入れ替え戦プレーオフがあります。
今季はその1部リーグ16位に入ったのが、日本代表の主将を務めるMF長谷部誠選手が所属するフランクフルト。しかもフランクフルトと対戦する2部3位に入ったのは、長谷部選手の前所属クラブであるニュルンベルクです。長谷部選手にとっては因縁めいた対戦になりました。

リーグ優勝も経験。ドイツで9季を過ごす日本代表主将~”和製カカー”から攻守の要へ大きく変貌

長谷部誠2
by スイス代表ニュース

今季でドイツでのプレーが9シーズン目となった長谷部選手。ドイツで最初に加入したクラブはヴォルフスブルクでした。2008年1月というシーズン途中からの加入ながら出場機会を掴み、半年でチームとドイツのサッカーに適応。そして、翌シーズンには主力選手としてクラブ史上初のブンデスリーガ優勝にも貢献しました。ただし、そのポジションは日本代表でも定位置を掴んだボランチではなく、右サイドMFや右サイドバックなど。自身が希望するポジションではなく、定位置を見出したとは言えない状況でした。
さらに、ヴォルフスブルクはメインスポンサーである地元の世界的自動車メーカー=フォルクスワーゲン社が多額の強化費をつぎ込んで代表クラスの選手を次々と獲得してくるため、どんなポジションでも器用にこなして結果を出してきた長谷部選手と言えども、徐々に立場が危うくなって来ました。
とはいえ、長谷部選手は常にプレーの幅を拡げて来た選手でもあります。日本のJリーグでは藤枝東高校を卒業後、2002年に加入した浦和レッズ一筋にプレーした長谷部選手。浦和時代のプレーからついたニックネームは「和製・カカー」。カカー選手は2006-2007年シーズンのUEFAチャンピオンズリーグを制して[FIFA世界最優秀選手賞]を受賞するなど、ACミランに所属していたブラジル代表の攻撃的MFの選手です。
端正なルックスはもちろん、中盤から自らドリブルで持ち上がって得点まで決めてしまうプレースタイルに最も魅力があったカカー選手。浦和時代の長谷部選手もまた、加入当初は攻撃的MFとしてプレー。ただ、チームが快速3トップを武器にする戦術を採っていたり、ロブソン・ポンテ選手や小野伸二選手など2列目には世界レベルのタレントが揃っていたため、長谷部選手はポジションを1列目下げてボランチとして定着して行きました。それでも当時の長谷部選手の特徴と言えば、ボランチながらも中盤で自らドリブルで駆け上がって直接多くのゴールに絡むプレーでした。ボランチ像としては異端に見えるプレースタイルこそが彼の魅力だったのです。今改めて考えると、2列目で起用できなくても何とか先発に組み込ませようとボランチ起用に至った当時のハンス・オフト監督やギド・ブッフバルト監督の起用法は大胆かつ斬新だったように思います。
長谷部選手をレギュラーに据えた浦和は2003年にヤマザキナビスコカップ、2005~2006年度の天皇杯の2連覇、2006年のJ1リーグ、2007年のAFCチャンピオンズリーグ、と毎年のように主要タイトルを獲得。そんな長谷部選手が2008年1月にドイツへ移籍後、実は浦和は1度も主要タイトルを獲得していません。昨年も明治安田生命J1リーグ第1ステージこそ制覇したものの、年間優勝はならず。長谷部選手の偉大さはこんなところでも際立っています。

そんな長谷部選手はリーグ優勝を経験するなど5シーズン半を過ごしたヴォルフスブルクで、ドイツのサッカーに適応するためのボール際のタフな守備力を体得。フィジカルの強化はもちろん、体格で劣るために緻密なポジショニングにも力を注いだことで戦術眼や判断力も磨かれ、日本代表でもボランチのレギュラーに定着しました。
そして、ドリブルから得点に絡むプレーに特徴があった攻撃的な選手だった長谷部選手は、いつしか日本屈指のボランチとして攻守のバランスを取れる選手となり、今では守備面での方が目立つ選手となりました。<4-3-3>というシステムで中盤の底を1人でこなすアンカーの役割は、現在の日本代表では長谷部選手にしか任せられないぐらいに変貌を遂げました。
2010年のFIFA南アフリカW杯直前には日本代表のゲームキャプテンに急遽就任し、チームのベスト16進出に大きく貢献。ある日本代表経験の豊富なベテランMFの選手が『変えていく勇気』という書籍を出版しましたが、長谷部選手ほどの変貌を遂げた選手は他にはいないでしょう。

プレーの幅を拡げ、信頼を獲得し、ドイツでも主将を務める

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by bundesliga.com

どんなポジションもこなし、プレースタイルを大幅に拡げ、ピッチ内外でも真摯に務める長谷部選手。ドイツで長くプレーする彼には当然ながらドイツ国内でも高く評価されています。
2013年、ボランチでの出場機会を希望して移籍したニュルンベルクではボランチとしての出場機会だけでなく、キャプテンマークも巻きながらプレーする事もありました。
しかし、そのニュルンベルクでは全く結果が出せませんでした。内容は良くても引き分けが異常に多く、勝ちきれなかったのです。
1シーズンに3度の監督交代があり、長谷部選手もちょうどシーズンの折り返し地点で長期離脱となる怪我を負ってしまい、後半戦は最終節直前まで欠場。最終節、チームの1部残留へ僅かな望みを託された長谷部選手はキャプテンマークを巻いて強行出場。しかし、惨敗に終わって2部降格が決定してしまいました。
しかも、なんとこのシーズンの前半戦を未勝利(11分6敗)で終えていたニュルンベルク。長谷部選手は出場したリーグ戦14戦全てを未勝利で終えたまま、1年での退団に至りました。契約事項に「2部へ降格した場合は選手側から契約解除ができる」との条項を加えていた事も波紋を呼びました。

ニュルンベルグでの苦闘、フランクフルトでの復活~そして因縁めいた入替戦での直接対決へ

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by SOCCER KING

せっかく見つけたはずの理想の環境で結果を出せず、負傷の影響が濃いままでのプレーを余儀なくされた直後のFIFAブラジルW杯でも未勝利で惨敗。負傷を抱えてフル出場できない長谷部選手の起用法を巡っては当時のアルベルト・ザッケローニ日本代表監督に批判が集まりました。
しかし、どんな試合展開やどんな戦術にも対応でき、ミスも少なく、いかにも”ミスター・コンステンシー”(安定感)と言えるキャプテンの復帰をザッケローニ監督は最後まで待ったのでしょう。それを待つに値する選手であるパーソナリティの持ち主であるのも日本だけでなく、ドイツでも認められている長谷部選手だからこそです。

そして、長谷部選手が積み重ねた経験をフランクフルトは見逃しませんでした。「引退してもスタッフとして残って欲しい」との厚い信頼を見せてくれたクラブで加入1年目からレギュラーとしてプレー。初年度はドイツ移籍後最多のリーグ33試合に出場。決してタレントが多くはないチームが魅力溢れる攻撃サッカーで高い評価を受け、9位と躍進する原動力になっていました。
ただ、加入2年目となった今季は開幕前にフロントが揉めて監督交代があり、長谷部選手は再び右サイドバックでの起用が多くなりました。チームも成績が芳しくなく2部降格圏内に沈み、残り9試合となったタイミングで再び監督交代。ただ、そのニコ・コバチ新監督が長谷部選手をボランチとして固定しました。すると、長谷部選手は第31節、マインツ戦でブンデスリーガでは約3年ぶりの得点を挙げ、続く第32節、ボルシア・ドルトムントでは決勝点のアシストを記録するなど2部降格濃厚の絶望の淵からチームの3連勝に大きく貢献。何とか入れ替え戦行きとなる16位でシーズンを終える事が出来ました。(最終節に残留争い直接対決となったブレーメン戦で88分に決勝点を奪われて敗れたあの試合に引き分けていれば・・・はもう禁句です。)

その因縁のプレーオフはすでに19日に第1戦が終了。フランクフルトのホームで行われた初戦は1-1のドローに終わりました。第2戦は現地時間の23日、月曜日に行われます。
フランクフルトは副主将のDFマルコ・ルス選手に腫瘍がある事が判明。ルス選手には手術が必要なのですが、本人は出場を直訴して第1戦にも先発出場。相手の先制点となるオウンゴールを記録してしまいました。長谷部選手とはヴォルフスブルク時代もチームメートだったのですが、そのルス選手は警告を受けて第2戦は出場停止になってしまいました。ルス選手の事も気になるのですが、日本人サッカーファンとしては長谷部選手とフランクフルトを応援しましょう!

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